21.再開した少女と慣れない会話
次の日の朝、俺は落ち着くことができず、小屋の中を行ったり来たりしていた。全てを話すこともそうだが、そもそもシュリと会うのは久々で、しかも会ったのは1回きりだし、エイルとの対面も昨日が初めてだ。そんな相手に、俺は巻き戻っていて、三人で血土とローグに関して色々やってて、ゾルオに騙されてディーレを復活させてしまいました、なんて話したところで、余計に引かれる気しかしない。
そう思ってハイドさんにも別に相談したけれど、エイルも一部始終を聞いてしまっている関係上、下手に隠すよりは良いと言われてしまった。シュリも仲間外れにするわけにはいかないと。巻き戻る前は仲良かったのなら今回も大丈夫だと言われたが、その二人に最後は軽蔑されてしまっている。
いや、仲良くなる前に軽蔑された方が、まだマシか……。
そういう結論に達したあたりで、いくつかの足音と、ノックの音がした。
「おーい、ラキ! いるか?」
俺は恐る恐る扉を開けた。その瞬間だった。
「神様!!」
何かが、俺の方へ向かって飛びかかってきた。それが何かを理解し、俺は無意識に風のシールドが発生してシュリを弾き飛ばさないように耐える。けれども、彼女が俺に思い切り抱きついてきたから、支え切れずに倒れてしまった。
顔をあげると、前とは違って長い栗色の髪を後ろに結び、子供向けの見習い騎士の服を来たシュリの姿があった。
「やっぱりあなた、あの時の神様ね! また会えるとは思わなかったわ! どこに隠れてたのよ!」
「あの、聞いてると思うけど、俺は神様じゃなくて……」
「あら? 私にとっては神様だからいいのよ? あの時ちゃんと助けてくれたお礼は言えてたかしら? 本当に助けてくれてありがとう。あなたがいなかったら、私は間違いなく死んでたわ!」
「ど、どういたしまして……」
どう反応したら良いかわからず、他のみんなの方を見ると、何故か微笑ましそうな目で俺を見ていた。そんな事より助けて欲しい。そう思ったのに、口を開いてくれたエイルから発せられたのは、こんな言葉だった。
「シュリは、ラキの話ばかりするんだ。君との出会いは、耳にタコができる程聞いたよ」
「そうだ! 名前もエイルから聞いて初めて知ったのよ? 何故エイルには教えてくれたのに、私には教えめくれなかったの? 私もラキって呼んでいいかしら?」
「ど、どうぞ……」
グイグイと攻めてくる感じは、巻き戻る前に初めて会った日にもなんだか似ている気がした。昔は嬉しかったけれども、今となっては恥ずかしい。
「そろそろどいて欲しいんだけど……」
そう言うと、シュリはやっと気付いたかのように体をどけてくれた。けれどもシュリの話は止まるところを知らなかった。
「そうだわ! ねえ、ラキ。見て! 私も見習い騎士になったの! ドレスなんて窮屈な服なんて、森を歩きにくいわ」
そういえば、以前ハイドさんとこっそり見た時はまだドレスを着ていた。何か変化でもあったのだろうか。
「そうなんだ。……おめでとう?」
「ありがとう! 皆を説得するのは苦労したのよ! 今時、女騎士も沢山いるのに! それに、自分でも身は守れる方がいいに決まってるわ。あ、そうだ!」
シュリは、俺の練習用の剣を指差した。
「あなたも剣を習っていると聞いたわ! 勝負しましょ!」
「え、いや、え?」
「ずっと練習してるエイルには絶対敵わないもの! ラキとだったら、良い勝負ができる気がするわ!」
「いや、俺まだ基本の動作しか……」
「私もよ!」
こんな子だっけと、俺は遠い目をする。俺の記憶では、もう少し落ち着いている人だった気がする。いや、それはあくまで、成長したシュリの話だっけ。
俺が戸惑っていると、ダイナンさんが大きく笑いながら言った。
「いいじゃねえか、やってみろ! 俺がそのやり方をおしえてやらあ!」
「じゃあ決まりね! 外に出て!」
そう言って、シュリは外へ駆け出して行った。
なんのために彼女は来たんだっけと思っていると、エイルが俺の肩をぽんと叩いた。
「僕も魔法が使えるとわかると、練習に何時間も付き合わされた。ああなると止まらない」
エイルもなんだか、遠い目をしていた。俺は諦めなければいけないと悟る。練習用の剣を持ち、外に出た。
勝負と言っても、流石に基本の型を相手に試してみつつ、受ける練習をする、程度のものだった。それ以上は駄目だとダイナンさんに言われたが、実際にやってみると、シュリは緩急を付けてフェイントをしてくるのだから、少し怖い。最悪俺は魔法で守ればいいし、意図しなくても勝手に風のシールドで守れるけど、手が滑ってシュリが怪我しないか心配だ。
ただ、流石に始めたばかりの剣、心配したよりも避けるのは容易かった。シュリの方が時折目をつむってしまい、受け切れない時もあった。
「もう、なんで、そんな、余裕そうなの!」
「いや、普通にこの速さなら誰でも……」
「できないから言ってるの!」
そう言って、シュリはがむしゃらに剣を付いた。その剣が流石に顔に当たりそうで危ないと思ったところで、俺は蔓を操って剣を止めた。
「あっ、ズルい!」
「そこまでだ!」
ダイナンさんが、手を大きく叩いて終了の合図をする。俺は、大きく息を吐いて剣を下ろした。
「今のはシュリ、おまえの方がズルい。あくまで型を学ぶ練習と言っただろう」
「だって……」
シュリは明らかに不貞腐れていた。そう言えば、負けず嫌いな所もあった気がする。
「ラキとの差を埋めるには、まず目を閉じないようにしないとな!」
「ラキは流石だ! 僕でさえまだ目を閉じてしまうのに、ラキは一度も相手の剣から目を逸らさなかった。あの熊と会った時もそうだ。大きな爪で攻撃されても、微動だにしなかった」
「そんな、慣れたら平気になるよ。ハイドさんもダイナンさんも平気だったでしょ?」
「ラキ君……。私達は何十年も経験を積んでいるんだよ。その年で慣れるような経験をするなんて、普通はないからね」
ハイドさんがそう言った瞬間、皆何故か静まり返った。
「身体も暖まった頃だし、そろそろ本題と行くか」
ダイナンさんがそう言った時、今まで忘れていた緊張が、再び喉まで上がってきた。
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