第175話 再び地上へ

調査団がベルル人に問いかけた。「あの低層階にあったクリスタルの装置は何のためのものなのですか?」


ベルル人のリーダーは、落ち着いた声で説明を始めました。「あれは、肌の色が違う敵がやってきたときに、その敵に不快感を与えるための装置です。その効果は魔物にも有効です。さらに、奴隷として使役されていた人々には何の影響も与えないように設定されています。あなたたちにその影響がないということは、やはりあなたたちの祖先は奴隷だったのかもしれません。」


調査団の一人が納得したようにうなずきました。「なるほど、だからこの辺りの地上には魔物が現れなかったのですね。」


ベルル人のリーダーは再び問いかけます。「それよりも、地上は今、平和なのでしょうか?」


調査団のリーダーは少し考えた後、答えました。「平和、と言えば平和です。しかし…どうでしょう、皆さん、一度地上に出てみませんか?」


ベルル人たちは互いに顔を見合わせ、リーダーが代表して言います。「ぜひ、よろしくお願いします。」


そうして、ベルル人たちはぞろぞろと地上へと出ていきました。地下街で働いていたエターナル・ホープの住民たちは、青い肌を持つベルル人たちが目の前を通り過ぎる様子を珍しげに眺めていました。


やがてベルル人たちは地上に足を踏み入れ、まずは上空を見上げました。青く広がる空、そしてまぶしく輝く太陽が彼らの目に飛び込んできた瞬間、長い年月を経て初めて再びその光景を目にした彼らの心は、言葉にできないほどの感動で満たされました。


一人のベルル人の女性が、涙を浮かべながらつぶやきました。「こんなに美しい空を、私たちは忘れていたのですね…。」


彼女の隣に立っていた男性も感慨深げに言葉をつなぎました。「太陽の温かさを、これほどまでに愛おしく感じるとは思いもしませんでした。これが…私たちがずっと待ち望んでいた平和の象徴なのですね。」


その間に、調査団から一馬にベルル人についての詳細が伝えられました。ベルル人たちが2000年前に地上での争いから逃れ、地下で長い間生き延びてきた経緯や、彼らが今、再び地上に戻ることへの希望を持っていることを聞いた一馬は、事の重大さを理解しました。


彼は即座に、エターナル・ホープの最も大きな集会所を使う許可を取り、ベルル人との協議の場を設ける準備を進めました。状況が急展開し、村全体に新たな課題が浮上している中で、一馬は内心でぼやきました。「俺のスローライフが短すぎる不具合があるな…。」


こうして、一馬を中心にエターナル・ホープとベルル人たちの間で新たな歴史が動き始めました。協議の場では、今後の共存や文化交流についての話し合いが行われ、両者の未来に向けた一歩が踏み出されることとなったのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る