10.情報と今後

「種を創造する人は他にいるから……」


そう言うと、ハイドさんは目をパチくりさせた。


「他にも君みたいな凄い子がいるんだねえ」

「えっと、まあ……」

「それも聞いてもいいのかい?」

「……まあ、俺よりハイドさんの方が適任だと思うので……」


実際、巻き戻る前は血土の復活とローグの討伐に、王国の騎士団と一緒に向かっていた。

どっちにしろ、ローグから沢山の人を守るためには、王国騎士団は必要不可欠となるはずだ。

それに、マイタンの種を成長させてその土地に定着させる魔法を使えるあいつは、王国騎士団にいた。


「そうだねえ。私としては、やはりこの異変を国に報告する必要がある。それに、恐らく君の口ぶりだと、他にもこういった場所が現れるんだろう? 情報は、君さえ良ければいくらでも聞きたいよ」

「……俺の情報、全部信じてもいいの?」

「あはは。全部鵜呑みにしているわけではないさ。勿論ラキ君が嘘をついている可能性だってあるだろうねえ。でもね、情報は多い方がいい。少なくとも今はゼロだったから、凄い助かってるよ」

「全部嘘だったらどうするの?」

「君が嘘を付いているようにはみえないけどねえ。ああ、もし情報が間違っていたら怒られるとでも思ったのかい? 気にしなくていいよ。それを聞いて正しいと判断して行動するのは私の責任だ。何があってもラキ君を責めることはないよ」

「……確かに、騙されても、俺の責任……」


巻き戻る前のことを思い出す。

確かに、ディーレを復活させたのは、あいつに騙されたのは、俺の責任だ。


「……ラキ君?」

「あ、いや、とりあえず情報。とりあえず種を創造できる子は、シュリっていう、フクロア領の領主の娘」


俺は半分誤魔化すように言った。


「あ、そうだ。丁度村にいるんだ。実はさっきローグ・ウォルフに襲われてたのを助けて、今村にいて……。あ、シュリの従者達は間に合わなかったけど……。えと、その時力が使えるのを教えてて……。あ、シュリは学校に行くために丁度馬車に乗って王都に向かってて……」

「……。私は彼女にどうしたらいい?」

「えっと……。そうだ! 村の人達も混乱してると思うし、無事に王国に送り届けて、それから能力のこと言うのもフォローしてあげて欲しい」

「君の事も知ってるんだよね?」

「うん。……あ、俺の事口止めしてない……」


俺は少し焦る。

確かに、シュリの方から俺の存在がバレるのかもしれない。

巻き戻る前との変化に気を取られて、そこまで頭が回っていなかった。

或いは、シュリに対して安心しきってしまったのかもしれない。

巻き戻る前の関係では、もう無いのだ。


「ふふっ、私の事は脅したのにねえ」

「あ、いや、それは……」

「まあいいさ。その件も上手くフォローできそうならしておくよ」

「あ、ありがとうございます……」


お礼を言いながら、俺はハイドさんを見る。

何故ここまで俺に気遣ってくれているのだろうか。

いや、気遣うふりをして、実は何か騙そうとしているのかもしれない。

俺が脅したから、気遣うふりをして情報を聞き出して……。

けれども、あの時怖がっている素振りすら見せなかった。

いや、単純に俺の魔法が必要なだけか……。


「考え事かい?」

「あ、ええっと……」

「他に何か気になる事でもあるのかな?」

「いや、その……。なんでもないです」

「そう?」


何故、なんて聞けるはずもなかった。

それに何故と聞いても、本当の事は教えてくれないだろう。


「あ、えともう一人、マイタンの魔法を使える人。その人はまだ俺も会ったことないし、まだ魔法使えると知らないと思うけど……。騎士団長の子供のエイル」

「えっ……」


ハイドさんは、俺が今まで見た中でも一番と言っていいほど驚いた顔をした。

それこそ俺が魔法を使ってみせた時よりも驚いていて、初めてハイドさんの心からの素が見えた気がした。


「どうかしたの?」

「あ、あはは……。知っている子だったからビックリしてね。騎士団長は私も親しくしていて、エイルも小さい時から知ってるからねえ……」


そう言うハイドさんは、なんだか寂しそうな顔をしていた。

けれども、巻き戻る前の記憶に、エイルからハイドさんの話を聞いたことはなかった。

そもそもハイドさんという存在すら知らなかったのだから、当たり前ではあるが。


「エイルに対しても、私はどうしたらいいとかあるかな?」


少し間があって、ハイドさんは俺に尋ねた。


「えっと……。シュリとエイルがいれば、俺の再生させた血土を完全に元通りにできるんだ。シュリが種を撒いて、エイルが成長させて……。クレアとマイタンの伝説みたいに。だから、えっとまずは……」

「エイルに魔法を使える事を伝えて、ここに二人を呼んだらいいのかな?」

「多分、それで大丈夫……」

「ふむ。ここはそれでいけるだろうね。問題は次の血土が現れた時か」


ハイドさんは考え込むように目を閉じた。


「ラキ君は少なくとも、存在を周囲に知られたくない事はわかった。けれども、これがクレアとマイタンの伝説通りだとすると、ラキ君の魔法で血土を再生してもらわないといけない」

「そう……、ですね……」


本当は、俺も王都に行って魔法の事を公にした方がいいのだろう。

実際俺が望んでディーレの封印を解くことはもう無いはずだ。

けれども、俺にはその力があるとわかっている状態で近付く事が怖かった。

何かの拍子に解いてしまったら、また巻き戻せるという保証は無いのだ。

けれども、血土の件も放置するわけにはいかない。

もう少し大人になってから考えればいいと思っていたが、巻き戻る前よりも状況が悪化しているのであれば、もう動かなければいけないはずだ。

これは過去の事を恐れているだけの、我儘でしかないのだ。


「あの……、俺も……、一緒に……」

「ラキ君は、魔法の存在をバレたくない人がいるのかい? それとも、王都に連れて行かれるのを恐れてる?」

「え? えっと……」

「いやあね、私やシュリさんにはあっさりと魔法を見せて、私にも所属を伝えたらあっさりと色んな事を教えてくれただろう? ただ誰にも知られたくないわけでは無さそうだと思ってねえ」

「あ……。王都には行きたくない……。後、学校の先生の……、ゾルオさんにバレるのが一番嫌……、です……。だから、国の人達にも極力……」

「なるほど、歴史を研究している先生か……。ふむ」


ハイドさんは、何故とは聞かなかった。

暫く考えた後、ハイドさんはおもむろに立ち上がった。


「よし、わかった。私がどうにかしよう。少し時間をくれないかい?」

「え、あ、でも……」

「無理矢理私の好きなようにして、ラキ君に逃げられて困るのは私だよ。気にしなくていい。それで、ラキ君はこれから行く宛はあるのかい?」

「いや……」


行く宛といっても、家族の元しかなかった。

けれども、それだと血土の問題を解決するための行動は行いにくいだろう。

それ以上に、まだ父さんと母さんの話していた事に、気持ちの整理がついていなかった。


「それなら、直ぐ近くに一部の騎士の人しか知らない小屋があるから、それを使うといいよ。メインで使っているのは私だから、人も来ないだろう。食料もあるし、勝手に食べてもらっていいからね」

「え、ほんとにいいの?」

「私としても、そこにラキ君がいてくれるとありがたいからねえ。他にも、私にして欲しいことがあれば、なんでも言って」

「いや、そんな、俺を隠してくれて、住むところとか食料まで……。もう充分で……」


実際の所、これ以上の優しさを貰うのが怖かった。

これ以上信じてしまったら、またとんでもない事をしてしまうのではないだろうか。

そう言った俺に、ハイドさんは目を細めて笑った。


「ラキ君は、優しいねえ」

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