第151話 デニちゃんの食事

地下施設を抜け出して見えた景色は、まるで新たな旅路の幕開けを告げるかのようだった。丘の上から見下ろすと、無機質な防壁が円を描くようにそびえ立ち、その内側にある町はどこか閉塞感を漂わせていた。クレストンの温かみのある風景とは正反対で、この防壁都市には、心を落ち着けるような情緒は見当たらない。それでも、その町を取り囲むように広がる広大な小麦畑が、一馬の心をわずかに和らげた。空はどんよりと曇り、黄金色の麦穂が風に揺れる様子を楽しむことはできなかったが、また晴れの日に訪れる機会があれば、その光景を堪能することにしようと心に決めた。


一馬は、空腹そうに見えるデニちゃんのために、雑草が生えている場所まで歩みを進めた。広がる曇天の下、彼はデニちゃんを地面にそっと降ろし、その小さな仲間が地面に生える草をついばむ様子を見守った。デニちゃんは草を一口二口と味わい、その感想を口にした。


「どうだい、デニちゃん?おいしいかい?」と一馬が尋ねると、デニちゃんは少し不満げに首を振りながら答えた。「だめだな、腹の足しにはなるが、クレストンの上質な雑草に比べたら、天と地ほどの差がある。」


その言葉に、一馬は微笑みながら空を見上げた。曇天に覆われた空の下で、これから始まる新たな日々を思い描く。クレストンでの静かな暮らしは遠くなったが、どこかこの地でもまた、新たなスローライフを築いていくことができるかもしれない。防壁都市の無機質さや曇り空に包まれても、一馬は心の中で穏やかな希望を持ち続けた。デニちゃんと共に、今はただ、この静かな一時を楽しむのが一番の贅沢だと感じながら。

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