第152話 仕事選び

一馬とデニちゃんが地下施設を抜け出し、丘の上に立った時、彼らの冒険は新たな一歩を踏み出した。見下ろすと、無機質な防壁都市が目に入る。かつて住んでいたクレストンの温もりとは正反対の冷たさを感じる都市だったが、彼の隣には信頼できる相棒、デニちゃんがいた。


「一馬よ、この世界でのんびり暮らすのは難しそうな気配が漂っているな」とデニちゃんが、少しシリアスな雰囲気で語りかける。「どうだろう、ここは一時的にでも冒険者として身を寄せたほうが賢明であろう。緊急的に連れてこられたお前だが、私が今までのお前の装備と、女神アウラリアがつけてくれた特殊能力は健在だ。お前ならどんな世界でも後れを取ることはない。私も共に戦おう」


その言葉に、一馬はデニちゃんの存在がどれほど心強いかを感じ取った。「ありがとうデニちゃん、デニちゃんがいてくれたら心強いよ」と彼は真剣に答えた。デニちゃんは冗談で言っているわけではなかった。彼は、かつて「地獄の鶏軍団」や「クレストンの新型兵器」として恐れられた猛者だったのだ。彼が味方であることは、これ以上ない安心感を一馬に与えた。


さっそく、彼らは冒険者ギルドに足を運び、冒険者としての登録を済ませることにした。「初めての方ですね。ランクはFからのスタートになります。こちらの魔法の指紋登録を行ってください」とギルドの受付係が微笑みながら説明する。

一馬は「微妙に高性能だな」と心の中で思いつつ、指紋登録を行ったが、残念ながらデニちゃんは鶏であるため、指紋登録ができず、旧来のカード式の登録になった。これに一馬は「鶏も登録できることに感心したが」と、ギルドの対応力に驚きを隠せなかった。


登録が完了した彼らは早速冒険を始めようと意気込んだ。しかし、依頼書を手に取った瞬間、一馬の表情が曇る。「スイラム50匹、地下墓地に存在する漂うゾンビ20体…なんか、ろくでもない非生産的な依頼ばっかりだな」と不満げに呟いた。だが、周りを見渡すと、それらの依頼を受けている冒険者たちの年齢層が12歳から15歳程度であることに気づき、納得した。「なるほど、慣れ、か」と一馬は自分に言い聞かせるように頷いた。


これを見かねたデニちゃんが、彼らしい提案をする。「大工仕事とか荷物運びとか、飲食店のホールとかどうだ?得意だっただろう」と、デニちゃんの言葉に一馬は微笑みながら応じた。「そうだねぇ、そうしよっか」と彼は再び決意を新たにし、冒険者としての第一歩を踏み出した。

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