逆行した世界最強の魔術師は、力を隠して誰にも知られず静かに死にたい

夢見戸イル

0.プロローグ

叶うなら、名もないモブの一人として、誰にも知られず死にたかった。


世界を地獄に落とす引き金を引くぐらいなら、理不尽さを呪いながら死ぬ方がいい。


けれども世の中には、世界中に恨まれても引き金を引きたがる人もいる。


それが快感なのか、本人ではないからわからない。


けれどもそいつは、高らかに笑っていた。




「これで、これでやっと、世界は生まれ変わる」




木は朽ち、草花は萎れ、水は枯れた。


狂った獣が、人間を喰らった。


その血が大地を染めたような、真っ赤な土が広がった。




「ラキ!!」




と、知った二人の声が俺の名前を読んだ。


栗色の少女シュリと、金髪の少年エイル。


俺と仲良くしてくれた人。




「どうして……、ディーレの封印が……」


「彼のおかげですよ。彼が封印の結晶を溶かしてくれた」




二人は信じられない目で、俺を見る。




「ラキ……! 貴様、何故……!!」




エイルは、俺の胸ぐらを掴んだ。




「何をしたのかわかっているのか!?」




世界が幸せになると思っていた。


隣で満足そうに世界を眺めるそいつに、そう教えられたから。




違う。


引き金を引いたのは、紛れもなく俺自身。


俺の選択で、世界は地獄に落ちた。


知るすべは沢山あったのに。




「ごめんなさい……」




瞬間、俺はエイルに殴られた。


頭がクラクラする中ぼんやり見えたのは、憎しみのこもった目で俺を見るエイルと、涙で目を滲ませて俺を睨むシュリ。




「いこう、シュリ。僕は君に失望した。君が国を守るどころか、国を脅かす存在になるとはね」


「……そうね。あの時あなたを助けた私が馬鹿だったわ!」




去っていく二人を見ながら、大きな後悔に襲われる。


叶うなら、封印が解かれる前に戻りたかった。


こんな事になるなら、魔法なんて使えなくて良かった。


叶うなら、はじめから……。




そこで俺は、意識を失った。

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