17.守ることと殺すこと

あれから、ハイドさんは頻繁に来てくれた。

特別な用事があるわけでもなく、すぐ帰るときもある。

ハイドさん曰く、基本的に一人で裏で行う任務が多く、今は大半がローグの調査のため自由が効くとのことだった。

けれども忙しいのは間違いないはずで、申し訳なくもあり、嬉しくもあった。


おかげで剣を使うための身体作りに、剣を持っても軽々と動くための筋トレが加わった頃、ハイドさんはダイナンさんを連れてやって来た。


「おう、久しぶりだな! なかなか良い体付きになってきたじゃねえか!」

「ラキ君は努力家さんだからね」

「努力は裏切らねえからな!! うちの連中ももっと見習ってほしいくらいだぜ!!」


そう言って笑うダイナンさんは、相変わらず煩かった。


「急に連れて来てごめんね。目星の場所を見つけたから行こうとしたら、ダイナンも来たいって言うから……」

「俺だって動くローグってやつを見てみたいからな!!」

「まったく、騎士団長という役割があるというのに……」

「あいつらなら大丈夫だ!! 今日はただの訓練だしな!! 俺がいねえほうが、たまには羽伸ばしもできるだろ!!」


そう言って笑うダイナンさんはを見てハイドさんは呆れたようにため息を付いた。

でも、なんだかんだ良い騎士団長なのだろう。

巻き戻る前も、皆から好かれているのは聞いていた。


「ラキ君、これから歩くからね。しっかり準備しておいで。それから疲れたらダイナンが背負ってくれるから言うんだよ」

「がはは、心地は悪いかもしれねえがな!」

「いや、そこまでしてもらうわけには……」

「大人と子供じゃそもそも歩幅が違うからね。それに、ローグ・ベアは強いんだろう? ラキ君が疲れたら私達が困るからね。私達を守ってくれるんだろう?」

「は、はい……」


最近、ハイドさんが俺をなんだかんだ理由を付けて休ませようとしてきている気がする。

ニコニコ笑いながらも、なんだか圧が凄いのだ。


「ハイドよう、今回は仕方ねえが、過保護過ぎるとそのうち嫌がられるぞ?」

「いや、でもラキ君はすぐ無理するから……」

「こんだけ頑張ってんだ。そのうちハイドの体力なんて、余裕で越しちまうからな?」

「まだ先の話でしょ?」

「いいかあ? ラキ。いっぱい食って、いっぱい寝て、こいつを驚かしてしまえよ!!」

「わ、わかった!」

「お、いい返事だ」


実際、俺は魔法を使えるだけで、動きの速さも持続力も、何一つハイドさんには敵わなかった。

いっぱい訓練して、本当の意味で守れるようになりたい。

そう思いながら、俺は山へ行く準備をした。




目的に向かう途中、斜面や不安定な場所が多くなって来た頃、想定よりも早く俺はダイナンさんの助けを得ることになった。


「不服そうな顔だなあ! まっ、そう思えるって事は、いい事だ! 現状に満足できてないうちは、頑張れる理由も沢山作れるかな!」

「でも……」

「更に悔しい思いをさせてやろうか! 俺んとこのエイルは、大人の俺達にも着いてこれるぜ!」


その瞬間だった。

ザザッ、と、自然の風ではない、不自然な草木のざわめきが聞こえた気がした。

ハイドさんとダイナンさんも聞こえたようで、一瞬緊張が走る。

けれども、何かが襲ってくる気配は無かった。


「多分ローグ・ベアじゃない。ローグは人間を見つけると一目散に襲ってくるはず」

「そうか。ちと安心したぜ」

「普通の獣だったんだろうね。姿も見えないし、小さめの」


そう言って、俺達は再び歩き始めた。


「でも、作戦の確認をしとこうか。ローグが現れたら、ラキ君が風のシールドを貼ってくれる。そして、蔓で縛って、それでダイナンの剣で心臓を突く」

「うん。でも、良いよって言うまで俺の周りから動かないでね。ローグ・ベアの爪は、蔓なんて簡単に引き裂く。完全に手を含めて縛ったあと、蔓を鉄並みに固くするから、俺がいいよって言ったらお願い」

「改めて思うが、ほんとおまえは自然を操る神みてえだな。こんなちっこい癖に、すげえ事やりやがる」

「何でもできるわけじゃないよ。例えば蔓を自由に操れるけど、その蔓を伸ばせるわけじゃない。ゼロから何かを作れるシュリとか、何年もかかる成長を一瞬でしてしまうエイルの方が、神様だよ。俺なんて、メインは何かを殺すための能力でしかない」

「守るって言ってくれや! じゃねえと、剣振り回す俺やハイドが泣くぜ!」


ハッとして、そして俺の言った失言に後悔した。

ハイドさんやダイナンさんだって、時には人を殺す。

けれども、同時に人を守っていた。


けれどもその後悔をしている暇はすぐに無くなった。

先程よりも大きな、草木を掻き分けこっちに向かってくる足音。

ダイナンさんもそれに気付いたのか、俺をサッと下ろす。

俺がハイドさんとダイナンさんを含めて守るように、風のシールドを張った、と同時にローグ・ベアが飛びかかってきた。


「すげえ……」


ローグ・ベアは反動で押し返される。

ここまでは想定内。

ここから、手の爪が届きにくい足を、蔓で縛る。

ハズだった。


ガサッと、別の所から音がした。

もう一体現れたのかと思ったが、人間にしか反応しないはずのローグ・ベアも振り向く。

そして、そちらに向かって走り出した。


「来るな!!」


そこにいないはずの叫び声。


「エイル!!」


気が付けばハイドさんがそう叫んで、飛び出していた。

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