7.偽りの神様と家族

「……ねえ、あなたは神様なの?」


村に行く途中、シュリは俺に尋ねた。


「えっ、神様?」

「そうよ。私が魔法を使えるなんて、私自身も知らなかった。それに、私の名前も知っていたでしょう? 教えてもいないのに」

「……秘密」


違うと言えば、じゃあなんで知ってるのと言われるに違いない。

けれども神様とも言えなかった。

神様なら、皆を救えたはずだ。


「それならシュリだって、クレアの生まれ変わりだろ? あれは創造の魔法。なんだって創れちゃう」

「魔法……」


シュリは立ち止まって、目を閉じる。


「火よ 現れよ」


ぼおっ、と、目の前に赤い火が現れた。


「……できたわ」


そう言ってシュリが気を抜くと、火は地に落ちて一瞬で消えた。


「あら、おかしいわね。あの時は水がオオカミを……」

「あ、あの時は危機的な状況だったから、自然に力が入ったんじゃないかな?」

「そうかしら? 自分で動かした感じも、凍らせた気もないのだけれど……」

「多分そのうち出来るようになるよ」


本当は嘘だけれど、まあうまく話がまとまるだろう。

多分。


「神様が言うなら、間違いないのかしら」

「え、いや、俺は神様じゃ……」

「秘密じゃないの?」


シュリは、クスクスと笑う。


「少なくとも、私にとっては神様よ。あなたがいなければ、私も死んでた」

「じゃあ、神様の言う事をもう一つ聞いて」


俺の事を神様と呼んで信じてくれるなら、もう一つ伝えておこう。

どうせ、もう会うことはないだろうから。


「これから行く村は、クレアとマイタンの伝説すら知らない村だ。だから、下手にこの力を見せると化物扱いされてしまうかもしれない」

「……ディーレの封印された結晶もあるのに?」

「村の人達は、それすら知らないんだ。だから、言うのは王都に付いてからだ。出来れば騎士団の人とかがいい。きっと上手く繋いでくれる」

「わかったわ」


村が見えてきた。

そろそろお別れの時間だ。


「良かった、村が見えてきたわ!」


シュリが村に気を取られている間に、俺はシュリから離れた。

木の裏に隠れてシュリを見る。

シュリは暫く俺を探しているような仕草を見せたが、諦めて村の中に入った。

これで、シュリは助かるだろう。


俺は、凍らせたローグ・ウォルフの元へ戻る。

そして氷を溶かし、死んだことを確認した。

ここに置いておけば、きっと誰かが死体を見つけるだろう。

そして、巻き戻る前と同じように、普通のオオカミではないことに気付くはずだ。


そろそろ俺も、本当に戻らないと。


少しの間だけでも、神様になれて良かった。




俺が家に戻ると、家の中から父さんの声が聞こえてきた。

父さん達はローグ・ウォルフにも合わず、無事に戻ってきたのだろう。


「あいつはまだ帰って来ていないのか!」

「もしオオカミにでも襲われていたりしたら……」


イライラした父さんの声と不安そうな母さんの声に、心配してくれていたのだろうかと心の奥で期待した。

けれども、それはすぐに打ち砕かれた。


「親が夜中に追い出して死んだと村の人達に知られたら……」

「そんなもん、勝手に遊びに出かけたとでも言えば良いだろう! くそっ、手を煩わせよって。帰って来たら暫く食事抜きにするか」

「そ、そんなことしたら兄ちゃん死んじゃうよ……? ただでさて何も食べれてないのに……」

「かまわん! 死んだところで、あんな出来損ないは……」


突然、誰かに耳を塞がれた。

ハッとして振り返る。

いつの間に背後にいたのだろうか。

後ろには、フードを被った男がそこにいた。

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