第三章 離れても

第25話 私は過去に戻ってきたらしい。

「ええっと。ここは…?」


豪華な天井に高級な家具。ここには、見覚えがある。そう、ここはーー。


「リルお姉様ぁ…怪我したんですって?大丈夫ですかっ?」

「リリア…」


私「リル王女」の部屋に、ノックもせずに入ってくる従姉妹。

怪我って、なんのこと…?


「大丈夫よ…」


ああ、これは足が出血したあの事件、あのときーー。

確か、水に落ちて足を捻ってしまい、さらにその足を思いっきりぶつけたのよね。

この後、確かリリアは「リルお姉様、私が手当てするわ」と言ってさらに傷が深くなったのだっけ。


「リルお姉様、私が手当てするわ」

「え?ああ、大丈夫よ。私は自分でできるわ」

「?お姉様、口調が変わったのね」


ああ。確かに、カズヤの時からーーうん?カズヤ?誰だっけ、それは…?

なんで、私は未来を知ってるの?


「リリア。今は、いつだっけ」

「お姉様ってば。とうとうおかしくなったの?今は王国歴XY年よ?」


それはつまり、私が15歳の時。

ノアが婚約破棄を告げたのは1年と半年後、国が戦果に見舞われたのは2年後。

過去に、戻ってきたってこと?


鏡を見る。

確かに幼いわねーーそして、「リル」の特徴、金髪碧眼もはっきりしている。

どうして?私は黒髪にーーん?くろ、かみ?


「はぁ…とりあえず、リリア、一人にしてくれる?」

「はぁい」


と言いながらも、リリアはノアと浮気してるんだろうなーーそういえば、いつから浮気してるんだろう、二人は。

知ったのは1年後だからーーもう今こっそり密会してる可能性もあるってことよね?


頭がズキズキする。


とりあえず、真偽を見極めるのはまた今度にしよ…。

私はすぐに、すやすやと眠りについた。



「おはようございます、お父様、お母様」

「…おはよう」


素っ気ない、これが私の家族だ。

愛など注いでもらったことはない。常に無表情な父親、厳しい母親。


「お待たせいたしました」


朝食が食卓に並べられる。


ん?

食べ物の味が薄い…。は使っているのだろうか?日本ではあたりまえだが…。


ん?

日本?なにそれ。だけど、明確に記憶がある。確か、私はーー。

「日々野梨琉」としてカズヤに拾ってもらって、花恋ちゃんと友達になって、いろんな人と出会ってーー。


「リル、どうしたの」

「あ…なんでもありません、お母様」


ああ、頭が痛い。

日本って何?彼らは誰?ここはどこ?ーー私は、過去のこの世界に、戻ってきたの?


だけど、一つだけ確かなことがある。


私は、カズヤに会いたいーー。

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