19 オウサマ

 秋葉の部屋。

 絢爛豪華な装飾品や洋服に埋め尽くされている。

 秋葉は上機嫌で動き回り、朝倉と香川は立ち尽くしている。


秋葉 くつろぎなよ、疲れたでしょ?何飲む?コーヒー?紅茶?ミルクと砂糖はつける?今あるのはジャムクッキーかぁ、紅茶が良いね。ボクのオススメ。

香川 …政府に支配されたんじゃなかったのか?

秋葉 娯楽に飢えてるのはみーんな一緒。ここは女の子が多いからさ、ボクは別の戦い方を教えてあげたの♡柔は剛を制すって言うでしょ?ほら、見てみなよ。自分の使命も忘れて遊び呆けてるヤツら!滑稽でしょ?


 秋葉はティーカップを並べる。


秋葉 君たちもずっとここにいて良いんだよ?辛いことも苦しいことも全部忘れてさ。ここでは欲しいものは何でも手に入る。お金さえあればね。


 秋葉は椅子に座って紅茶を飲む。


朝倉 水海の居場所は。

秋葉 この部屋は自由に使って良いよって言ったんだ。大事なお客様だから、何かあったらボクに教えてって。でも彼女、なんだかぼんやりしててさ。心ここにあらずって感じ。町の子たちも何も言ってこないってことは、自分でどっかに行っちゃったんじゃない?

香川 本当に知らないんだな?

秋葉 知ってるとしたら神父様でしょ。水海様、水海様、って君たちは言うけど、ボクにとっては普通の女の子にしか見えなかったよ?そんなに貴いお方なら、鳥籠の中でずっと飼ってれば良かったのに。

香川 その減らず口、一生開かないようにしてやろうか?

秋葉 きゃーこわーい♡香川くんさぁ、ここがボクの王国だってこと、忘れてない?

香川 …。

秋葉 お茶でも飲んで、少しのんびりしようよ。せっかくいれてあげたのに冷めちゃう。


 秋葉が促すと、朝倉と香川は渋々座る。


秋葉 美味しい?クッキーもあるよ。

朝倉 協力してくれんの?

秋葉 もちろん♡

朝倉 何で?

秋葉 神父様が教えてくれたんだ。これは恋だよって。好きな人のためなら何でもできるし、何でもしてあげる。だから安心してボクを頼ってくれて良いんだよ♡

朝倉 …キモ。

秋葉 ひどーい。君が神父様に向ける視線も大概だと思うけど〜?

朝倉 は?

秋葉 神父様の愛って心地良いよね。自分だけに向けられてるって錯覚しちゃうくらい。ボクも同じだったからわかるよ。あれはボクたちひとをダメにする愛だ。追いかけてったら破滅するよ。

朝倉 それを決めるのは俺です。


 朝倉、秋葉を刺し殺す。


香川 若!?何を…。

秋葉 (吐血する)あぁ、良かった。やっぱり、殺されるなら、君だ。


 朝倉、手近にあった洋服で刀の血を拭き取る。


朝倉 行くよ。

香川 行くって…。

朝倉 来ないなら置いてくから。


 朝倉、部屋から出て行く。

 香川、秋葉を気にしつつ朝倉を追う。

 丸目が椅子裏からひょっこり現れる。


丸目 きゃー!大変!血が!ちょっと待ってください、お医者さんを呼んできますから!

秋葉 待って、ボクの話聞いてよ。どうせ助かんないから。

丸目 そんな、そんなこと言わないでください!

秋葉 ボクを殺したのさ、神父様ってことにしてよ。

丸目 …なぜ、ですか?

秋葉 その方が、みんな信じやすいから。ね、いいでしょ。

丸目 …私、嘘はつけません。

秋葉 ボクの遺言ってことでさ。ね、お願い。


 丸目、部屋から逃げるように去る。


秋葉 はは。シスターも、こんな気分だったのかなあ…。


 秋葉、動かなくなる。

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