24 輪廻
教会。
海人が一人で座っている。
ラジオが聞こえる。
丸目 み・な・さーん!本日は放送時間を変更してお送りしておりまーす!避難は順調ですか?逃げ遅れや忘れ物があっても、間に合わないので諦めてくださーい!え?私はどうなるかって?よくぞ聞いてくださいました!ご安心ください。放送局がある刀京駅付近は、今回の標的になっておりませんので!とはいえ、刀京が更地になってしまったら、もうこのラジオもお役御免ですね。最後の放送になるかもしれませんが、お聞き逃しのないよう、お付き合いお願いいたします!それでは、天気予報のお時間です!東の地区、炎獄は晴れ。最高気温は過ごしやすいくらいでしょう!西の地区、朝倉家も晴れ。最低気温は過ごしやすいくらいでしょう!南の地区、ゴールデンパレスも、もちろん晴れ!北の地区、斎庭も晴れております!最後を飾るに相応しい、絶好のお日和です!
海人 …絶好、かぁ。
朝倉が入ってくる。
朝倉 いた。
海人 いるよ。
朝倉 探しました。
海人 そう。
朝倉 …あなたは逃げないんですか?
海人 どこに?
朝倉 どこって。
海人 お優しいね、当主様は。勘当息子にも目をかけていただける。
朝倉 私の兄はあなただけなんですけど。
海人 それが?
朝倉 …香川がみんなを逃がしてくれました。
海人 そう。良かったじゃない。
朝倉 …やり直しませんか。
海人 何を?
朝倉 …家がなくなっても、人は残ってます。手加減してくれたんですか?
海人 嫌味かい?僕の部下たちが使えなかったって?
朝倉 違います。
海人 弟に従うのは御免だね。
香川、入ってくる。
香川 …若、そろそろ行かないと。
海人 ほら、さっさと行きなよ。
朝倉 …あなたが当主になればいいんじゃないですか。
海人 え?
朝倉 私が席を譲れば。
海人 …本当、お前ってやつは。
海人、朝倉に向き合う。
兄は弟を愛おしそうに、憐れむように見つめる。
兄は弟を抱きしめる。
海人 呆れるほど愚かだ。
海人は朝倉を突き放す。
朝倉は膝をつき、倒れる。
朝倉にナイフが刺さっている。
海人、倒れた朝倉に近づく。
海人 向いてないよ、お前には。何もかも。でも大丈夫。私なら上手くやれますから。あなたが言った通り。だから、安心してください。
海人、朝倉がかけていた眼鏡を外し、自分にかける。
海人 香川くん。
香川 …若。
海人 どう?似合う?
香川 …眼鏡だけじゃ、変装にはなりませんよ。
海人 やっぱり?
香川、持っていた刀を海人に預ける。
香川 これを、お持ちいただければ。
海人、刀を受け取る。
海人 手に馴染む。良い刀だね。
香川 潮が使っていた刀です。
海人 いいの?
香川 …我々が仕えているのは、朝倉家ですから。それに、解放されて、良かったとも思ってます。潮には、重すぎたんです。
海人 香川くんのそういうとこ、嫌いじゃないよ。
香川 …潮は、俺のことを呼び捨てにします。
海人 ありがとう、香川。
香川 お礼も言われたことないです。
海人 そう。勉強しないとだ。
香川 …行きましょう。こちらです。
香川、海人、出ていく。
ラジオが流れている。
丸目 聞こえますか?政府の放送がうるさく響いてきましたよ!カウントダウンが始まったみたいです。これまでの生活にサヨナラを、新しいこれからにご挨拶を!どうか、どうか悲しまず、笑って迎えようじゃありませんか!それではみなさん、ご機嫌よう!また会う日までどうぞお元気で!さよならにゃー!
刀京は炎に包まれる。
教会は焼け落ち、朝倉は瓦礫に埋もれる。
伊達は崩れ行く教会を窓越しに眺めている。
武田は爆発音を子守歌に眠っている。
水海は子供たちと共に、廃れた神社の前で祈っている。
香川、海人は電車の窓から過ぎていく景色を眺めている。
丸目は眼前で繰り広げられる惨状を凝視している。
そして、全てが終わった後。
学校の教室。
日本史の授業中。
先生 …ここで、長きに渡って続いた刀京の歴史に、幕が下りるわけですね。
生徒 先生、質問!
先生 はい、なんでしょう?
生徒 そこに住んでた人たちって、今もどこかにいるんですか?
先生 生き延びて、普通に暮らしていると思いますよ。
生徒 じゃあ、このクラスにもいるかもしれないってこと?
先生 どうでしょうね。
生徒 いいなぁ、いたら楽しそう!
生徒 え、ちょっと怖くない?だって、当たり前に刀がある世界から来たんでしょ?
生徒 苦労してそうだなぁ。
先生 はいはい、いろんな想像をするのは構いませんが、授業を続けますよ。現在、刀京があった土地は立ち入り禁止となっています。不発弾の報告もあるので、近づかないように。安全が保障された後、政府は国立公園としてあの土地を開放するそうです。それまでは、興味があっても、行くのは我慢してくださいね。
チャイムが鳴る。
先生 はい、今日の授業はここまで。来週、この単元について確認テストをしますので、そのつもりで。
生徒 起立、気を付け、礼。
生徒たちは教室から出ていく。
生徒 水海先生。
先生 どうしました?
生徒 あの…この、四人の人たちは、本当に悪人なんでしょうか?
先生 …どうして、そう思ったんですか?
生徒 …。
先生 そうですね。歴史的には、勝った方が正しい、と思われる傾向が強いです。かといって、負けた方が間違っていたかというと、そうではありません。誰が、何を思い、何のために命を懸けたのか。ぜひ、それを考えて、あなたなりの答えを導いてください。
生徒 …わかりました。ありがとうございます。
先生 あなたに、神のご加護がありますように。
生徒 何ですか、それ?
先生 おまじないです。
二人は教室から出ていく。
一日が終わり、明日が来る。
刀京事変 チヌ @sassa0726
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