第6話 王女は、花火によく似合うらしい。
ドーンと、大きな音がする。
俺の後ろに立つ高層ビルと反響して二重になる。綺麗な花火は俺が瑠奈と見た時のように、綺麗で静かに一つ一つ舞い上がっていく。
◆◆◆
「瑠奈。浴衣、似合ってる」
「ふふ、ほんと?ありがと」
去年、この夏祭りで俺と瑠奈は花火を見た。
本格的に、場所どりまでして、俺たちは見たんだ。
「なんかこの花火、瑠奈に似てない?」
「えっ似てる?なら、あれは一也だね」
馬鹿みたいな話をしながら、でも仲が良くて。お互い信頼できる仲で、愛し合っていた、はずだった。
毎年恒例の夏祭りでは毎回「仲がいいねぇ」と屋台のおばさんから言われ、「これおまけだよ」と店のおじさんから言われた。
笑い合って、悲しみ合って、そんな俺たちは…。
◆◆◆
「カズヤ?どうした?」
美人だからか、視線を集めているリルは、俺がじっと黙っているのを心配そうに尋ねた。
「あ、ああ…」
我に返る。浮気した女のことを、俺はまだ引きずってるのかよ。
ーーかっこ悪いな。
「ああ…綺麗で」
「嘘だろ」
リルはなんでもお見通しだ。何も話さなくとも、どうしてこんなにわかってしまうんだろう。
「見て。あれ、カズヤに似てないか?」
「えっ?」
瑠奈が指差した青色の花火とは違い、彼女は真っ白な花火を指差した。
「悲しみは青。喜びは赤。他にも、様々な感情で色が分かれているとしたら、それが組み合わさったら白色になる。それが光だ」
…驚いた。
そんなことまで考えているのか、リルは。
「お前は今悲しんでいる?のか。わからないが、少なくとも喜んではいないだろう。大丈夫、人間はそんな時たくさんある」
ああ、リルはちゃんと見ている。
俺は今更ながら、自分が涙を流していることに気づいた。
「っふ」
苦笑が漏れる。
馬鹿みたいに思い出して、それを恥じながら、悲しんでーー。
リルには全てお見通しだったのだ。
涙を拭って、顔を上げる。
どこで買ったのか、ハンカチを俺に差し出してきた。
ーーああ、綺麗だ。
リルは花火によく似合う。それらは綺麗で静かに、人を感動させる。
これは、瑠奈とは重ねていない、絶対。
「誕生日おめでとう、カズヤ」
「…ああ、ありがとう」
ああ、忘れていた。瑠奈のことでいっぱいいっぱいで。
「ケーキでも買って帰るか」
「もう店開いてないよ」
まあいいか、このままで。
俺にはまた、誕生日を祝ってくれる人が増えたんだ。
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