21 放送局
丸目が原稿を広げ、マイクの前に座っている。
「ON AIR」の看板が光っている。
丸目 刀の都、刀京にお住いのみなさーん!こんばんにゃー!情勢がひっどいことになってますが、そこはそれ、ラジオDJくらいは明るく、いつも通り、テンション上げていきますよー!さて、それぞれの地区の動向なんですが、政府による襲撃を受け、朝倉家はもはや壊滅状態となっております。朝倉家のご当主と側近の方の行方はわかっていません。無事だといいですねー。ゴールデンパレスは、いつも通りのどんちゃん騒ぎです。王様が殺されたっていうのに、呑気ですねぇ。斎庭は完全に政府の植民地と化してます。まぁ、あそこは子供たちばかりなので、政府のお偉いさんも虐殺とかはしないでしょう!炎獄は解散されちゃったので、あそこはただの荒れ地に元通りとなっております。危ないので近づかないようにお願いします!あの隊長さんは政府に戻っちゃったんでしょうか?いろんな憶測が行き交って、どれが真実かわからなくなっていると思います。正直なところ、私も何が何だかさっぱりです!信じられるのは、結局自分の目で見たものだけです。誰が正しくて、誰を信じるのか。みなさんの目で見て、決めてくださいね。それでは本日の放送はここまで…。
朝倉、放送局内に入ってくる。
丸目 ご、ご当主様!?どうしたんですか、こんなところに!?
朝倉 手を貸してください。
丸目 手!?手ですか!?私の!?
朝倉 あなたのではないんですけど。
香川、遅れて入ってくる。
香川 若!勝手に行かないでください!
朝倉 手伝ってくれますよね?
香川 え、ちょ、こいつに何させる気ですか?
朝倉 ちょっと黙っててくんない。
丸目 お手伝いしたい気持ちは山々なんですけど…。
朝倉 何ですか。
丸目 どうして、王様を殺しちゃったんですか?
朝倉 今その話が必要ですか?
丸目 ひ、必要です!教えてくれなきゃ、手伝いませんから!
朝倉 はぁ。ムカついたから。以上。
丸目 本当の本当に、それだけですか?
朝倉 それだけですけど。
丸目 そう、ですか。
朝倉 話したんだから手伝ってくれますよね?
丸目 …何をすれば良いですか?
朝倉 あの人に会わせてください。
香川 あの人…?
丸目 ダメです。それは、それだけはできません。
朝倉 はぁ。じゃ、そこどいて。
丸目 ダメです!
朝倉が力ずくで丸目をどかそうとするのを香川が止める。
香川 潮!
朝倉 はぁ。何?
香川 冷静になれって。
朝倉 私は冷静ですよ。
香川 いーや、冷静じゃないね。何考えてんの?
朝倉 水海を助けるんですよ。
香川 そのためなら何しても良いと思ってんの?
朝倉 何?俺に命令すんの?
香川 だったら?俺も殺すわけ?
朝倉 殺すよ。
香川 やってみろよ!
朝倉、香川の一対一。
丸目 きゃー!やめてください!暴力反対!
丸目、まだ放送中だということに気づく。
丸目 あ、朝倉家のご当主様と、お付きの方が喧嘩し始めちゃいました!誰か、誰かこの二人を止めてください!今、仲間割れをしてる場合じゃないはずです!もうすぐ刀京が、大好きなこの町がなくなってしまうかもしれないのに!誰でもいいから助けてください!
朝倉、放送機器を壊す。
朝倉 うるさい。
香川 潮!
朝倉、丸目に刀を向ける。
香川、動けない。
朝倉 会わせてくださいよ。
丸目 ダメ、です。
朝倉 はぁ。
丸目 私、私、みなさんが、大好きでした。帝都にずっと、住んでいたから。あそこがどんな場所か、ご存知ですか?自由もない、夢も語れない、ただひたすら、敷かれたレールの上を走るだけで、ちょっとでも遅れたり、寄り道したりすることすら許されない、窮屈な場所なんです。だから、自分のやりたいこと、守りたいもののために、真っ直ぐに生きているみなさんが、大好きで大好きで、ずっと、見ていたいと思ったんです。私には出来ないことだったから。お願いです、刀を納めてください。
朝倉 無理。
丸目 …そうですか。軍事法第64条に基づき、抜刀します。
丸目、短刀を取り出し朝倉の刀を弾く。
丸目 軍事法第64条、刀京駅に関する法律、一、刀京駅は中立とする。二、刀京駅は第三者によって管理する。三、刀京駅の中立が侵された場合、武力をもってこれを排除する。四、刀京駅は如何なる権力にも屈しない。
朝倉 敵ってこと。
丸目 秩序を乱すのであれば。
香川 待って!
香川の制止を聞かず、朝倉は丸目に斬りかかる。
朝倉、丸目の一対一。
朝倉、刀を叩き落とされる。
丸目、朝倉に短刀を突きつける。
丸目 命まで奪うつもりはありません。ここから立ち去ってください。
朝倉 …何で。
丸目 我々は中立です。
朝倉 違う、何で殺さないんですか?
丸目 あなたは私より弱いので。
丸目、短刀を朝倉から外す。
丸目 せいぜい長生きしてください。
香川 …若、行きましょう。行きますよ。
香川、朝倉を引きずって連れて行く。
丸目、マイクの前に座り直す。
丸目 大変失礼いたしました!ちょっとしたトラブル、いやもはや放送事故ですね。映像でお送り出来なかったのが悔やまれるダイナミックアクションだったのですが、みなさんの脳内でカッコよく補完しといてください!大丈夫です。上に立つ人が変わっても、この土地自体は何も変わりません。みなさんはいつも通り、良い一日をお過ごしください!それではみなさん、ご機嫌よう!さよならにゃー!
看板の電気が消える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます