第5話 《超ヘヴィ級花粉症》


桜の花びらが散り出した。



どこまでも飛ばしていくような風が吹く。



春の霞の匂いまで、風のジェットコースターに乗って天に昇ってゆく。



四月はラッシュ時の、電車に駆け込む乗客のように早足だった。



陽子は今年も、ひどい花粉症にかかってしまった。



花粉症でも超ヘヴィ級重症だと思う。



花粉症で死ぬことはないのだろうか?



地球上のありとあらゆる杉花粉に呪われたこの身、死なないのがオカシイくらいだ。



いっそ死なせてくれと思わないでもない。



この次期、顔の半分を覆うようなマスクにグレーのサングラス姿が、陽子の花粉対策バッチシのファッションだ。



ポリシーなんてない。



少しでも、花粉から逃れられるなら、ダサくたってかまわないのだ。



それにこの時期、マスクにサングラス姿の人間なんて、五万といる。



花粉症にかからない人のほうが、逆におかしいんじゃないだろうか。



信也は、花粉症の被害をこうむっていない。



いま、桜並木の下を、私と歩いていても、くしゃみ一つしない。



それどころか、むしろ強風に顔を向けて、春だなあ、なんてとんでもないことをつぶやいたりする。



春三番ぐらいかな、などと競馬の予想屋ではあるまいし、数えなくたっていい。



私を見てみろ? おっきなマスクして、鼻がグズるし、目がかゆくてたまんないし、頭はぼーっとして、すっごく大変なんだから。



少しはかわいそうだと思いなさい。



「陽子さんも、大変だよね、花粉症。忍びに忍んで、耐えに耐えて。ホントにかわいそう」



やっと気づいたか、と陽子は思ったが、信也にかわいそうだと言われても、何の慰めにもならない。



何だかやり場のないいまいましさ胸にこみ上げてくる。

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