34.未来の希望と夢
結局、ハイドさんの調査でも、岩の中に何かがあるだろうということしかわからなかった。見つけたらシュリも一緒に最後の探索をすると言いくるめて来たのもあり、俺の体調のこともあって、今回の探索は終わりとなった。
そして俺の体調も完全に回復してきたころ、シュリの声が小屋に響いていた。
「ラキ、あなた体調を崩したって聞いたわよ! もう大丈夫なの!?」
「大丈夫も何も、もう二週間も前の話で……」
「でも倒れたのよね!? また無理してないでしょうね!?」
「今回は本当の本当に大丈夫なんだって! ほら、体も全然熱くないでしょ?」
あまりにもシュリが騒ぐから、俺はシュリの手を額に当てた。
「ほらね?」
「なっ!? ま、まあそうね! 元気ならいいわ!」
そう言って、シュリは何故かそっぽを向いてしまった。その後ろから、ダイナンにハイドさん、エイルもやってくる。
「いやあ、ラキが倒れたって聞いてびっくりしたぜ! でもまあ、ラキにローグ・ボーアの特徴を聞いてたおかげで、騎士団と魔法使い様二人でなんとか勝てたぞ!」
「まあ、今回は出現場所が村の近くだったってこともあるけどねえ。それに、畑もなにもかもめちゃくちゃにしてしまったから、やっぱりラキ君がいないことには、ってところかな」
本当は俺が行くはずだったローグ・ボーアの討伐に関しては、ハイドさんとエイルに全力で止められ、皆に任せることになった。幸い怪我人は出なかったようでほっとしているものの、思ったよりも状況は酷かった。
既存の畑はローグ・ボーアの足止めをするために水浸しとなり沼地となり、シュリが岩石を降らせたため、人が住める状態ではなくなったらしい。村人達は事前に避難してもらっていて無事で、ゆっくり国も支援しつつ村を復興していく事にはなったが、今まで住んでいた場所がめちゃくちゃになった姿を見て、涙した人もいたという。そう思うと、無理してでも行った方が良かったのではないかと思ってしまう自分もいた。
「でも、私の魔法も結構戦えるのね! 大きな岩落とせば、ローグでも一発だったじゃない!」
「いや、上手くしないと僕達も巻き込まれるだろ!? ラキみたいに岩を自由に動かせるわけでもないんだから!」
「エイルよう。その辺は作戦ってもんだ! 戦える手段があるにこしたことはねえ!」
「父上!? 確かにそうですが……」
シュリは結構大胆で、良くも悪くも大活躍したらしい。巻き戻る前はここまででは無かった気がする……、いや、どうだろう……。前にやったローグ・ウォルフを水で包んで凍らせた戦い方も、元はと言えば巻き戻る前のシュリが水をローグにぶっかけようとしたのが始まりだった気がする。
「そろそろ行こうか。先は長いからね」
そう言って、俺達は出発した。
「それにしても、どんな真実が隠されているのかしら? 気になるわね!」
「一体何なんだろうね。3人目がいるとして、戦いの途中で死んだとかなら、記録は残っているだろうし……」
「そもそも俺と同じ魔法を使えるなら、死なないと思う。弾き返しちゃうし」
「確かにその通りだわ! それなら、強すぎて国が怖がって追放されちゃうとか! 冒険の物語でよくあるのよね!」
「えっ、それだとちょっとショックかも……」
「それは違うと思う。それだとゾルオの話と繋がらない」
「それなら、追放の理由はディーレをラキが復活させちゃう力を持っているからとか!」
「そんな単純な……。いや、僕達は当たり前のようにラキがディーレの封印を解くことができるのを知っていたが、実はそれ事態が大発見だった可能性も……」
そうやって話しながら、三人でいろいろな妄想を膨らませた。実際隠された真実なんて、想像もつかない。もしかしたら、本当に追放されたとか、悲しい事実があるのかもしれない。
けれども、ゾルオよりも先に真実を知って、誰も騙されないようにする。それだけでも、少し前に進める気がした。
「そうだ! 王都に来れるようになったら、ラキも正式に騎士団に入るのはどうだ? 剣の訓練もしやすくなる! いいですよね? 父上!」
と、思いついたようにエイルが言った。
「そういえば、俺は勝手に入れるつもりでいたな! 元はと言えば、ローグと戦って欲しいってのが俺からの願いだったわけだ! ラキの意見を聞くのは忘れてたがな!」
「まったく父上は……。ラキ、父上も良いそうだ! 騎士団に入らないか?」
「えっ、も、勿論! というか、その後のこと全然考えてなかったや……」
エイルに言われて、俺は真実が明らかになった後のことは何も考えてなかったことに気付く。とりあえずローグとは戦うのだろうと思っていたが、それだけだった。
「あら、それなら学校にも来るのはどうかしら? 私もエイルも、学校に通いながら騎士団で訓練もしてるのよ!」
「学校!? 流石についていけない気が……」
「あら、私とエイルが全力で教えるわよ! ラキの頭だったら、絶対問題無いと思うわ!」
「大変だと思うけれど、知識を得るのは楽しいぞ!」
「そ、それならやってみたいかも……!」
これからの未来なんて、考えた事なんて無かった。巻き戻る前ですら、騎士団とゾルオの家を行き来するだけの生活だった。騎士団にいたとしても、訓練をするというよりは、魔法で何ができるのか、ゾルオや騎士団の人に言われたまま試す日々だった。自分で何かをするという事は無かった。
「それに、住むとこも必要でしょ? 学校には私みたいに家が離れている人向けに、寮があるのよ! 勿論エイルみたいに王都に家がある人はそこから通ってるけど、ラキはあの小屋から通うわけにはいかないもの!」
「それはいいね! ……シュリ、男が女子寮に入るのは勿論だが、女が男子寮に入るのも禁止だぞ?」
「流石にそれはわかってるわよー!!」
住む場所も代わるのか。そう思うと、少し寂しくなった。何もないあの小屋は、ハイドさんに色々と助けてもらった思い出の場所だった。そもそも、寮に入ったらハイドさんとは今までみたいに会えるのだろうか。
俺は、チラリとハイドさんを見る。ハイドさんは、ダイナンさんによると、死んだハイドさんの子供代わりに可愛がってくれているという。俺がいなくても、エイルもいるし、意外となんでもないかもしれない。でも、いや、きっとこれは、ハイドさんがどうとか関係無い。俺が、きっと寂しいのだ。
「ハ、ハイドさん!」
「ん? どうしたんだい?」
「ハイドさんと、住むのは、駄目?」
俺がそう言うと、ハイドさんは意外だったのか、大きく目を見開いた。
「え、いや、私は任務によっては何日も帰ってこないし、寂しい思いをさせちゃうかもしれないし……」
「あ……。ううん……。大丈夫、言ってみただけ……」
期待とは裏腹に、ハイドさんはやんわり断ってくるような風にも聞こえた。流石に、そこまでのお願いは本当に迷惑だったのかもしれない。そう思うと、これ以上何も言えなかった。
「ハイドよう。おまえ、忙しい中、ラキが心配だって、あの小屋に通ってたじゃねえか。今度は寮に通う気か?」
「え? あはは、そんなことは……。ほら、寮に入るとお友達が沢山できるだろうし……」
「ハイド。ちょっと危なっかしいとこもあったけどよ。ちゃんとラキに、愛情をかけて育てられてたと思うぞ! その証拠に、こんなに心を開いてくれてるからな!」
ダイナンさんが、何故ハイドさんにそんな事を言ったのか、イマイチわからなかった。ハイドさんと、もう一度目が合う。
「ラキ君。帰ってこないし日があっても大丈夫?」
「……? だってあの小屋でも大半一人だし……」
「風邪引いても、そばにいてあげられない時もあるし……」
「そん時は俺を呼べ! ハイド、こいつは自分の気持ちを言ったぞ! ハイド、お前の気持ちはどうなんだ?」
「私は……」
ハイドさんは、何故か泣きそうな顔をしていた。
「私も……、私も、ラキ君と一緒に住めたら嬉しいよ」
「ハイドさん……?」
「いや、私もね。勝手に不安になっていただけなんだ。ラキ君と一緒だね」
そう言ったハイドさんの背中を、ダイナンさんがぽんと叩いた。ハイドさんも、辛いことを考えていたのだろうか。でも、今はただ、ハイドさんが一緒に住みたいと言ってくれた事が、本当に嬉しくて仕方がなかった。
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