噂話
半人前
第1話
「ネェ、知ってる? 二組の寺川が茅野の頭を掴んで、トイレに突っ込もうとした話」
「うそ、そんなことしたのアイツ」
「らしいよ、私も現場は見てないんだけどさ」
「で、どうなったの? 便器に顔突っ込まれたの?」
「いや、さすがに茅野も死物狂いで抵抗したらしいよ、それで、騒ぎを聞きつけた先生がやって来て、茅野は走って逃げてったんだって、泣いてたんだって」
「それゃあ便器に顔突っ込まれそうになったら、泣くよね」
二人はクスクスと笑いあった。
「いっそ突っ込まれたら面白かったのにね、それで先生に怒られる寺川も含めて」
「最低!」
二人は今度は声を立てて笑いあった。
「それでさ、逃げた茅野が、そのまま学校から帰っちゃったんだって」
「マジ?」
「だって、その騒ぎの後、誰も茅野の姿を見てないんだもん。きっと今頃、自分の部屋に引きこもって一人で泣いてんのよ」
「もしかしたら、もう学校に来なくなるかも」
「学校来てたじゃん、茅野」
「寺川と二人で職員室に呼び出されたらしいよ」
「マジ? 何の話するのよ?」
「知らないけど、ほら、喧嘩両成敗ってやつじゃない?」
「喧嘩って茅野の方は、ただ便器に顔突っ込まれそうになっただけじゃん」
二人は笑った。
「ね! 聞いた?」
「いや、何が?」
「この前、寺川と茅野が職員室に呼び出されたって話したじゃん」
「うん。それは聞いたよ」
「なんでも教師のやつが寺川に茅野が味わった恐怖を理解させるために、寺川の顔を便器に突っ込もうとしたらしいよ」
「えっ、マジ? やるじゃん」
「しかも、茅野にも寺川の頭を掴ませたんだって」
「その現場見たかったなぁ、絶対面白いじゃん。でも本当なの? 誰かが現場見たの?」
「知らない」
二人は笑った。
「ね、寺川のやつ最近元気ないじゃん」
「最近、茅野の事もイジめてないらしいよ」
「痛い目にあって懲りたんじゃない」
「じゃあ、あれ本当なんだ。便器に顔突っ込まれたっていうの?」
「そうなんじゃない? たぶん」
「うわー、汚ない。寺川の顔見るたびに便器を思い出しちゃう」
「わたしは便器を見る度に寺川の顔を思い出しちゃう」
二人は忍び笑いした。
「これから陰で寺川のこと便器って呼ぼう」
「今日のあれ面白かったね」
「でも便器に顔突っ込まれたって言われてあそこまでムキになって否定するってことは、やっぱり本当なんだ」
「うん。寺川顔真っ赤だった」
「寺川じゃなくて便器でしょう」
「よくよく考えたら便器に失礼じゃない? 便器だって他の便器に顔を突っ込んだりしないでしょ」
「でも、便器は直接うんこをされてるじゃん」
「じゃあ、寺川の顔にもうんこしていいんだよ。だって、もうあいつの顔うんこする所に突っ込まれてるんだもん」
「もう便器の顔面、うんこと大差ないじゃん」
二人の笑い声が響く。
「ネェ、最近便器のやつ学校来てないんだって」
「やっぱ、便器に顔突っ込まれたのがよっぽどショックだったんだよ。便器のくせに」
「便器が教室に居ると臭いからね」
「あのさ、先生が言ってたんだけど、寺川の顔を便器に突っ込んだりしてないらしいよ」
「マジ?」
「うん。そうだって、なんか変な噂を耳にしたから、そんな事実はないって」
「それ、変な噂が流れたから、保身のために言っただけなんじゃないの?」
「保身?」
「だって、いくらイジメしてたからって、生徒の顔を便器に突っ込んだら、大問題でしょ」
「えー、つまんない」
「なにが?」
「だって本当に便器に突っ込まれてた方が面白いじゃん」
「それな」
「その先生もエンタメが分かってないよね」
二人は笑った。
「でも、それじゃあ、誰が寺川の顔を便器に突っ込まれたなんて噂を流したの?」
「そんなの決まってるじゃん、茅野だよ」
「茅野! イジメられた復讐ってわけ?」
「そう。だから、そんな噂を流したってわけ。決まってるでしょ。だって、呼び出された三人のうち寺川は被害者、先生は、そんなことしてないって言ってる、じゃあ残りの一人が犯人ってわけ」
「へぇ、やるじゃん茅野」
「そう。だから今度のことは全て茅野の企みなんだよ」
「茅野がねぇ、確かにそういえばあいつ、寺川が元気なくなって、嬉しそうにしてたもんな」
「最近茅野調子のってるよね、イジメられてたくせに」
「最近、茅野、学校に来てなくない?」
「ああ、茅野のやつ、佐々木にイジメられたらしいよ」
「なにそれ、面白そうな話」
二人は笑いあった。
「ネェ、そういえば、知ってる? 島田が古賀を全裸にして体育倉庫に閉じ込めたんだって」
噂話 半人前 @han-nin-mae
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