23.真実と嘘の境

「ね、ねえ……。私、心配なことがあるの……」


先程の話が落ち着いた後、シュリが深刻な顔をして言った。


「私、神様の事、ゾルオ先生に沢山話してしまったわ」

「それは大丈夫だと思うよ。寧ろシュリさんのおかげで混乱しているようにも見えたかな。ゾルオ先生は、クレアとマイタンに力を伝えた存在がいるんじゃないかって文献を探しているようだったよ」

「そう……! それなら良かったわ! 確かに普通は思わないわよね。クレアが使えたはずの自然を操る魔法と、自然のものを自由に創造する魔法、それぞれ使える人が違うなんて。それに私、ラキが自然を操れることは知らなかったもの。真面目にクレアの魔法が使える私ならできるんじゃないかって、自然を操る魔法を練習してたわ」


それを聞いて、俺は少し安心した。

それと共に疑問が一つ湧き上がる。

今の時期、ゾルオはもう俺を引取っていたはずだ。

けれども、調べているのは全く別のこと。

つまりは、俺がディーレを復活できると知らずに俺を引き取ったということだ。


「それにしても、シュリお嬢様はほんと伝説に詳しいな! 俺なんて歴史の授業は寝てたからな!」


と、ダイナンがシュリに笑いながら言った。

それを見て、エイルが呆れたようにため息をつく。


「父上は、もう少し勉強すべきだったと思います。僕から見ても、この国の歴史に関する知識が……」

「戦いには関係ねえぞ! 難しい計算とかも、得意なやつに任せておけばいいからな! それに、作戦を考えるのだけは得意だ!」

「そこは尊敬するんですけど……。いや、ある意味適材適所というやつなのか……」


そんな親子のやり取りを見て、シュリは笑った。


「ふふっ。友人に、私よりも伝説にハマっている人がいるの。色々聞いているうちに、私も好きになってしまったの」

「同じ伝説のはずなのに、少しずつ物語や解釈が違うからねえ。……その伝説の中に、実は魔術師は3人いた、なんていう話はなかったかい?」


と、ハイドさんがシュリに尋ねた。

その質問に、俺を含めて皆驚いてハイドさんを見る。

そりゃそうだ。

ハイドさんが聞いたのは、俺が先程話したばかりの、ゾルオに騙された時に言われた嘘の伝説なのだから。


「ハイドさん、それはゾルオの嘘で……」

「あながち全てが嘘ではないかもしれないよ。嘘をつく時は、真実の中に混ぜ込むのが一番効果的だからね」


ハイドさんの言葉に、俺は首を傾げる。

いまいちピンとこなかった。


「ラキ君からゾルオに騙された話を聞いたとき、ゾルオ先生の事を色々調べたんだ。先程言ったとおり、ラキ君から聞いた事とは全く別のことを調べていた。彼は大前提として学者だ。根拠を元に研究を進めている。だから、ラキ君に会って調査をして、何かしらのヒントを得た可能性がある」

「俺がキッカケ……」

「ラキ君が気にする必要は無いよ。多分元々ディーレの復活は頭にあったとは思う。そのために、巻き戻る前と今でヒントが違うから、調べるものも変わってきている。でも、ラキ君の存在が知られると、ゾルオ先生が巻き戻る前に軌道修正する可能性が高い」

「でもラキが再び同じように騙されないなら大丈夫じゃないのか?」


エイルの言葉に、ハイドさんは首を振った。


「ラキ君が駄目なら、別の手を考えるだろうね。もししっかりした文献があると仮定すると、最悪国王や決定権のある人物を騙す可能性もある。ゾルオ先生は、あくまでクレアとマイタンの伝説の第一人者だからね。そういう意味では信用してもらいやすいんだ」

「でも、ラキが巻き戻ったこととか、その時に起こったこととか話したら……」

「そのためには、本当に未来を知っている事を証明しなければいけないね。ラキ君が本当に何でも知っている神様なら良かったよ。でも、ラキ君が証明できるのは、恐らく次に出るローグの場所ぐらい。しかも、1ヶ月に1度出るレベルだ。しかも不確定な要素も増えてきているから、外れる可能性もあると思っているし、ちょっとリスクが高いんだよね」


その言葉に、俺は俯いた。

確かに、色んなことが少しずつ変わっていた。

もし、俺が最初から王都へ行って、シュリやエイルの力を話していたら、もう少し未来は予測できたのだろうか。

それとも、俺がきっかけでゾルオが悪いことを思いついて巻き戻る前と同じ未来を迎えたのだろうか。

わからない。

わからなくて、余計に俺のせいなのかと感じてしまう。

けれども、その素振りを見せないように、俺は平然を装った。

皆せっかく勇気付けてくれたのに、また困らせてもしつこいだけだ。


「なあ、ハイド。難しいことはわかんねえから、単刀直入に言ってくれ。上手くいくためには、どうすればいいんだ?」

「絶対的な作戦ではないんだけどね。私達がゾルオ先生の見つけた根拠全部見つけちゃったらどうかな?」


ハイドさんの発言に、まだ頭が追いついていない。

皆も同じなのか、難しい顔をして考え込んでいた。


「だって、ラキ君を見れば、間違いなくシュリはさんのできなかった、自然を操る力ってわかるでしょ? そしたら絶対皆疑問に思うはずだ。何故伝説では2人なのに、現実では3人いるのかって」

「そうか。その3人の理由を事前に証明できれば、ゾルオ先生は嘘をつけなくなるのか!」


まだわかっているようでわかっていない俺をよそに、エイルが閃いたように言った。


「そう。その後、ゆっくり未来がわかるか証明すればいいよ。それまでは、そうだね。今回の件も、ローグ・ベアとの戦闘中、シュリさんの言う『神様』が助けてくれた。『神様』は、クレアとマイタンの全ての魔法を使えるようにも“見えた”。『神様』は戦いが終わるとどこかに消えてしまった。とでも言っておこうか。ああ、その『神様』が現れて、次のローグの場所を予言してくれた事にしてもいいね。その方が、巻き戻った事実も早めに証明できる。」

「なるほど、確かにそれだと、ゾルオ先生も『神様』の事を調べ続けるし、ラキも戦闘に参加しやすい! しかも、嘘は『神様』が全ての魔法を使ったように見えたっていう、勘違いでも通用するような部分だけ! なるほど、これが真実の中に嘘を混ぜ込むということか! ハイドおじさんは凄いですね!!」


エイルが興奮したように言った。

おれもようやく、理解できるようになってきた。

なるほど、ハイドさんは流石、王国直轄で単独で裏で動くタイプの人だ。

ある意味、敵に回したくない。


「父上みたいな騎士に憧れていたけど、ハイドさんみたいな頭を使う騎士もカッコイイな〜。それに、ハイドさんは父上みたいに力は無いけど、速くて相手の隙を付くのが上手いんだ。ハイドさんみたいな騎士になるのもいいなあ」

「おいてめえ、俺が脳筋って言っているような言い方じゃねえか」

「……だって事実」

「エイル〜!!!」

「まあまあ、落ち着いて」


ハイドさん二人をがなだめる。

まあでも確かに、この説明を唯一すぐに理解できたのはエイルだった。

巻き戻る前のエイルの剣もハイドさんに近かったし、ハイドさんみたいな騎士にもなれる気がする。


「まあ、それにはシュリさんの助けが必要なんだけどね」

「えっ、私ですか!?」

「そう。さっき、友人に伝説に詳しいって人がいるって言ってたでしょ? 伝説って、結局言い伝えとかを文献として扱ってるからね。伝説に詳しいご友人なら、何か知らないかなと思って」

「確かに、彼女の家には色んな本があったわ。おばあさまから頂いたとか。家に行けないか、聞いてみるわ。ただ、ちょっと……」

「ちょっと……?」


ハイドさんの言葉に、シュリは困ったように笑った。


「私はとても大切で好きなお友達なのよ? だけど、極度の人見知り……、かと思ったら、伝説の事は早口でひたすら喋ってる……。ちょっと、変わった子なの」

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