26.特別な友達と嬉しいこと
シュリに宥められ、ようやく落ち着いたタリーさんを見てか、ハイドさんはタリーさんのそばで跪いた。
「タリーお嬢様。こちらこそ、素性を明かさず申し訳ございませんでした。また、先ほどからの失礼な振る舞いも申し訳ございません」
「私も見習い騎士になったから、お願いして身分関係なく、エイル達と同じ感じで話してもらってるの。エイルも同期って感じで話してるから、ちょっと失礼な感じになっちゃったかもで、ごめんね?」
「いえ、私なんぞにそんな大層な振る舞いをして頂くわけには……!」
確か、ハイドさんが教えてくれたのは、本当はシュリの身分が一番上で、タリーさんも同じ身分。
その下に騎士が来るらしい。
「あ、あの……!」
皆の話を聞いていて、一番平民である俺が謝らなければいけない気がして、声を発した。
「お、俺、あの、こんな格好してるん、ですけど、本当は平民出身で、その、身分偽ってきてて、マナーも一番わかんなくて……。あ、えっと、ごめんなさ、いや、申し訳、ございません……」
「ひぇえ、そ、そ、そんな、クレア様の魔法を使える御方に、そんな、私にとってはクレア様の魔法を使えるだけで、神様に近いので……。あ、あの、皆さんと同じように普通に接してくだしゃ……! あうぅ……」
盛大に噛んでしまったタリーは、また恥ずかしそうに本を頭に被った。
「うぅ……。シュリぃ……。もうむり……」
「いいえ。こちらこそ無理言ってこんな大人数で押しかけてごめんなさい。私たち、ちょっと事情があって、私たちが3人いる理由とか、ラキが巻き戻った理由とか、色々調べてるの。それで、タリーってとてもクレアとマイタンの伝説に詳しいから、聞いてみようと言うことになって……」
「もしよろしければ教えて欲しいのですが、他に何かそれらに関する情報はご存じですか? 他にも、ディーレのことでも大丈夫なのですが……」
「ひぇ、えっと、あの、えっと……」
タリーさんは、視線をあちこち飛ばしながら、口をパクパクさせていた。
半分パニックになっているようで、再び本を被る。
「す、す、す、すいません! 暫く落ち着くまでまってくださいいい!!」
そう言って、タリーさんは最初部屋に入った時と同じように、本を被って隅で縮こまりに行った。
そうして5分ほど経った後、あっ、と、声をあげた。
「あ、あ、あの……」
「どうしたの? タリー」
「情報じゃなくて、その……。すっかり忘れてたのだけど、おばあさまが……」
「タリーに沢山本を送って頂いたというおばあさまかしら?」
「そ、そう……! シュリが来たら、是非おばあさまの家に呼んで欲しい……、って。あの……、こっそり……、って……。あの、クレア様とマイタン様の事……。私も詳しくは聞いていないのだけれど……」
その言葉に、皆顔を見合わせた。
保証は無いけれど、何か重要そうな秘密が隠れていそうな気がしてならなかった。
「それは、私やエイル、ラキも同行することはできますでしょうか?」
ハイドさんが聞くと、タリーさんは頷いた。
「た、多分、ですけど、能力を持っている人に、伝えたい事があるって……。その……。念のため聞いてみます……」
「感謝します。秘密裏に、とのことなので、よろしければシュリお嬢様経由で連絡をお願いいたします」
「は、はい……!」
能力を持っている人に伝えたい事、とは何だろうか。
それはみんな気になったのか、暫くその話題で持ち切りになった。
そうして、もうすぐ日が暮れる時間になる頃、俺たちはタリーの家を後にした。
帰りはシュリの要望で、途中まで乗せてもらうことにした。
俺とハイドさんは、用事があるため途中で下ろしてもらう、ということにすれば良いという。
「それにしても、まさか本当に伝説は3人いる可能性があるなんて思わなかったわ」
「僕も驚いた。それにしても、タリーお嬢様、本当に伝説に関して詳しい方だね。まさか庶民向けの物語まで把握されてるなんて」
「そうでしょ!」
エイルの言葉に、シュリはその言葉に喜びの声を発した。
「タリー、皆からなかなか好かれないから、ちょっと心配してたんだけど……。エイルにそう言ってもらえて嬉しいわ! 伝説に関しては私の知らないこと沢山知ってるし、何より好きなことにまっすぐだし、一緒にいて色んな発見があって楽しいの! タリーと話していると、その辺の令嬢と誰かの悪口言ってお茶を飲んでいるより、百倍楽しいの!」
そう言うシュリは本当に笑顔で、タリーさんのことが本当に好きなのだと感じた。
「た、確かに令嬢と話すときは、いつもドキドキしているよ……。裏で笑われていないか不安になる」
「タリーといるとね! 無理に作りたくもない笑顔作らなくても心から笑っていられるし、少しぐらいマナー失敗してもクスクス笑われないし、私も素でいられるから楽しいの! 人の上げ足取るのなんて、全然向いてないわ!」
どうやら、貴族の世界には俺にはわからない色々な難しい事があるらしい。
けれども、きっとそんなシュリだからこそ、巻き戻る前も今も、対等に接してくれるのだろう。
きっと、貴族社会ではありえない事なのだ。
「巻き戻る前、俺を最初に見つけてくれたのがシュリで良かった」
気付いたら、そう声に出していた。
シュリが驚いたように、俺を見る。
「本当に!? 本当にそう思ってくれてるの!? 巻き戻る前の私、最高だわ!」
「え!? うん、だって、シュリじゃなかったら、あんなふうに助けてくれなかっただろうし……」
「嬉しい! まさか神様にそう思われていたなんて、思わなかったわ! 私だって、あの時助けてもらったのがラキで良かったって思ってるもの! 本当に、あの時は安心したわ!」
嬉しそうにするシュリをよそに、何故かエイルは不満そうな顔をした。
「ま、待ってくれ。僕はどうなんだ!? 僕だってラキの最高の友だったのだろう!? 確かにラキの話で、僕のかっこいいところは出てこなかったかもしれないが!」
「え、いや、勿論エイルと友達になれて良かったと思ってるよ!」
「そういうのではなくてだな……。その、ほら、シュリみたいな特別感のある……」
「あら、私は出会ったときから、ずっとまた神様に会いたいと思っていたのよ? なのに神様の招待を知るのはエイルが先だったじゃない。思い出の特別は私にくれたっていいじゃない!」
「えっと……」
突然、よくわからない言い争いをし始めて、俺は慌てた。
別にエイルだって、巻き戻る前も特別な存在であることは間違いなかった。
だって、初めて出来た友達だったのだから。
「それでも、巻き戻った後は、一番時間を共にしている私が一番じゃないかな?」
と、ずっと黙って聞いていたハイドさんが、突然そんなことを言い始めた。
そう言うハイドさんは、なんだか来る前いたずらした時と同じ顔をしている気がした。
「ラキ君。そろそろ降りないとね。シュリさん、馬車乗せてくれてありがとう。また様子を見に来るよ」
「あ、ハイドさん、抜け駆けズルい!」
「そうですよ! 僕の事に関して何も聞いていない!」
「あ、えっと、エイルは、初めて出来た友達、だから、特別……」
「そうか! 僕もラキに救われたからね! ラキもそう思ってくれていたのなら嬉しいよ!」
騒がしい馬車の中を、俺とハイドさんは降りた。
俺は、さっきのあれはなんだったのだろうと、ハイドさんを見る。
「ラキ君は、あの二人にとって大切な友達って事だよ」
「そう、そうなんだ……」
なんとなく、ずっとあの二人にしてもらったことを返さなきゃと思ってたから、不思議な感じだった。
俺はやっと、二人に返すことができたのだろうか。
「ふふっ、ラキ君は愛されてるねえ」
「俺が、愛されてる……?」
「うん、そうだよ。沢山の人から愛されてる。ラキ君の優しさが好きな人多いんだと思うよ」
「いや、そんな、そもそも知ってる人すら、ほんと数える程度しか……」
「その少ない中でこんなにも愛されてるなんて、十分じゃかいかな」
十分、なのだろうか。
そもそも沢山の人と出会っているわけではないから、俺にはわからない。
「とにかく、次はローグの件で会うと思う。次は、鹿さんだっけ?」
俺は、ハッと現実に帰る。
そうだ。俺はハイドさんとダイナンに対して、どんなローグが出るかとだいたいの場所について、予言をした事になっている。
次は、大きく鋭い角を持った鹿、ローグ・ディアが出る。
そして、騎士団の調査にこっそり同行し、姿を現して助けることになっている。
更にそこで、次の予言をして見せる。
「次回以降、シュリさんとエイルも参加することになっているんだ。シュリさんが事前に種を撒いて、エイルが草木を生い茂らせてローグを動きにくくする。蔓も沢山増えるし、ラキ君も動きやすくなると思う」
「わかった。俺も、結構動けるようになったから、上手く対応できると思う」
実際、剣を使うよりも前に、魔法を見せるようになってしまった。
けれども、実際に訓練したおかげで、騎士団にこっそり同行する事も、あくまで魔法も使ってだが素早く場から逃げることもできるようになった。
その日の事を考えると、やっぱり緊張はする。
けれども、皆がいてくれるから大丈夫。
今はそんな風に思えるようになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます