第7話 《噴水の音》
円形にぐるりと一周している、噴水の囲い石に、二人は腰掛ける。
噴水の周りには、散歩を一休みしているらしい、チョボ髭の腰の曲がった老人、
ジョギングを終えて、ストレッチをしている青ジャンのスポーツマンタイプ、
ベビーカーの周りでちょこまかと動き回る幼稚園生の兄弟、
それを叱りつける母親などが、昼下がりの柔らかな日差しに包まれるようにして憩う。
噴水の音が辺りに響く。
落下してゆく水が石にぶつかり続ける音。
陽子の双つの耳に、波のように、押し寄せてくる。
無意識に聞き入っていると、〈響き〉と言う言葉は、しみじみ水から生まれてきたと思う。
〈響き〉という言葉の誕生。
初めは山奥の澄んだ谷川の清水から生まれてきたか?
それとも遠く古(いにしえ)の、母なる海からだろうか。
陽子はこんな自然や言葉へ向けたトンチのようなことを考えるのが好きだった。
自分が言葉に心を向ける時、言葉のほうでも自分に興味を持ち、近づいて来てくれるような気がした。
自然に素直に向き合おうと手を広げる時、不思議と樹木が語りかけている言葉が、分かるような気がした。
空を流れる雲の一つ一つが、生きていて名前があるように思えてくる。
「信也さあ、公園のベンチに寝転ぶのって好き?」
「うん、あれ、気持ちいいよね。雲が流れていくのを見上げながら、ボーっとしているのって、どこかリッチな気分になるよ」
「ほかには、何か感じることってない?」
「そうだなあ、このままずっと寝ていたい。明日も明後日も会社休んで、ずっと怠けもんモードにひたっていたいなあ、とか」
信也とのこういうほのぼのとした時間を、陽子は気に入っている。
「わたしはね、晴れた日に公園のベンチで仰向けになるのが好きだなあ。こーう、何だか空に抱かれているような安心した気持ちになるの。目をつぶると、胸の中がどんどん広がっていって、気持ちいい風が、頭の中を通っていくの……」
言葉のキャッチボールがしっくりくると、生きている実感が湧いてくる。
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