第21話 私は恋していたらしい。

◇◇◇

カズヤの幼馴染だとかいう女、「真央」が来てから私はずっと観察していた。

こき使われて、はっきり言って、プライドが傷つけられなかったわけじゃない。

ただーー彼女の瞳は、きらきらしていた。

何がそんなに輝かせるのだろうかーー。


私は一度、アイスを頼まれた。

自分で買ってこいーー言いたいくもなったが、ぐっと堪えた。


「リル。ごめん、耐えて。頑張って」


そう、カズヤが励ましてくれたから。


その後、洗面台で鏡を見た。

すごくーー目がきらきらしていた。多分、これは励ましの言葉に対して、ではないだろうーー。


そして、私は確信する。


真央や私の目が輝いてるのには、恋が原因なのだと。

つまり、私はカズヤに恋していると。


最初はあり得ない、と思った。

何より、真面目。前の世界で婚約者で、好きだった「ノア」とは正反対の性格。

まさか、私がーー。


「知ってるよ。カズヤのこと、好きなんでしょ?」


昔に使っていた言葉遣いで話す。

これといった理由もない。


これが、恋する乙女だ。



気付いたからには、カズヤを易々と取られるわけにはいかない。

大丈夫。

私にできないことはないーー。


負けるなんて、王女のプライドが、許さない。



◇◇◇

俺は、リルと高級ディナーに行くことにした。


なぜならーー今度の日曜日、その日はリルの誕生日だからだ。

「日々野梨琉」と誕生日まで同じだったらしい。本当に、「運命」には驚かされるばかりだ。


そして、リルはパーティードレスを買ったようだ。

紺色にうっすらと花の刺繍がしてあるそれは、リルに似合いすぎている。

そう、「日々野梨琉」にではなく、「リル」にだ。

醸し出すその王女オーラ、「リル」が出す雰囲気、全てが似合っている。


「ねえ、カズヤ。私ね、もう王族が使うべき言葉はやめにしたの」


王族が使うべき言葉とは、「〜だ」「〜である」のような、ようは常体のこと。それをやめてお嬢様のように話すことにしたらしい。


「小さい頃を思い出したの」


リルにも、思い出がある。

誰にも知られたくない過去も、誇らしい過去も、どんなのでも。


だから、これは俺がとやかく言うべきじゃない。

それに、俺は「お嬢様言葉」の方が可愛げがあって好きだ、リルに似合うと言うと、多分もうすぐでゲンコツが落ちてくるところだった。


そんな感じで迎えた当日。


俺たちは、俺が入ったこともないような高級店へ一直線。

いつもなら、あり得ない。

瑠奈の時だって、ここまではしなかった。なのに、リルにはしたーー。

これは、リルが「王女」だから、というのもあったと思う。

けど、本音は違う気がしてならない。だからといって、理由がわかる、わけでもない。


「かんぱーい」


個室で、俺はワイングラスを、リルはジュースを、合わせあった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る