第二話『暴力的謀略』
——大会決勝の数日前のこと。
怪しい施設。
強化ガラスの壁と天井に囲まれた、狭い密室の中にひしめき合うのは、
皆全くの同じ顔。
皆同じ迷彩柄の軍服に身を包む。
背丈約七フィート。
丸太のような上腕と
盛り上がった
……彼らは、筋肉モリモリマッチョメンの、兵隊だ!
その兵たちの顔をよく見ると……
なんと、世界ボクシング大会の四年連続チャンピオンの男、オットー・フェルトンだった。
実は、人類最強の男オットーは、母国の軍に、自身の遺伝子を提供して、最強のクローン軍を作ることに協力していた。協力期間は、遺伝子の劣化するまでの半世紀。前払いで、報酬は一兆クレジット。そこそこの国の国家予算並み。さらに五十年後には後払い報酬として、さらに一兆クレジット(インフレ調整も加味して変動するらしい)。己の肉体を使って金を稼ぐのが大好きだったオットーは、その話に
つまりここは、クローン軍の養成施設というわけである。
そして、施設の責任者である科学者、テラノ博士は、
「いけ、遺伝子共鳴装置
テラノ博士は、手のひらサイズの、ストップウォッチのような丸く薄いガジェットのスイッチを押した。
\ピピピッ/
\ピピピッ/
\ピピピッ/
三連掛ける三回の『ピ』の合図の後に、
\ピッ♪/
と、小気味良く鳴ったかと思えば……
「「「「「「うわああああああああああああ!!!!!!」」」」」」
何十何百の同じ顔が、一斉に大絶叫。
オットー・クローンの悲鳴だ。
直後、彼らはバタバタバタと、ドミノ倒しするかのように倒れていった。
そうしてできた、死体の山……
ではなく、死んではおらず、ただ『気絶』しているだけらしい。
だが、同じ顔と体型の人間たちが、横たわっているのは事実。
物騒な感じがするのには、変わりない。
「これが『オットー・フェルトン』のクローンじゃなけりゃあ、装置による遺伝子暴走に耐えきれず、死んじまってると思うがねぇ」
テラノ博士は、オットーを褒めるような口ぶりでそう言った。
「貴様、その口を閉じろ!」
隣にいた男は、博士の胸ぐらを掴み軽々と引き寄せると、拳を振り上げる。
「ひぇえ! 暴力反対!!」
そう博士は懇願するが、
「こうしてくれるわ!」
ドガッ、と殴りつけられてしまった。
「まぁ、とはいえ『気絶』はクリアだ。次は最終段階の『同期』だ。早く完成させないとどうなるかわかっているよなぁ? 博士」
そして翌日、ついに……
「遺伝子共鳴装置
テラノ博士が、高らかに宣言した。
だがやはり隣にいる男が、
「おいテラノ博士、最強の軍隊なんてのはどうだっていいんだ。この装置の使い道は、もっと他にあるのさ……」
と、テラノ博士を否定する。
「他の使い道? 想像もつかないな」
「天才科学者のくせに、そんなこともわからないのか? オリジナルのオットーを、永遠にクローンと同期して、死ぬまでクローン兵として生きてもらうのさ。そうすれば、オットーは二度とリングには上がれない。つまりは、俺の天下が訪れるわけだ!」
「へぇ、なるほど。じゃあ、決勝大会の会場に、オットー・フェルトンのクローンを連れていくのか? 同期はある程度近い距離で行う必要があるが、そんな隙、最強の人類にあるのかね? 同じ体、同じ顔をしたやつが目の前にいたらすぐに気づかれるぞ?」
「フッ、やはり想像力がないな、テラノ博士は。昨日できた
「ああ、なるほど。不良品……ではなく、遺伝子共鳴装置
「あー、惜しいな。単に使えばいいわけではない。リング上で、俺のパンチと同時に、だ。そうすれば……フフフ、一石二鳥だろう? 哀れにも俺のスペシャルなパンチの餌食となり気絶したオットーは、ここに連れてこられ、晴れてオットー・クローン軍の一員となるのだ!! ああ、楽しみだなあ!!!!」
「はえー! それは名案だ。ルイ・ジョーンズの勝ちも演出できるってわけか! だがルイよ……お前、プライドってのはないのか?」
「黙れ、それ以上言ったら、
「は、はーい。ごめんなさーい」
〈第三話『エクストラ・ステージ』に続く〉
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