19.本物の親子と愛情
一先ず俺は、風のシールドを張った。と、同時に3頭のローグ・ベアが飛び掛かる。
「ひっ……!」
「大丈夫、向こうからの攻撃は届かないから」
エイルは腰が抜けたのか、その場にしゃがみ込んでいて震えていた。
当たり前か。攻撃を受けないとわかっていたとしても、微動だにしなかったあの二人がそもそもおかしいのだ。
けれどもその先が問題だ。1頭ずつであれば、先ほどのように蔓で縛り付ければ良い。けれども複数頭であれば、片方を縛り付けても、片方に蔓を引きちぎらせる可能性がある。
複数頭を縛り付けるには、恐らく蔓が足りない。俺は蔓を自由に動かせても、伸ばすことができない。
本来の作戦でも、複数頭いれば風を使って押し返し、逃げる予定でいた。けれども、今のエイルを見ると、逃げることも難しそうだ。だけど。
俺は、巻き戻る前、エイルと一緒に戦っていたことを思い出す。
「エイル、魔法は使えそう!?」
「えっ、ぼ、僕の魔法は、ただ草木を成長させることしか……」
「それをして欲しいんだ! 特に蔓! いや、木も草も! 3頭仕留めるには、長さが足りないんだ!」
エイルは、ハッとして、そして立ち上がった。イメージをするためか、目を閉じる。
「草木よ、育て!」
その瞬間、周囲の木々が一気に大きくなる。木に巻き付いていた蔓も、草もどんどん伸び、森の先が全く見えなくなった。
俺はそれを使い、3頭ともを蔓で縛り付け、剣のように固くした木で突き刺した。力尽きた3頭の死体。俺は、どっと力が抜けた。
「エイル、大丈夫?」
「あ、ああ。助かったよ。感謝する」
「それじゃあ、そろそろ帰らないと……」
「ま、待ってくれ!」
崖上の様子を見に行こうとした俺を、エイルは引き留めた。
「君は……、えっと、ラキと言ったか? 君は神のように、なんでも知っているとシュリが言っていた」
「いや、なんでもってわけじゃ……」
「知っていたら教えて欲しい。僕は、父上の、騎士団長ダイナンの息子なのか!?」
「えっ……?」
俺は、驚いてエイルを見た。
「ど、どういうこと?」
「皆に言われるんだ。僕は父上に似ていないと。髪色も、父上が茶色で、母上が赤茶色で、親戚もみなその色だ。その中で、僕だけが金髪なんだ。しかも、体格すら全く似ていない。……母上に似ていると言われたらそれまでだが、力もないし、本当に父上の子なのかと皆に笑われるんだ」
知らなかった。エイルがこんな悩みを持っていたなんて。巻き戻る前は一度も聞いたことがなかった悩みだった。それに俺は神様じゃないから、本当のところはわからない。けれど、俺自身の考えとしては、思うことがあった。
「俺は、エイルとダイナンさんは親子だと思う」
「本当か!? 本当に僕と父上は親子なのか!?」
「俺は神様じゃないから、本当のことはわからない。けれども、そっくりだったんだ。俺の魔法を見た時の反応が。興奮具合とか、すぐ戦闘を想定した使い方をイメージしたところとか。ああ、親子なんだなって、思ったんだ」
「そうか……。僕と父上は、親子に見えるのか……」
そう言って、エイルは嬉しそうに笑った。俺もそんなエイルを見て、嬉しくなった。
「ありがとう。気持ちがとても楽になったよ」
「いや、俺は何も……」
「君のおかげで救われたのは事実だ。本当にありがとう」
「いや、そんな……。あ、でも、そろそろ戻らないと。二人とも心配してると思う」
俺は崖の上を見上げた。崖の上の状況は見えない。けれども、どうにもならない高さでもなさそうだった。
「エイルが蔓を伸ばしてくれたおかげで、蔓で持ち上げて届く長さになってると思う。足りなかったら、また伸ばして欲しい」
「なるほど、君の魔法を使えば良いのか!」
俺は、ローグ・ベアを縛っていた蔓を解いた。ダイナンさんの剣ではなく殺された死体が見つかっても良くないから、後で土に沈めておこう。俺は2つの蔓を動かして、エイルと俺の体を縛り、持ち上げた。
この長さなら、十分持ちそうだ。
崖の上に着くと、ハイドさんとダイナンさんが一斉に目を見開き、こっちを見た。
「あっ、ハイドさん……」
「エイル!!」
そう叫んだハイドさんは、俺の事は見向きもせず、エイルのもとへ駆けていった。
「エイル、大丈夫だったかい? 怪我はないかい?」
「ハイドおじさん! ご迷惑をおかけしました。ラキに助けられ、無事、無傷です」
「良かった……」
ハイドさんは、エイルの事を昔から知っていると言っていた。魔法が使えると伝えた時も、人一倍驚いていた。
『子供にできなかったことを、おまえに重ねている部分もあるだろうなあ』
ダイナンさんがそう言ったのは、ハイドさんはがエイルに対してもそうだったからなのかもしれない。俺とエイルは同い年だから、きっとそうなのだろう。エイルは小さい頃から可愛がっているのだから、一か月と少ししか出会ってから経っていない俺よりも気にするのは当然のことだろう。
だから、寂しいなんて感じてはいけない。ハイドさんは、俺だけのものではないのだから。
「ラキ」
と、ダイナンさんが俺を呼んだ。
「息子を、エイルを助けてくれたことに感謝する。ラキがいなかったら、私やハイドでは助けられなかっただろう」
「いや、そんな、俺はただ……」
「これは俺の監督ミスでもある。本当に、感謝する」
そう言って頭を下げたダイナンさんに、どう返事して良いのかわからなかった。けれども、一先ずエイルを助られた。それは本当に良かった。
「父上!」
エイルは、ダイナンさんの前に立ち、頭を下げた。
「本当に、申し訳ありませんでした!」
「謝罪は散々聞いた」
「いえ、本当に僕は何もわかっていませんでした。僕は父上が、最前線に立って敵を倒していくイメージしかなかった。けれども、今日見た父上は、時が来るまで彼の出す守りの中にいて、そして必要な時に動いた。それが父上の役目だったから。それに気付けたのは、下で、父上と同じ役目をラキから与えられたからでした。そして、僕にしかできない役目もあった。……僕はまだ見習いでしかありません。僕の役目は、騎士団の皆さんが任務に快く行けるようお手伝いをすること、そして基礎を積み、騎士団の方から学び、技術と知識をつけ、未来の騎士団の役に立つことでした」
「……そうか」
ダイナンさんは、それに対して何もコメントはしなかった。けれども背を向け、そして言った。
「明日から訓練に参加しろ。ただし、次は無い」
「はい……! ありがとうございます!!」
エイルは再び頭を下げた。俺にはそんなエイルが、まぶしく見えた。
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