18.親子と認められたい気持ち
「エイル!!」
一番に飛び出したのは、ハイドさんだった。
ハイドさんは草むらに隠れていたエイルの前に守るように立ち、ローグ・ベアに剣を向ける。
俺も慌てて二人に風のシールドを張り、そちらに気を取られているローグ・ベアの足へ蔓を絡ませた。
引っ張ると、大きな体のローグ・ベアは、簡単に体制を崩す。
その隙に、俺は蔓をローグ・ベアの全身に巻き付けた。
手の先までしっかり縛ったことを確認すると、俺はとどめを出す準備を始めた。
(蔓よ 鉄のごとく硬くなれ)
本当はこのまま、剣のように鋭くした木で思い切り突いても良いのだが、ダイナンさんが試してみたいということで、とどめは力のあるダイナンさんに行ってもらう。
「ダイナンさん!!」
俺がそう言うと、後ろにいたダイナンさんが飛び出し、一撃で心臓を突いた。
普通の騎士であれば、一度の突きでは軽く傷を負わせて終わる。
やはりダイナンさんは、流石だった。
「やったか」
ローグ・ベアは、暫くは暴れていたが、暫くして力尽きた。
「ラキの言ってた通り、かてえな。というか、肉が厚い。俺でも相当力が必要だった」
ダイナンさんが汗を拭く。
ハイドさんも安心したのか剣をしまい、体を楽にしていた。
「俺の目でローグというやつを見れて良かったぜ。騎士団だけで討伐の可能性が出てきたとき、下手な編成だったら、確実に死者がでることは間違いねえ。それとだ」
ダイナンさんは、ギロリとハイドさんの裏で縮こまっていた金髪の少年、エイルを睨む。
「おい、エイル。何故おまえがここにいる」
「ち、父上……。それは……」
「言い訳などしたら、どうなるかわかってるだろうな!?」
「も、申し訳ございません!!」
ダイナンさんが怒ると怖いというのは、巻き戻る前でも有名だった。
そういえば巻き戻る前、一度だけ元気を酷く失くしたエイルを見たことがある。
その時に言った言葉を、今更思い出した。
『今の自分でも大人と同じぐらい父上のお役に立てることを証明したくて、父上の後をこっそり着いていったんだ。結局父上に見つかって……、色々こってりと絞られたよ……』
エイルは、父親であるダイナンさんに異常に憧れを示していた。
剣の振るい方や体格まで、ダイナンさんに近づこうと食事から、成長に悪いからと途中で止められたトレーニングまで、がむしゃらにこなしていた。
結果、成長したエイルは体格だけはダイナンさんよりもかなり細かったが、その分動きが速く誰も追いつけない剣捌きが出来るようになっていた。
「……ここへ来た、理由を言え」
ダイナンさんは、今までに聞いたことがないような低い声で、エイルに言った。
「……僕も、子供の僕でも、騎士団の皆みたいに父上の役に立てることを証明したくて……」
「余計に足を引っ張ったことをわかっているのか!」
「……はい」
「俺の息子であろうが関係ねえ! 騎士団で自分に与えられた役目を理解せず、己の実力を理解せず、今自分がやるべきことをやらねえ! そんなやつ、騎士団には不要だ!!」
「申し訳ございません!」
そう言うエイルの目には、涙が滲んでいた。
「もういい。しばらく騎士団の練習には来るな」
「そ、それは……!」
「一度頭を冷やせ。そして言ったことをよく考えろ」
「そんな事したら、皆から遅れてしまいます!」
「だったらどうした。今のおまえのままだと、一生あいつらには追い付けねえよ」
「そんな……」
エイルは、拳を握りしめて、唇をかんだ。
そして、背を向けて走り出す。
「……っ。一人で動いてはいけない! 待ちなさい!」
焦って追いかけようとするハイドさんの理由に気づいて、俺もエイルを追いかけた。
そう、ここにローグ・ベアは一頭とは限らない。
住んでた村の近くのローグ・ウォルフ時の事を考えると、複数頭いる可能性が高かった。
それに気付いたダイナンさんも、舌打ちをして駆け出した。
と、目の前に走っていたエイルが、一瞬のうちに見えなくなった。
先に行っていたハイドさんとダイナンも、一瞬足が止まる。
ふと、ここの地形を思い出した。
俺はハッとして、そしてハイドさんとダイナンの隣をすり抜けて飛び込んだ。
その先は崖だった。
エイルが崖に落ちたのだ。
(風よ エイルを包み込め)
上昇気流でエイルの落下がゆっくりとなる。
流石に上昇気流で人を持ち上げることはできなかったが、無事俺もエイルの体を掴み、そして崖下にゆっくりと着地した。
「エイル! 大丈夫!?」
「だ、大丈夫だ……。君は……」
そう言って俺を見るなり、何かを思い出したようにハッとした顔をした。
「もしかして、君がシュリの言う、銀髪の神様か!?」
「あー、えっと……。神様かどうかは置いといて、あってるかな?」
「やはりか! 父上の後をつけている時に、何故君のような子供が不思議に思っていたが、そういうことだったのか! それに、まさか戦闘までできるとは! 先ほどの戦いは凄かった! あんなの剣を使ってもできる戦い方じゃない! 僕の魔法なんか、戦いに何も使えない、つまらぬものだ……」
そう残念がるエイルも、巻き戻る前とは変わらない。
エイルはずっと、戦闘にも使える俺の魔法を羨ましがっていた。
「いや、そんな事を言っている場合ではないか。戻らないといけないね。いや、その前に君に御礼を言わなくてはいけないか。こんなんだから、僕は父上に……」
「俺の事はラキって呼んで! それに、俺の魔法でもできないことはある。エイルがいないと上には……」
そう言おうとして、俺は息を止めた。
エイルも何かに気が付いたのか、大きく息を飲んだ。
「エイル。お願い、今だけは俺から離れないで。ダイナンさん達がしてたみたいに後ろにいて」
「……っ。わ、わかった……」
足音が聞こえてくる。
しかも、3つ。
ローグ・ベアが3頭、俺達の前に現れた。
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