3.化物と公女

そのまま俺は父さんに村長の所に連れて行かれた。


村といっても、村長の持つ農地や家畜を一緒に管理する集落レベルのもの。


雪の降る季節である今は、秋に植えた麦が静かに春を待っていた。




村長の所に行って状況を説明すると、何やら難しそうな顔をして顔をしかめた。




「村長、どうかされましたか?」




父さんは、家では絶対聞かないワントーン高い声で、村長に尋ねる。




「いや、それがな……」


「村長、来られました!」




俺は、ハッとして思って外を見る。


この小さな村には見慣れない豪華な馬車が1台、村長の家の前に止まっていた。


従者が馬車の扉を開けると、一人の少女が降りてくる。




忘れもしない、綺麗な栗色の髪の、ドレスで着飾った凛とした少女。


同じ10歳のはずなのに、立ち振舞も何もかもが別世界の人。


そして、巻き戻る直前、俺が泣かせてしまった人。




「すまんが、今は下がってくれ。……領主様の愛娘がいらっしゃる時に、何もなければいいが……」




俺は、思わず父さんの影に隠れた。


きっと今の俺を見ても、なんとも思わないだろう。


けれども、巻き戻る前のこの日俺を助けてくれた少女を泣かせてしまった後悔が、彼女を直視できなかった。








巻き戻る前の今日、オオカミとダイが倒れていた件について、俺は大人達に囲まれて尋問されていた。


まだ自分の魔法が引き起こしたと自覚が無かった俺は、目の前で起こったことを言うしかなかった。




オオカミが現れて、ダイを襲ったこと。


次に俺が襲われそうになったこと。


気付いたらオオカミが傷だらけで倒れていたこと。




そう言うと、大人達が大きな声で笑った。




『つまりお前の言い分だと、魔法でも使ってオオカミの攻撃を弾き飛ばしたことになるぞ!』


『俺が剣でお前を斬ろうとしても、お前は無傷ってことになるな!』




そう言って、一人が持っていた剣を大きく振りかぶった。


恐らく直前で止める予定だったのだろう。


けれども俺は、本気で斬られると思ってしまった。




『やめてっ!!!』




その瞬間、俺は風の力で剣を吹き飛ばしていた。


場がシンと静まり返る。




『化物……』




誰かがポツリと呟いた。


皆が己を守るように、俺に武器を向けた。




『お前は何者だ!』


『ちがっ、俺は……、俺は……』


『何をしてるの!』




その時だった。


その少女が俺の前に現れたのは。


ドレスを着たその少女は、俺を守るように俺の前に立った。




『こ、公女様!?』


『こんな子供を大人がよってたかって虐めて、何をしたと言うの!?』




そう言う彼女は、俺よりもずっと大きく見えた。




『ち、違うのです! そいつは化物で……』


『こんな怯えている子供が化物? ふざけないで』


『で、でも! 事実、俺が剣を下ろすと触れずに剣を弾き飛ばしたのです! オオカミだって吹き飛ばしたというではありませんか!?』


『お、俺も見ました! まるで強風でも起こったような……』


『そうなの!?』




その少女は、くるりと俺の方を向いた。




『あなた、魔法が使えるの!?』




俺を見た少女の目は、想像と違ってキラキラしていた。


これが、フクロア領の領主の娘、シュリとの出会いだった。

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