22 転機

 教会。

 海人がラジオを弄んでいる。

 水海は海人の隣に座っている。


丸目 …良い一日をお過ごしください!それではみなさん、ご機嫌よう!さよならにゃー!


 ラジオ放送が終わる。


海人 つくづく、馬鹿な弟だね。水海もそう思うでしょ?

水海 …。

海人 駅は敵にしてはいけない、しかし味方だと思ってもいけない。それほど追い詰められてたってことかな。香川くんも、いい加減見捨てていいのに、義理堅いんだから。ところで水海、神父くんの居場所、知らない?まさか、鍵のかかった部屋からいなくなるとは思わなくて。彼、マジシャンの方が向いてるんじゃないかな。油断したこっちが悪いんだけどさ、このままだと怒られちゃうなぁ。


 伊達を縄で拘束した武田が入ってくる。


武田 宅急便でーす。

海人 噂をすれば?今日はツイてる。


 武田、伊達を海人の前に転がす。


水海 …!

武田 逃がしてんじゃねぇよ、ボンボンが。

海人 ありがとう、頼りになるね。

武田 待った。


 海人が伊達に近づこうとするのを武田が防ぐ。


武田 話が違え。

海人 話?

武田 やしろには手を出さねえはずだろ。

海人 あぁ…。

武田 それに何だあのザマは。俺ごと巻き込んで弟は逃がしただぁ?脳ミソ腐ってんじゃねぇか。良い医者紹介するぜ?

海人 悪気はなかったんだ。

武田 あってたまるか。随分と舐められたもんだ。

海人 そんなに怒ることないじゃないか。社の件は、僕からも上に言っておくから。

武田 気に入らねぇな。その態度。俺はテメエの部下じゃねぇんだが?

海人 もちろん、対等にいこう。


 海人、伊達に近づく。

 武田は伊達から離れる。


海人 おかえり、神父くん。君はどうしても酷い目に遭いたいみたいだね?

伊達 …左足を。

海人 何?

伊達 左足を、斬られたならば、右足をも、差し出しましょう。そう、神様も仰っています。

水海 …。

海人 我慢比べがしたいなら。


 海人、伊達に蹴りを入れる。


海人 結構良い勝負になると思うけど。

伊達 はは…私は、あなたも愛しますよ。朝倉海人。


 伊達、海人をしっかりと見る。


伊達 でも、シスターの居場所は、私だけのものです。

海人 守れなかったくせによく言うよ。

伊達 守りたかったのは、あなたの方でしょう。


 海人、武田の刀を奪い伊達の喉元に突きつける。


伊達 血は争えませんね。

海人 いくら神の言葉を語ろうと、君は人だ。人なら殺せる。でもそんな手間はかけたくないんだ。わかるよね?僕はただ、彼女に花を手向けたいだけ。教えてよ。

伊達 少なくとも最初の相手は、あなたじゃない。


 伊達、縄抜けし海人から刀を奪い、動きを封じる。


伊達 お返しします。


 伊達、武田に刀を返す。


海人 君ら、グルだったんだ。

伊達 水海さんを頼みます。

武田 あぁ。


 伊達、海人を連れて出ていく。


武田 取って食いやしねえよ。安心しろ。

水海 …あなたは、千秋くんのお友達?

武田 へぇ、千秋ってのか。

水海 あの子は、迎えに来るって言ったの。

武田 そのつもりだろうよ。

水海 足手まといには、なりたくないわ。

武田 本人に言ってやれ。


 伊達、戻ってくる。


伊達 お待たせしました。


 水海、立ち上がる。


水海 千秋くん。

伊達 驚かせてすみません。

水海 海人くんは?

伊達 眠ってもらいました。

水海 …どうして戻ってきたの?

伊達 約束を果たすために。

水海 逃げるの?どこへ?

伊達 神のご加護がある場所へ。

水海 神様…?


 伊達は武田に目配せする。


武田 …斎庭のガキどもとあんたぐらいなら、匿える。

水海 どう言うこと?

武田 神は一柱だけじゃねぇ。特にこの国じゃ。

水海 あなたは、何者?

武田 牧羊犬。

伊達 まさか。

武田 へぇ?じゃあどう見る?

伊達 羊飼い。

武田 …大層なこった。

伊達 水海さん、子供たちを集めてください。ここを出ます。

水海 政府の方々は?

伊達 大丈夫です。ので。

水海 …あなたを、信じているわ。


 水海、出ていく。


武田 テメエの情報網は底なしか?

伊達 本分ですから。


 伊達、身に着けていた十字架を外す。


伊達 借りは返す。それまでよろしくな。

武田 アーメン。


 伊達、武田、出ていく。

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