第20話 王女は私との勝負を挑んできたらしい。

「知ってるよ。カズヤのこと、好きなんでしょ?」

「…え?」

「だって、カズヤを見つめる瞳がすごく輝いてるから。好きな人にじゃないと、そんな目はできないと思うの」


先ほどとは打って変わり、まさに少女な言葉遣い。これには、驚くばかりだ。

ついさっきまで王女のプライドなのか、歯軋りしていたのも見受けられたが…。ようは、ただの小娘だということ。


なんだ、簡単じゃない。


「さぁ、どうかしら?皆に媚を売る女なら、目をキラキラさせるんじゃない?」

「…っ!」


ほら、そういう経験があるのね。

この反応は、どうせ、自分が媚を売ってきたのでしょう。

王女もここまでかしらーー。


「なら、お前も媚を売ってきたの?」

「えっ」


そう来るとは…。

だが、そう簡単に負けないのが私、朝宮真央だ。


「ふふ、違うわ。私は好きな人に一途なのよ」

「なるほどね。つまり、目をキラキラさせていたお前は、カズヤが好きなのだと」


あ、しまった…!

そういうんじゃないーー言おうとしても、既に負けは確実だ。

悔しい。


「まあ、カズヤを好きになるのは分かるよ」

「え…?」

「でも、お前みたいにもうお年だと…ねぇ?」

「は、はぁ!?私はまだまだ現役の「可愛いお姉さん」でしょ!?まだ二十代なんだけど!逆にあなたはまだ「ガキ」、子供ね?」

「そう?前の世界では、成人は16、結婚適齢期が18だったわ」

「っ…ここは、妄想だかなんだか知らないけどその世界とは違うの!」


はぁ、はぁ。

なかなか手強いわね…。


「二人して、どうしたんだ?」


か、一也…!


「ほら、真央の好きな烏龍茶だ」

「わぁ!」


さすが一也、よくわかってるじゃない。

私と一也の仲を見せつけるのにちょうどいい。好きなものを教え合うほどなんだってね。

そして、リルの方を向く。あらら。かわいそうに、こんな「お年」な女に先を越されてしまって。


ふふん、と勝ち誇っていると、「リル」と一也が呼ぶ。


「リルの好きな紅茶だ。アールグレイだぞ」

「ありがと」


あ、あーるぐれい!?そんなものを好むの!?

途端に烏龍茶で勝ち誇っていた自分が虚しくなる。


「これで二人とも機嫌を直してくれよ」


機嫌?機嫌…?きげん…?

どう考えても私は一也に機嫌の悪さを見せつけた覚えはないけど…。

ああ、リルに言ったのかな?


「特に真央」


こそっと言われてすぐに顔を真っ赤にする。


「何を話していたか知らないけど、取り乱してただろ」


ーーあ!

取り乱してた…確かにそうだ。一人でわーわー喚いてた。

恥ずかしい…。


帰り際、私は今日は失敗だったな、と反省していた。


「真央さん」


リルがやってくる。

そして、耳元でこそっと言葉を放った。


「カズヤは渡さないから。真っ当な勝負よ」


まさかの、宣戦布告!?

いいじゃない。やってやるわ。


私はやる気に満ち溢れたまま帰路についた。

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