第3話 テストライティングと案件と
家に帰ってテストライティングのためのプロットを考える。どうして記事を書きたいと思ったのだろうか。まあ最初はギルドの受付のお姉さんに「この案件はいい案件だよ」と言われたことがきっかけだけど、それだけ?
僕はこの町が好きだ。なんで好きなの? 情けなくて不器用で変人な僕でも優しく包み込んでくれるから。
昼間は恒星デペルの光で、夜中には精霊術でホタルの光を召喚し、その光を頼りに紙に思いついたことを書いていく。プロットの前のアイデア出しである。恒星デペルというのは、昼間ルートムを照らす地球でいうところの太陽みたいな存在である。
ふと声が聞こえる。
「あんた何やってるの?」
後ろをふり返ると僕の書いている紙を母親がのぞき込んでいる。
慌てて紙を隠す。
「何でもない! 新しい小説のプロットを書いてるの!」
「ふうん。何でもいいけど明日早いんだからさっさと寝なさいよ」
「はあい」
そんなこんなで二日経った。アイデアを出してそれをプロットにまとめるとかなんとかして記事にした。
自分で書いたテストライティングの記事を持って行く。アムト出版所の扉をかんかんと叩く。扉が開く。アムトさんが顔を出した。
「君か。よくとんずらしなかったね」
「はあ」
「まあ入って入って!」
指定された椅子に向かい合って座る。大麦茶を出されるが緊張のあまり体が動かない。
アムトさんが
「じゃあテストライティングで書いた記事を見せてもらおうか?」
「はい!」
僕はカバンの中から一枚の紙を取り出しアムトさんに渡した。アムトさんはメガネをずりあげ眉間にしわを寄せながら読んでいる。ちなみにその時書いたテストライティングの記事はこちらである。
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どうしてルートムの町を盛り上げる記事を書きたいのか。
その理由は4つあります。
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・ギルドの受付のお姉さんにいい案件だよと言われたから。
・ルートムは弱虫で不器用で変人な僕もやさしく受けいれてくれるから(努力は大事だが)
・お店がたくさんあって食糧や物資を買うのに困らないから
・尊敬する英雄がこの町から出たから。
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そんな大好きな町がもっと盛り上がれるようにお手伝いが出来たらうれしいと思い記事を書いてみたいと思いました。この町にはいつも感謝をしています。
お察しの通り僕はだいぶコミュニケーションが苦手です。また女性が苦手で女性の後ろを歩くとものすごく緊張してしまいます。ようするに思春期をこじらせちゃいました。
そんな自分ですが、学校の友だちも先生も優しく、「人間って少し抜けている方がいいんだ。人間らしくて」といって僕のことを受け容れてくれます。それでいて自分がなまけているとシッタゲキレイもしてくれる良き友たちに恵まれています。そんなとき心の中で手を合わせて「ありがとう」とお礼をいつも言っています。
生きていると辛いこともたくさんあります。なんで僕がこんな目にあわなければいけないんだ、と友だちにぐちったりもします。
友だちは「まあまあ」と聞いてくれますが、時には友だちもストレスがたまっていると急に夜中にイラストを描き始めたり、家具を作り始めたりします。そんなときはみんなそれぞれ何かしら抱えているんだなって思います。また自身でも分からない将来のことを思い悩み夜中にもだえ苦しんだりします。
そんな弱虫でストレスがたまると友だちにぐちってしまう情けない自分を受け容れてくれる場所それがこの町ルートムです。
ただその友だちに言われたことがあります。アカノのいいところは、努力し続けるところだと。だからこれからも出来ないことを認めつつも精神を向上させようと努力し続けたらいいなと思います。
尊敬する英雄というのは、大魔導士ナーリン様のことです。苦学に苦学を重ね、遂には大魔導を極め、この国に危機が訪れた際に身につけた大魔導でこの国を救ったナーリン様のことをとても尊敬しています。
僕は今、出来損ないです。出来損ないですが、努力に努力を重ね、いつかナーリン様のように一つ事を極めたいと目標を掲げています。
そんな大好きなこの国ルートムに恩返しが出来ればと思い応募しました。
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おじさんはメガネを上にずらして僕の渡した文を読んでいる。途中でごほっごほっと吹き出した。おじさんは、
「君、女性が苦手なのか」
「はあ」
「どうして?」
「思春期をこじらせちゃいました」
おじさんは、あっはっはと思い切り笑う。
「思春期をこじらせたの?」
「はい」
「こりゃケッサクだ」
しばらくおじさんは笑い、その後落ちついた。
「いや、バカにしてないから。してないけど」
「はあ」
また、あはは、と笑う。そして、
「こりゃチンジュウだ」
僕はただもじもじとしていた。
「まあいいでしょう。合格だ。名所にいってそこで風景の紙と記事をよろしく。どこでもいいよ。楽しみにしているから。でも気負わないでね」
風景の紙は精霊紙投影機(せいれいかみとうえいき)という機械でとる。精霊紙投影機というのは、精霊の力を借りて紙にその風景を写し取る機械である。
「ありがとうございます。頑張ります!」
「期限は一週間だよ。大丈夫?」
「はい」
「あと、賃金は500リンで間違いないね!」
「はい。大丈夫です。頑張ります!」
「いい返事だ! 頑張って!」
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