第13話 私は未だ過去を引きずっているらしい。

◆◆◆

「リリア」は私の従姉妹だ。

その出生から、女王になる可能性はすごく低かった。リリアはすごく愛嬌があって、可愛くて、だから勉強しなくても何も怒られなかった。

自由奔放に駆け回り、私によくお花をプレゼントしてくれる優しい子だった。

それが変わり始めたのは12歳の頃…。


「リルお姉様はずるいわ」


いつのまにか彼女の口癖は私を貶めるものに変わっていった。


「リルお姉様が、私のドレスを気に入ったと言って…。お姉様はいつも優しいから、あげたのです」

「まあ、リリア様はお優しいわ。そんなことをするリル姫をお優しいだなんて」


本当は、逆なのに。

けれど、未来の女王と期待される私が、従姉妹とはいえ一人の令嬢を貶めるなど、あってはならない。


何も言えずに、過ごした3年…。

とうとう、リリアは最終手段に出た。


「ごめんなさい、お姉様。私、ノア様を愛してしまったのです」

「ああ、私もだ。お前のように完成された淑女よりも、すこし天然なリリアの方が可愛くてたまらない。私たちは真実の愛を見つけたんだ」


将来の王配として、私の婚約者として、いつも隣にいたノアは、とうとうリリアとの婚約を宣言した。


「リリア。お前はどうやって奪った?」

「う、奪っただなんて、そんなつもりは…グスッ」


ああ。結局私は、「王女」でも嫌われる「王女」なのね…。


◆◆◆

だから、ここにきて「日々野梨琉」が「リリア」のようで、でも嫌われるのは「リル」と同じで、なんだか複雑な思いに囚われた。

そんな「リリア」がもしこの世界にいたら…。


どうしてか、私はまだ過去を引きずっているみたいだ。



「リル、好きだ」


だから、そう口にするノアがよくわからない。

ノアが愛したのは「リリア」。「リル」ーー私ではない。


「なあ、リル。最近変わったな?」

「何がだ」

「昔のリルは、ザ・王女って感じだったのに、今はとっつきやすいんだ」


その「ザ・王女」に仕立て上げたのはあなたたちを含め、王城にいる全員だった。

それを愚弄された気分になるのはなぜだろう。


「…リリアは?」

「さあ」


知らない…?

まさか、そんなわけがない。「真実の愛を見つけた」と言ったあなたたちが嘘吐きになってしまう。




「カズヤ。もし浮気されたらどういう気持ちになる?」

「…浮気?それ、は…」


あ。

簡単に聞いてはいけない質問だったと、今更に気づいた。

カズヤにだって、聞かれたくない過去がある。


「すまない、忘れてくれ」

「あ、ああ…」


もちろん、私にも。

これは、私がけじめをつけるその時まで、絶対に口には出さないと決めた、秘密なのだから。

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