10 地下牢(南)
鉄格子の嵌められた牢屋。
伊達が閉じ込められている。
うっすらと総理の演説が聞こえる。
香川、警戒しながらやってくる。
香川 クソ、好き勝手言いやがって。
伊達、香川に気づく。
伊達 これは、珍しいお客様ですね。
香川 あんたは…。
伊達 お久しぶりです。香川さん。ご子息を助けに?
香川 当たり前だ。
伊達 場所の目星はついているんですか?
香川 刀京の地下がどうなっているかは、朝倉家が一番よく知ってる。若は恐らく刀京駅の東にいるはずだ。
伊達 なるほど。それぞれの地区と一番遠い場所に監禁されていると。
香川 実際、あんたがここにいることで確信が持てた。
伊達 それは良かった。では、お達者で。神のご加護がありますように。
香川 …。
香川、もじもじする。
伊達 …行かないんですか?
香川 いや…こういうときってさあ、助けてくれとか言わないの?
伊達 あぁ、お気になさらず。どうせ私はまだ殺されません。
香川 え、何で?
伊達 私に聞きたいことがあるみたいですよ。
香川 …拷問待ちってこと?
伊達 法律では、禁止されてるはずですがね。今の総司令ならやりかねません。
香川 総司令って、上で演説してる?
伊達 あれは総理です。張りぼてのね。総司令はこの件で表に出て来ることはないと思いますよ。悪知恵が働く人なので。
香川 ってことは、まさか若も…!?
伊達 それはないでしょう。見せしめの処刑が関の山です。
香川 もっとやべえじゃん!
伊達 いいですか、政府の目的は刀京の制圧、及び壊滅です。私なら、朝倉家から壊滅させますね。現状、一番扱いづらい地区を最も効果的に、最も少ない被害で制圧できるなら、躊躇わずにトップを消しますよ。
香川 我々を甘く見ないでいただきたい。例え若が目の前で首をはねられようと、そんなことで朝倉家への忠誠は揺らぎません。もちろん、若が一番大事ですけど、若がいなくなっただけで瓦解するほど脆い地区じゃない。
伊達 …なるほど。
香川 それを言うなら、斎庭の方が危ないんじゃないですか?あそこには刀を振るえる人なんてほとんどいないし、それに大半が子供でしょ?
伊達 純真無垢な魂には、他の何人も寄せ付けない力があります。
香川 …わかりやすく。
伊達 自分の身は自分で守るように言ってあります。あの子たちは強いので。
香川 本当かなあ。
香川、立ち去らずその辺にいる。
伊達 …まだ何か?
香川 ああもう!こっから先は独り言だからあんたには全然関係ないんだけど!俺は一人で若を助ける自信がない!腕は立つ方だと思ってたけど政府相手に全然歯が立たなかったし!かっこつけて「大勢だと隠密には向いてない」とか言って一人で来ちゃっただけで本当はめちゃくちゃ心細いし!でもここであんたに助けを求めるなんてかっこ悪いじゃん!借りも作りたくないし元々敵同士だしさあ!
伊達 …素直なのはあなたの美徳ですね。助けてもらえますか。その方が私にとっても都合がいい。
香川 うん…え、いいの?
伊達 一度は手を組んだ仲です。それに約束の情報もまだ渡せていません。利害の一致ですね。
香川 マジ!?え、やっぱなしとか言わないよね?
伊達 言いませんよ。神に誓って。
香川、伊達を牢屋から出す。
香川 え、あれ、あんた刀は?
伊達 没収されました。
香川 えぇ…これ、若のだから大事に使ってね。
伊達 はいはい。
伊達、香川から刀を受け取る。
伊達 それで?ここからどうするんです?
香川 とりあえず東側に向かって若を探す。ちゃんとついてこいよ。
伊達 大丈夫です。言っておきますが、私は方向音痴なのであなたとはぐれたらここで野垂れ死にます。
香川 …組む相手間違えたかなぁ。
伊達 さ、行きましょう。
伊達、逆方向に歩き出す。
香川 あぁ、ちょっと!そっちじゃないって!
香川、慌てて追いかける。
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