第7話 王女は料理が弱点らしい。

「なあ、リルの特技って?」

「へ、へ?特技かぁ。えーと、計算と政治と…」


いかにも「王女」な特技…。

趣味も読書という、真面目なやつだ。


そんな彼女は今、俺の家に住んでいる。許可はしてないけど、一応「王女様」だからな。

一般ピーポーの俺があれこれ家無しに言えるわけもなく、王女様がとてもホームレスとして生きていけるとは思えない。



「望月くん。この営業成績はなに!?」

「す、すみません…」

「ノルマも毎月毎月達成しない!どうしてかなぁ!?」


この、俺に怒鳴りちらしてくる女上司は加藤優。「鬼女」と呼ばれるほどに怖い。

そして俺は社内で一番怒られている、気がする。


「今日も残業かぁ…」

「どんまい、一也」


奏人が励ましてくれる。



「ただいま…」


はあああぁぁ。まじで、疲れた。


「おかえり」


なんか、夫婦みたいになってるけど?

俺たちはただの同居人だ。


「ごめん、失敗した…」

「ああ、いいよいいよ」


リルはせめて家事をしようと、色々始めた。

流石王女、洗濯、掃除、完璧だった。しかし、彼女には弱点があった。


ーー料理が壊滅的。


流石の俺でもこんな、真っ黒焦げにはならないぞ。

瑠奈が上手すぎたせいか、どうしても比べてしまうのが申し訳ない。


「すまない、調味料わからなくてさ。とかとかとかとか、全部混ぜたらこうなった」


なんで混ぜるんだ!

と言う気力も残ってない。


「ごめん、寝るわ…」

「へ?あ、おやすみ…」



「昨日はごめんな。何も…食べてないだろ?」

「ああ、大丈夫だ」


朝。リルは一番に謝ってきた。

まあ、料理は未経験だったんだし、初めてだとみんなこうなるよな、仕方ない。

それに醤油、味噌、塩、酢とかは知るわけないし。

というか異世界ってこれらがなくて、どういうふうに味付けしてるんだろう…?


「明日は休みだから」

「分かった」


今日は、残業しないよな。

うん、いい天気。


「望月くん。ミスが多い、きちんと確認して提出しなさい!」


うわぁ。付箋が沢山ついてる。

俺は朝から鬼女に怒られた。何が「いい天気」だよ…最悪の日じゃないか。と、過去の自分を恨む。



「なんとか、終電前に間に合った…!」


今日は…夜ご飯、どうするかな。というか、この一週間はずっと残業だ。

まともに食べていない。


「買って帰るか…」


そういえば、リルは何が好きなんだろう?



「おはよう」

「ああ、おはよう」


今日は休みだ。これほど休みを待ち侘びることが、今までにあっただろうか?


「それにしても、カズヤの作るご飯は美味しいな」

「だろう?」

「向こうはーー前の世界は、味がこれよりずっと薄かったからかな」


ほら、やっぱり。

日本の調味料はすごいな、と改めて感心する。


「これはーーお味噌汁、だったか?美味しいな」

「よかった」


彼女はお味噌汁を飲むたびほわ、と頬を緩ませる。

それが可愛くてーー。


「…かわい」


し、しまった。

口に出してしまった…!




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