第176話 平等な契約

ベルル人の代表、ラヴィンドラは深い瞳を持つ男で、落ち着いた声で一馬に語り始めました。彼の言葉は重みを持ち、2000年もの間、地下に閉じ込められていた彼らの歴史を象徴していました。


「かつて、世界は4つの肌の色を持つ種族に分かれていました」とラヴィンドラは静かに口を開きました。「我々ベルル人は、青い肌を持ち、知能に優れていました。そして、肌が赤く、力に優れたガマル人。肌が白く、小麦粉のような色をしたザエン人は、魔法に長けていました。最後に、肌が真っ黒で、身体が非常に強靭なギギル人がいました。この4つの種族が、それぞれ自分たちこそが世界を治めるべき存在だと信じていました。」


ラヴィンドラの声には、深い悲しみと未だ癒えぬ痛みが混じっていました。「我々は皆、奴隷を駆使して、自分たちの生活を支えていたのです。しかし、その力のバランスがいつしか崩れ、争いが絶えなくなりました。それぞれが、自分たちの優位性を証明しようと、戦争を繰り返しました。そしてその戦いが激化し、最終的には我々ベルル人は、地下に避難施設を築き、子供たちとその世話をするための奴隷たちをそこに避難させました。」


一馬はその言葉に耳を傾けながら、ベルル人たちが地下に避難する際の絶望と決意を想像していました。「大人たちは、最後まで地上で戦い続けたようですが、結局、地上がどうなったのか、彼らがどうなったのか、私たちには知る由もありません。」


ラヴィンドラは、苦々しい思い出を振り返るように、一瞬、目を閉じました。そして再び目を開け、続けました。「地下に逃げ込んだ我々は、長い年月をかけて生き延びてきましたが、外の世界がどうなったのかを知ることなく、ただ平和を願い続けてきました。」


一馬はその話を聞いて、彼らを再び地上に住まわせたいと思いましたが、現在のエターナル・ホープにはその余裕がないことを伝える必要がありました。「ラヴィンドラさん、あなたたちを地上に住まわせてあげたいのですが、残念ながら、今は土地がありません…」と一馬は慎重に言葉を選びながら答えました。


ラヴィンドラは少し考えた後、決意を持って答えました。「ならば、私たちベルル人が設計を担当し、あなたたちに土木建築技術のすべてを教えましょう。我々が設計し、建築はあなたたちに任せる形で、共に新しい街を築きましょう。」


一馬はその提案を受け入れましたが、最後に強い口調で言いました。「しかし、ラヴィンドラさん、もう私たちはあなたたちの奴隷ではありません。奴隷呼ばわりするのは、やめていただきたい。」


ラヴィンドラはその言葉を聞き、一瞬の間を置いてから目を閉じました。彼は何かを悟ったように、深い息を吐き出し、再び目を開けました。「分かりました。これからは、対等な関係として共に歩んでいきましょう。」


こうして、ベルル人とエターナル・ホープの人々の新たな歴史が動き始めました。過去の軋轢を乗り越え、新たな時代を切り開くための一歩が踏み出されたのです。一馬は内心で新しい課題を感じながらも、未来に向けての希望を胸に秘めていました。

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