第156話 村の収穫物

一馬はカブを引き抜く作業をしながら、ふとこの村には他にどんな収穫物があるのか気になった。ここがどれほど寂れていても、まだ生きている人々がいる限り、食べるための作物が育てられているに違いない。彼はその老いた男性に問いかけた。


「他には何が収穫できるんですか?」一馬の声は、静かながらも関心を隠せない様子だった。畑でカブを引き抜く手を止め、彼はその男性の方を向いた。


男性は少し考える素振りを見せた後、ゆっくりと答えた。「そうだな、今の時期なら……ジャガイモや大根、それから少しばかりのトマトなんかがとれるな。この土地は栄養が乏しくなってきているから、あまりたくさんはできないが……それでも何とかやりくりしているんだよ。」彼の声には、長年この土地で農業を営んできた者ならではの経験と、少しの諦めが混ざり合っていた。


「トマトも育てているんですか?」一馬は興味を引かれた様子で続けて尋ねた。彼の頭には、赤く熟したトマトが浮かんでいた。都会で手に入るような完璧な形ではなくても、この村の手作りのトマトには、どこか素朴で優しい味わいがありそうだった。


「そうさ、数は少ないがね。ほとんどは私たちの食卓に上がるものだが、時には村の外れにある小さな市場に出すこともある。だが、売れることは少ないな……若者たちがいなくなってから、買い手も減ってしまったから。」老いた男性の声には、どこか寂しさが漂っていた。


一馬はその言葉に一瞬の沈黙を返しながらも、何かできることがないかと考えていた。彼の目には、この村の土地が疲れ果てていることがわかっていた。だが、その中でもしっかりと根を張り、命をつないでいる作物たちが、まるでこの村そのものを象徴しているように思えた。


「なるほど、ジャガイモ、大根、トマト……どれも貴重な作物ですね。きっとおいしいに違いない。」一馬は微笑みながらそう言った。彼はこの村に、そしてこの土地に、まだ希望が残されていることを信じたいと思ったのだ。そしてその希望を、どうにかして再び花開かせることができるのではないかと、心の奥底で感じ始めていた。

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