35.憎しみと真実
前回よりも1日多くかけて、俺達はトラスの森に辿り着いた。休憩は、俺のためであることは理解できたけれど、前回みたいにならないように、俺もなるべく体を休めるようにした。だからなのか、いつも以上に体調は完璧だった。
「わあ、道ができてるわ!」
「僕とラキで作ったんだ! これなら迷わないだろう?」
「そうね! 早速行きましょう!」
そう言って、シュリはどんどん進んでいこうとする。
「待って、一人で行くと流石に危ないって!」
エイルがシュリの後を慌てて追いかける。俺達も、その後を続いた。
前来たときはかなり遠くに感じたが、道ができていれば案外あっという間にその場所に着いた。大きな石は、前と変わらず存在した。大きな石をどけた後にある結晶も、変わらずにあった。
「ここね! 本当だわ! 手紙やディーレの封印と同じ結晶があるのね! ね、ラキ。早く解いて!」
「まっ、待って! 心の準備が……!」
「準備もなにも、どうせ見るんだから同じじゃない! ほら!」
俺は、周りを見渡す。ハイドさんもエイルもダイナンさんも、大丈夫だと頷いた。俺も、覚悟を決めて結晶に手を当てる。
前と同じ、解けて、空気中に弾けるイメージを。
自分の体よりも何倍も大きい結晶が光る。そして、一気に弾けた。
「凄い。手紙の時も見たけど、やっぱり綺麗だ!」
「なんだ、こんなすげーもんをお前ら先に見てたのか!? 羨ましいぜ!」
その結晶が弾けると、丁度大人一人が入れるぐらいの隙間があった。奥は、真っ暗で何も見えない。
「ランプを付けようか。シュリさん、火をくれるかい?」
「わかったわ!」
シュリは、ランプに火を灯す。ハイドさんが隙間に近付けると、奥に空洞があるように見えた。
「凄い! 中に沢山文字があるわ! 中に入りましょう!」
俺は、大きく息を吸って吐く。ゾルオは、本当はクレアとマイタンと、もう一人いたと言った。その3人目がディーレで、ディーレが本当はいいやつで、元凶が別にいて、その倒しきれなかった元凶を未来でも倒せるようにクレアとマイタンは、ディーレを封印したのだと。
何を見て、何を聞いて、その嘘を考えたのだろうか。俺がここに来た記憶は無いから、ここはゾルオも知らなかっただろうけど、スティおばあさまから聞いた事実がここにあるのは間違いない。
そして、確かに庶民向けの物語で存在した、伝説にはいない3人目。それを知ることが、俺自身を知ることになりそうで、なんだか緊張する。
「ラキ君。行こうか」
ハイドさんに背中を押され、俺は1歩中に入る。後ろから来たハイドさんの持つランプが、空洞を照らした。
「これは……。古代の文字かな」
照らした先には、沢山の文字が岩に刻まれていた。何が書いてあるのかは何一つわからなかったが、それが手紙の文字と似ていることはわかった。
「なんだあ? 俺は歴史も古文もさっぱりだぜ」
「でも、シュリなら読めるんじゃないか?」
「そうね! タリーよりはゆっくりだけど、声に出して訳して行けばいいかしら?」
「そうしてもらえると助かるよ。最初は、多分あそこかな?」
そう言って、ハイドさんは文字の並ぶ隅を照らした。シュリが、ゆっくりと読み始める。
「じゃあ、読むわね! えっと……。世界には、三人の魔術師がいた。新しく生み出す者。育て維持する者。有るものを操る者。……本当に、3人目がいたのね」
俺達は、顔を見合わせた。庶民の物語にあった3人目。それは確かにここに記されていた。
「続きよ。三人のうち、操る者は強大な力を持っていた。その力を見た王は、他国と戦争し、操る者に戦わせた。操る者は、国のために戦った。だが、操る者は人を殺すことを望まぬ、優しい人だった。操る者は、いつも殺した人を見ては泣いていた」
「何だか、ラキとそっくりな人だな。操る者は」
エイルが笑いながら言う。なんだか、その言葉に、少し恥ずかしくなった。
「戦争には勝利したが、後に恐ろしい獣、ローグと、血に染まったような赤い土、血土が現れた。操る者は戦い、血土を再生させた。生み出す者は種を撒き、維持する者はそれを成長させた。そうして、三人の魔法使いは国を救い、そして英雄となった」
「ここは3人いること以外、伝説とほとんど同じだな! 俺でもわかるぞ!」
「父上、誰でもわかります……」
誇らしげに言うダイナンさんに対するエイルの言葉に、少し笑ってしまう。シュリも笑いながら、続きを読み始めた。
「しかし、ローグと血土の数は増えていった。ある日、操る者が魔法を使った時、傍にいたうさぎが……」
と、シュリが言葉を止めた。皆、何があったのかとシュリを見る。シュリは、何故か笑顔が消え、震えていた。
「嘘よ……。そんな……」
「シュリ……?」
「ハイドさん! お願い、もう少し先も照らして!」
ハイドさんは、シュリに言われるまま先を照らした。シュリは、一人で先を読みすすめていた。
「なんで……」
「シュリ? 一体……」
「なんで……、ゾルオ先生が嘘ついてた場所が、ここなのよ……。なんで、ここが、本当で……」
俺は、シュリの言葉を考える。ゾルオ先生は言った。本当は3人いて、その3人目がディーレだと。ディーレが本当はいいやつで、元凶が別にいて、その倒しきれなかった元凶を未来でも倒せるようにクレアとマイタンは、ディーレを封印したのだと。
俺は、ディーレが元凶なのは知っている。3人目は本当にいた。だから、この3人目の存在以外は嘘だと思ってた。でも、これ以外に本当があるとすれば……。
俺はハッとして、シュリを見た。もしかして……、もしかして……。
「シュリ!! お願い、先読んで!!」
「いやよ! 読めない……、読めないわ……!」
「なんで!? それは操る者が……」
「違うわ!!」
シュリは、俺を突き放すように叫んだ。
「違うの……! そんなはず、ないのよ……」
「じゃあ読んでよ!! 違うなら!! 違うなら読んでよ!!」
「ラキ君……!」
ハイドさんが、俺を抱きしめる。そのハイドさんも、震えていた。きっと、ハイドさんもわかったのだろう。真実を。
「無理に聞かなくていい。ラキ君だけでも外に……」
「俺の事なのに……!? ねえ、読んで!! 読んでよ!! ねえ、俺の事でしょ!? 俺が知らないなんておかしいでしょ!?」
シュリが、唇を噛んで俺を見ていた。けれども、俺の願いが届いたのか、静かに文字に体を向けた。
ごめん、こんな事を読ませて。ほんとごめん。
「……ある日、ある日操る者が魔法を使った時、傍にいたうさぎがローグとなった。操る者が、ローグを生み出しているのだと皆が騒ぎ立てた。操る者を、自然が無く魔法が使えない地下深くに閉じ込めた。災いは無くなった。学者は言った。操る者の使う魔法は、自然を操る魔法ではないと。実際は、目の前にあるものを一度破壊し、再生させ、作り変える魔法だと。植物を鉄のように硬くすれば、別のどこかに綻びが生まれ、それが血土になると言った。しかし……、ローグはそれで説明できなかった」
ハイドさんが俺を抱きしめる手が震えていた。俺は、どうする事が正解だろうか。
「操る者が、意図的にローグを生み出しているのだと疑われた。生み出す者と維持する者、これを記した私達も操る者を信じる事ができなかった。私達も、操る者がローグを作り出したと攻めてしまった。操る者が、私達も敵だと認識したとき、多くのローグと血土が地上に現れた。操る者の憎しみが、無意識にローグを作っていたのだ。血土から操る者の魔力が伝わり、ローグを作り、そしてローグが生まれる事で血土が広がっていったのだ。ローグを生んだのは……」
俺も、無意識にローグを作っていたのだろうか。俺のせいで、また……。
俺は、ハイドさんを突き飛ばす。そして、外に向かって走った。
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