25.消えた三人目と新たな謎

「ハッ、夢」


暫くして目をさましたタリーさんは、そう言って飛び起きた。


「そうよ。銀髪の神様が私の目の前にいるなんて……」

「おはよう、タリー。銀髪の神様ならそこにいるわよ」

「はうぅ……」


もう1回気を失いそうになったタリーさんを、シュリは叩き起こした。

シュリ曰く、これがタリーさんの日常なので気にしなくて良いらしい。


「な、なぜ、かみしゃまが……」

「いや、俺は神様じゃ……」

「いいじゃない。ね、神様。あなたの魔法を見せてあげて」


シュリにそう言われたので仕方なく、俺はカップに注いであったお茶を浮かせてみせた。

そのお茶を凍らせて、コップの中に紅茶が凍ったものを戻す。

多分、室内でできる範囲ではこれが一番面白いと思う。


「あうぅ、しゅごい……! これはクレア様の魔法の一つの、自然を操る魔法……! ある説ではこれでローグ達を倒したとか……。自然のあるべき姿すら変えてしまう、なんて恐ろしく、そしてカッコイイ魔法……!」


タリーさんは、目をキラキラさせて俺の凍らせた紅茶の入ったカップを上に掲げた。

既に周りの様子など目に入っていないようだ。

暫くぶつぶつ何かを呟いた後、タリーさんはそのキラキラした目で俺を見た。


「あの……! もし許されるのであれば、教えてくださいませんか……? あなた様はどういう存在なのでしょうか……? どの文献も、物語も、クレア様とマイタン様が啓示を受けたなどという記述は無いのです……! しかも今回聞くに、シュリにはクレアのお力の一部しかお与えになっていない……。それどころか、あなた様自らローグに手を下している……! その理由は何故なのか、あるいは私たち人間が違う事実を伝えていたのか、どちらなのでしょう……?」

「えっと、タリーさん? あの、俺は神様じゃ……」

「ああ、かみしゃまに名前を呼んで頂いた……! 私もういつでも死ねる……!」

「あの、お願いだから聞いて!!」

「はいぃ……!! 申し訳ございません!!」


そう言ってタリーさんは姿勢を正した。

俺がシュリを見ると、シュリは今話してと頷いた。


「騙すような事をしてごめん。俺、神様じゃないんだ。俺も、シュリとエイルと同じ。シュリが使えなかったクレアの魔法の中の、自然を操る魔法を使えるただの人間なんだ」

「へ……? でも、あなた様から魔法を教えて頂いたと、シュリから……」

「それは、えっと……。理由はわからないんだけど、俺、一度16歳の時から時間が巻き戻ってて、それで、ほんのちょっと未来のことを知ってて……。でも、全部じゃないし、俺の知らないことも沢山あるし、ほんとに神様じゃないんだ……」

「巻き戻った……! そんな記述はどこかにあったかしら……。いえ、そんな記述は見たことない……。つまり、新しい可能性……! それに、クレア様の魔法が二人で別々に使える理由……。そうだわ、900年程前に書かれた古代の物語達……」


そう言って、タリーさんは慌てて本棚へ走っていった。


「クレアとマイタンが実際にいたとされるのが1000年前なの。900年前というと、それから少しあとになるわね」


シュリの言葉に、俺も期待が高まった。

何かヒントになる事でもあるのだろうか。

それが解決の糸口になる可能性があるのだから、嬉しくて仕方なかった。


暫くして、大量の本を持ってタリーさんが戻ってきた。

俺たちの存在は忘れているのか、無我夢中で読み始める。


「タリー? 私も読んでいいかしら」

「ええ。好きにして」

「ふふっ、皆、こうなったらタリーは周りを気にしないから、皆好きに読んでいいと思うわ。これとか、現代語訳されているから、誰にでも読めると思うの。どれも庶民向けの本だから、読みやすいと思うわ」


そう言って渡されたのは、絵の多い本で、俺でも簡単に読むことができた。

その本には確かに3人の魔術師がいて、俺達と同じように3人でローグのようなものを倒していた。

物語はローグを倒して村を救って終わりの物語で、ディーレの封印などは出てこない。

けれども確かに、この3人の戦い方は俺達の戦い方そのものだった。


「ふむ。これが庶民の間で伝わっていた物語だと考えると、実際、最初は3人いてもおかしくないね。でも国に正式に残る文献では2人ということは、途中でいなくなったのか……。ディーレに似た存在もいなさそうだから、ディーレが現れたのとも何か関係が……」

「……!! あなたもそう思いますか……!」


ハイドさんがそう呟いていると、タリーさんが本から顔を上げて、ハイドさんへ詰め寄った。


「そうなのですよ! 国が歴史としている伝説では、ディーレがローグを呼び起こし、それをクレア様とマイタン様が倒し、最後にはディーレを封印したという流れがベースなのです! これらは平民が語り継いだ物語のため、ディーレの存在自体が伝わっていなかった可能性もありますが、そもそも今現在もディーレが封印されたままローグの活動が活発化してきていることも不思議なんですよね。ディーレの封印が解けてきているのかと思いましたが、別の原因の可能性も……」

「別に原因がある可能性は低いと思いますよ。ラキ君、あ、銀髪の神様が巻き戻る前の話に、復活したディーレがローグを呼び出している様子を見たというものがあるそうです」

「……!? 未来にそんな事が……! 伝説の再現があったというの!? 不謹慎だけど、一度見てみたい……! ああ、巻き戻った原因も気になって仕方がないわ……! それに、今のを聞くとやはり、今ローグが現れている原因は、ディーレの封印が解けているから……」

「ハイドさん、封印の事、タリーに話してもいいかしら?」


シュリの言葉に、ハイドさんは頷いた。


「タリー、実はね。私とエイルで封印の結晶を覆うように、再度同じ結晶を作って定着させてみたの。伝説と同じように。けれどもその後ローグが現れたと聞いたから……」

「なるほど……! ディーレの封印が解けたわけではない……! それでは、第二のディーレがどこかに……?」

「タリー、お願いだから、このことは秘密ね! 勿論銀髪の神様の正体の事も! あなたの知識を借りたくて……」

「勿論です!! クレア様の力を使えるシュリの言葉、命に代えても守ります!」

「ふふっ、ありがとう!」


一度封印を強化しようと試みていたことは知らなかったので、驚いた。

けれども確かに、ディーレの封印方法は知っているのだから、それを試していてもおかしな話ではなかった。


それに、ハイドさんとタリーさんの話を聞いて、不安なことも増えた。

間違いなく、この物語に出てくる中の、自然を操る魔法を使える人が俺だ。

そして、自然を創造できる人は女性で、クレアも女性であるから、恐らくだが伝説から消されたのは俺と同じ魔法を使える人だった。


「なんで俺と同じ能力を使える人は伝説から消えたんだろう……」

「あの、ハイドおじさん。恐らく過去の人たちも、僕たちと同じように研究していると思うのですが、そういった途中経過の記録は残っていないのですか?」


エイルの発言に、ハイドさんも難しい顔をする。


「残念ながら、今のところ見つかっていないんだ。そもそも文書として保管する技術も限られていたのもあるけれどね。一度ディーレの封印が上手くいかなかったとき、他に原因がなかったのかを調べたけど、ディーレが原因と記載ある物しか出てこなかったそうだよ。勿論、庶民の間で流通している物語までは管理していないし、隅々までは調べられていないと思うけれど……」

「シュ、シュリ……」


と、先ほどとは変わって弱々しい声をしたタリーさんが、シュリに尋ねた。


「こ、こ、こ、この人って、えっと、エイルさんの護衛って……。でも、さっき……、おじさんって……」

「あ、紹介するの忘れてたわ! 彼はハイドさん! 王直轄の騎士団に所属する凄い騎士の方よ! あまり表に出ずに、裏で色々動いてるの。今回の件で色々と調べてる方! エイルの、それに、私も見習い騎士になったから、大先輩ね! エイルは小さい頃からお世話になっているそうよ!」


シュリの言葉に、タリーは一瞬固まった。


「ひ、ひぇ~! 先ほどは失礼いたしました~」


そう叫んでまた本を被るものだから、シュリが慌てて宥めていた。

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