20 天使
教会。
讃美歌を歌う子供の声が聞こえる。
祈りを捧げている伊達。
海人は遠くから伊達を眺めている。
海人 信じられないな。君が神に祈るなんて。
伊達 …私もです。
海人 考えてくれた?政府に戻ってくる話。
伊達 何度聞いても同じです。そちらには戻りません。
海人 困ったな。君を失うのはあまりにももったいない。
伊達 知りたいことがあるなら、力ずくで聞き出せばいいでしょう。あなたの得意な。
海人 やっぱり、そうするしかないかぁ。
海人が合図すると、黒いヴェールに身を包んだ人が歩いてくる。
海人はその人をエスコートし、伊達の前まで連れて行く。
伊達、恐る恐るヴェールを外す。
伊達 シス、ター…。
海人 …。
伊達、手を伸ばすが踏み止まる。
伊達 いえ、シスターは亡くなったんです。この方は?
海人 彼女は水海。
伊達 …何ですって?
海人 刀京がまだ、一つだった頃。そこは朝倉家の領土だった。朝倉家は天皇家に縁のある血筋の娘を嫁に迎えることで栄華を誇っていた。地位と権力は、そうして維持されてきた。
伊達 …それが、今なお続いている。
海人 水海は朝倉家の老人たちに虐められてね。心が壊れちゃったんだ。何せ、シスターが婚約を破棄したものだから、残った水海にも逃げられたら困る。
伊達 彼女は、シスターの…。
海人 実の妹だ。
伊達、その場に崩れ落ちる。
海人 良かった、ちゃんと効いた。
海人、水海を伊達の目の前に連れて行く。
海人 戻ってきたら、彼女を助けてあげる。過去にしがみついた土地なんか捨てて、また一からやり直せばいい。君も、そのつもりで作戦を立てたはずだろ?刀京殲滅、住民ごと焼き払う、悪魔みたいな作戦をさ。
海人、伊達と水海を残して教会から出る。
教会の鍵が閉まる。
伊達 シスター…俺は、どこで間違えたんですか…?
水海 …千秋くん?
伊達 え?
水海、伊達と視線を合わせる。
水海 あなた、千秋くん?
伊達 …はい。
水海 良かった。
水海、伊達を抱き締める。
水海 いい子、いい子。
伊達 …。
水海 …盗聴が怖いから、このまま喋るわね。
伊達 …!
水海 海人は約束を守るつもりなんてないわ。あの人はただ、全てを壊したいの。自分を認めなかった全て。そのわがままに、あなたが付き合う必要なんてない。あなたは、あなたの目的を果たして。
伊達 私の…。
水海 私はここで、姉さんが守りたかった、この場所を守る。だからもう、心配しないで。あなたは逃げて、探して。
伊達 水海さん…。
伊達、水海から離れる。
伊達 必ず、迎えに行きます。あなたに、神のご加護がありますように。
伊達、水海に礼をする。
水海 ありがとう。
水海、伊達に礼を返す。
伊達、水海のヴェールを元に戻し、隠し通路から出る。
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