1.巻き戻りと魔法

目が覚めて飛び起きる。


けれども直ぐに状況は把握できなかった。


目に入ってきたのは、幼少期に家族で過ごした家の寝室だった。




「俺は……」




自分の身体を見る。


まだ筋肉の付いていない細い腕と脚。


今はもう捨てたはずの、幼少期のころに着ていた服。




「まさか……」




俺は慌てて寝床から飛び出し、家族がいるはずの居間の扉を開けた。


怒りを隠すこともなく俺を睨む父さんと、自分たちに飛び火しないことを祈るかのように俯きながら朝食をとる母さんと弟のダイ。


あまり良い思い出ではなかった光景も、今となっては嬉しくて仕方がなかった。




夢ではない。


時が戻ったのだ。




「なんだ、そのふざけた顔は!! 今何時だと思ってるんだ!!!」




ダン、と、父さんが机を叩いて立ち上がった。




「俺が起きてくる前に朝食の準備をするのがお前の役目だろ! ダイがお前の代わりにやってくれたわ!! ほんとにお前は役立たずだな!」




俺の髪を掴み、父さんは俺を壁に叩きつけた。


この日の記憶は、鮮明に覚えている。




「ごめんなさい……」




そう言うと、父さんは俺に言うのだ。




「朝食は抜きだ! 今すぐ薪を割ってこい!」


「……わかりました」




俺は立ち上がって、上着を着て外に出た。


昨日降った雪が積もった寒い朝。


感じる空腹すら懐かしい。




嫌でも覚えている。


俺が魔法を使えると明らかになった日。


そして、弟のダイが死んだ日だ。








俺は、家の裏に回って、まだ割れていない丸太を1つ取り出す。


昔のように普通に割ってもいい。


けれども、1つ試したいことがあった。


俺は薪を見ながら風を感じ、そして、念じる。




(風よ 切り裂け)




スパッ、と、丸太が4等分に割れた。


俺は、思わず微笑んだ。


成功だ。


昔の俺はまだ魔法は使えなかったが、それはやり方がわからなかっただけ。


戻る直前と同じように、俺は魔法を使うことができた。




俺の魔法は、巻き戻る前の世界で最強と言われた。


自然にあるものに限られるが、自由自在に操ることができた。


森にいればツタで自由を奪い、木々でうねる槍のように突き刺すことができた。


川や湖が近くにあれば、波を起こして巻き込むこともできる。


あるものを更に増やすことはできないが、戦闘にも優れたこの能力は重宝された。


それがわかったのは、とあるきっかけで王都へ行った後、試行錯誤してからだった。


けれども、今使えるのであれば話は別だ。




この世界に、魔法は無かった。


この魔法を使えるのは、世界で俺だけしかいなかった。


実際は後2人いるのだが、完全に別の魔法である。


だから、この能力がバレなければ、きっとあの未来は繰り返さない。




俺は、大きく息を吐いて、本来丸太を割るための斧を持った。


と、同時に家のドアが開く音が聞こえる。




実際、魔法を使わないのは不可能だ。


俺の魔法でどうにかしなければいけない問題があることを、俺は知っている。


それを見逃すことはできない。


けれどもその方法を考えるのはまた後だ。




「兄ちゃん」




ダイが、小声で俺を呼んだ。


手にはいくつかのパン。


朝食を食べれなかった俺のために、こっそり持ってきてくれたパンだ。




俺がまずやるべきことは、ダイを死なせない事だ。

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