第5話 私はどうやら早速敵を作ってしまったらしい。

「ああ、リルだよな?好きだ」


ーーえ?


「私はあなたに好きと言われる覚えはありませんが」

「はぁ、本当に冷たい。しかし、私が誰か、を理解したのには感心だ」


言いたい放題だ。

あなたはあの世界で、「好き」と言ったことはないはずなのにーー。

それどころか、私よりも他の女を優先していたのだ。だから、「日比野梨琉」の気持ちも理解できなくはない。だからと言って、いじめはしないけれど。



「全く、これだから可愛くないんだ」


王女に可愛いさを求める方が間違ってるーー。

「可愛い」女がいいのなら、初めから私のことなど望まなければいい、それだけのこと。


「…」


無視しなければ。

ここで、前みたいに、心を揺さぶられてはいけない。失態も犯してはいけない。


そう、彼は敵だ。


◇◇◇

「なぁ、リル。もうすぐ夏祭りがあるんだが…」

「ナツマツリ?なんだそれは」


俺が住む地域では、地域主催の夏祭りがある。

これが結構大規模で、花火まであがるのだ。

俺は毎年瑠奈と行っていたが、今年は誰もおらず、かといって行かないのは寂しいからとりあえず誘ったのだが…。


「こんな感じだ」


ネットで動画を検索して見せてあげた。


「へー。楽しそうだな。それにしても、皆服装が違うね」

「ああ。これは浴衣と言うんだ」


すると、彼女は浴衣を着てみたいと言い出した。

浴衣って、異世界人に似合うのか?


金をやるから買ってきてみろと言うととても嬉しそうにしていた。



「来たか」


思った以上に似合っていて驚く。


真っ黒の髪に似合いそうな淡い青色の浴衣はとても綺麗で可愛くて、見惚れてしまった…


「なに、見惚れた?」

「い、いや、違う」


なんでバレるんだよ。


「行こうか」


それから金魚すくいや射的など、お祭り定番のものを沢山して、午後9時を回った頃にはもうヘトヘトに疲れていた。


「ふぅ〜、疲れたな」

「ああ。ところで、学校はどうだ?」


「日比野梨琉」が相当悪いやつだったのなら、「リル」も苦労するのではないのか?


「うーん、それがね、日比野梨琉ってお金持ちだったみたい」


そりゃそうだろ。

どれくらいの額かなんて、一般人の俺は知らんけど。


「みんな媚び売ってきて、王女のときとあんまり変わらないかな」


相当苦労してきたんだな。王女様も大変だなーーそう考えるうちに、ドーンと音がする。


「行こう、始まったみたいだ」


俺たちは駆け出していく。


「なにあの子…?」

それを、1人の女性が不思議そうに見ていたーー。

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