06 武田と秋葉
廃れた神社。
秋葉が一人で歩いてくる。
秋葉 ほんとにこんなところにいるのかなぁ。
武田 なぁんでテメェがここにいやがる。
武田、秋葉の背後からやってくる。
秋葉 わぁ☆ほんとにいた。
武田 …茶は出さねぇぞ。
秋葉 いいんだ?そんな簡単に背中向けちゃって。
武田 テメェからわざわざ来るってこたぁ、なんかあんだろ。
秋葉 どうやってここに来たのーとか、なんでここを知ってるのーとか、聞かないの?
武田 テメェなりに来たんだろ。治療費は請求すんぞ。
秋葉、ふらふらと歩きながら話す。
秋葉 …たけだクンってさぁ。
武田 あ?
秋葉 本当は馬鹿じゃないでしょ。
武田 …。
秋葉 わかっちゃったんだよねー。ほんとのほんとに頭悪いヤツじゃ、ここのトップになんてなれないってこと。
武田 そうかよ。
秋葉 だって、羊に羊は飼えないじゃん?
武田 なら俺は狗だな。
秋葉 牧羊犬ってこと?迷える子羊達の?
武田 どうとろうが勝手だが、狗にだって主はいるさ。
秋葉 それは本当に飼われてるの? それとも、飼われてるフリだったりして。
武田 テメェはどっちのが都合が良いんだ?
秋葉 どっちでもいいけど。君は飼う側の器に見える、とだけ言っとくね。
武田 そりゃどーも。
秋葉 飼われてるとしても、主の手を噛みちぎるくらいがお似合いだよ。
武田 褒め言葉として受け取っとくわ。
秋葉 正当な評価だよ。君はここで満足するようなタマじゃない。でしょ?
武田 テメエに評価されても嬉しかねえ。
秋葉 評価してくれる人がいるって幸せなことなのに。
武田 で?
秋葉 まぁきっと君は、ボクと違って一人でも生きていける人種、だけど。
武田 独り言を聞いてほしくて俺んとこに来たなら帰れ。
秋葉 えー?
武田 ごたごた言ってねぇでさっさと言え。
秋葉 あれ、怒った?もー、短気なんだから。
武田 用件は。
秋葉 わかってるくせに。
武田 わかるか。
秋葉 ちょーっと面倒なことになっちゃったんだ。
武田 はーっ、嫌だ。
秋葉 まぁまぁ、最後まで聞いてよ。朝倉のお坊ちゃん、いるじゃない?
武田 嫌だっつってんだろ。
秋葉 彼の大切な人にちょこっとだけイタズラしたらさ、案外大変なことになっちゃったんだよね。
武田 ちょこっと、ねぇ。
秋葉 本当にちょこぉっとだよ?この前散々暴れられてさ。余裕ぶってまた一緒に遊ぼうって言ったんだけど、あの子、次は流石に本気でボクを潰しに来る。
武田 そうか。
秋葉 実際手に負えないんだよねー、あの坊ちゃん。今度は隙も見せてくれないだろうし。そこで!
秋葉、武田を示す。
武田 嫌だ。
秋葉、武田に近寄る。
武田、逃げる。
秋葉、武田の手を取る。
武田、振りほどこうとするが、出来ない。
武田 このクソゴリラ…。
秋葉 ひどーい。まだ何も言ってないじゃーん。
武田 テメェの問題はテメェでやれ。
秋葉 朝倉と斎庭、手を組むよ。
武田 …銀家が蒼庭と?
秋葉 ボク、二つの勢力を一気に相手するの。
武田 面倒は御免だ。
秋葉 でもでも、この状況、君にだって有利だよね。ね?
武田 ああ成程。お前がやられたとこを搔っ攫えばいいってことか。
秋葉 やぁん、なんでそんな腹黒いこと考えられんの信じらんなーい。そうしたいならそれでもいいけど、そうすると今度は君ひとりだけであの二人を相手することになっちゃうね。政府ご自慢の、刀京随一を誇る軍事力をもってしても、果たして勝てるかなぁ?
武田 …。
秋葉 む・り。だよね。だってボクたちが刀を持てるのは、それだけが理由じゃないし?
武田 …。
秋葉 だーかーらぁ、手を組んであげる。こんなチャンス、二度とないよ?
武田 …。
秋葉 どうする?このままボクの王国が滅ぶのを見てる?それとも…。
武田、秋葉の手を振りほどく。
武田 …勝算はあんのか。
秋葉 おおぅ!さっすがぁ♡協力してくれるんだね!
武田 どっちだ、答えろ。あんのか、ないのか。
秋葉 あるよ。君がどっちかを引き受けてくれるならね。ボクとしては、あのお坊ちゃんを任せたいんだけど。
武田 銀家の坊はテメェと殺りてぇんじゃねぇのか。
秋葉 うん、そうだよ。でもボク今度は神父様と闘ってみたいからさ。
武田 はあ?ンだそらぁ。
秋葉 だって、友情は今お腹いっぱいなんだもん。
武田 ああ…テメェにとっちゃ、奴らも薪か。
秋葉 そういうつもりじゃないんだけどなー。ま、でも、間違ってはないのかもね。
武田 …。
秋葉 ボク、次は愛情を教えてもらおうと思ってさ。
武田 あの神父にか?やめとけよ。胸焼けすんぞ。
秋葉 甘いってこと?愛って甘いの?それともお酒みたいな感じ?美味しい?
武田 知るかよ。奴らの愛なんて。
秋葉 ボクは君に訊いたのに。
武田 神父様に訊くんだろ。
秋葉 神父様の愛に納得なんてしないもん。美味しくないから。でも、味付けは変わるかもしれないから訊くの。なんだろ、味見?みたいな。
武田 んじゃ、俺のなんてもっと美味くねぇだろ。
秋葉 そうなんだ?どんなの?
武田 燃えカスと消し炭を混ぜて凍らせたようなモンだ。
秋葉 やだー、不味―い!!
武田 硝煙みてぇな匂いで。
秋葉 うわあ。
武田 隠し味に焦がした血が入ってる。
秋葉 それで凍ってるんでしょ?
武田 ああ。
秋葉 うええー。炭の氷ってことじゃん!なにそれ絶対美味しくない。食べたくない。てか食べるものじゃない。
武田 元々そうだろ。愛は食べモンじゃねぇ。
秋葉 じゃあ君にとって愛は、美味しくないものなんだ。
武田 テメェの言葉で言うならな。
秋葉 冷めてるねー。冷え冷えだあ。味もわからないくらい凍っちゃってて、きっと口に入れたってくっついちゃって、飲み込めやしないんだ。
武田 …。
秋葉 ねえ。解かしてほしくてたまらないって顔してるよ。
武田 それがテメェの正当な評価か。
秋葉 うん。当たってる?
武田 強ち間違いでもねぇかもしれねぇな。
秋葉 曖昧すぎて参考にならなーい。でも、どっちにしても羨ましいなー。味はなくても温度はあるんだ。君は、愛が一体何なのか、自分の答えを持ってるってことじゃん。
武田 それの何がいいってんだ。
武田、秋葉から離れる。
秋葉 ボク、君とは仲良くなれると思ってるよ。
武田 俺は思ってねぇ。
秋葉 君とボクとは似てるから。
武田 似てねぇ。
秋葉 またここに来ても良い?
武田 話をきけ。
秋葉 答えて。
武田 …来んなっつっても来るんだろ。
秋葉 逃げないでね。またボクとお話してね。楽しみにしてるから。
武田 わーったわーった。好きにしろよもう。
秋葉 いいんだ。
武田 いつ来ても茶は出ねぇぞ。
秋葉 じゃあボクが持ってくる。
武田 勝手にしろ。ほら、もう帰れよ、おウチに。
秋葉 またね、たけだクン。
秋葉大きく手を振りながら去る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます