第10話 私は化粧を忘れていたらしい。

たまに城を抜け出しては、よく市井に行っていた。

まだ私と同じくらいの子が、走り回っていてーー。

羨ましい。


けれど、だんだん気づいてきた。

私が遊べないのは「勉強しなければいけないから」だけではない。

「王女だから」許されないのだ。


だから、国が、戦火で見舞われた時、少しだけざまぁ、と思ってしまった。

私が王女に生まれた時から決まっていた、誰もかもが「リル姫は女王になる」と予想していた。だからこそ、私は自由じゃなかった。

誰も、こんなふうに国が滅びるとは思わなかっただろう。


父母や忠臣たちが死んでいくのをただただ遠くから見つめて、私は行く街々を転々として逃亡をはかった。


◆◆◆


「ただいま」

「おかえりなさい」


カズヤが帰ってくる。

この楽しくて平和な時間を、私はもう少し過ごしていたい。

たとえあの時に、引き戻されてもーー。



私は次の日曜日、また花恋ちゃんと遊んだ。

正確には、お買い物だが。だけど、私には「自由な時間」に変わりはない。


「梨琉ちゃんって、メイクするの?」

「化粧のことか?あまり…」


ああ、なるほど。なんか不便だなって思ったんだよな。

私、化粧してないんだ。


「学校の校則とかもあるし、休日にしかできないけどね」


こ、校則?

「日々野梨琉」の記憶を辿ってみる。


・化粧してはいけない


あった!

嘘、こんなのあるの…。

そして「日々野梨琉」はずっと化粧していない!?だからあの「美亜」って子に奪われるのよ…。


絶対、カズヤの家にあるわけないから、とりあえず揃えるか。

安くていい、私は途端に化粧していないことにうずうずしてきた。なんで気づかなかったんだろう?


「へえ。こんなのあるのか」


「日本」の進んだコスメ品に感心しながら私は花恋ちゃんのおすすめ通りに揃えていく。




「おかえりー」


カズヤが帰ってきた。化粧した私の顔を見たら、どんなリアクションをするかな?


「ただい…え、リル?」


これは、もしや。


「なんか、いつもと違うな…?あっ、化粧したのか?」


さすがカズヤ、ちゃんとわかってるじゃん。


「…似合ってる、可愛い」///


ーーえ?


い、いま、に、似合ってる、って、言った?

カズヤが、私に?

しかも、可愛いって………!?!?


こんな、お世辞じゃない言葉、はじめて。

すごくドキドキする…!


この気持ち、なんだろう?

心臓が、バクバクしてるの。


でも、聞くのはなんだか恥ずかしい…。

私はそれからずっと心臓がうるさいまま、1日を過ごした。








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