第149話 次の世界へ

それは、まさにいつもの日常の中で起こった。いつものように、小さな畑で農作業に励んでいた一馬は、突如として視界が揺れるのを感じた。その瞬間、何かがおかしいと直感した。「暑いわけでもないのに…」と、呟きながら、彼は過去の出来事を思い出していた。かつて、猛暑の中で日射病に倒れ、この異世界へと女神の導きで召喚された時のことだ。


その思い出がよみがえった瞬間、彼は自身の手に目を落とした。すると、驚くべき光景が目に映った。手の指先が、まるで砂のようにさらさらと粒子となり、風に吹かれて消えていくのだ。「なんだ、これは…?」と、呆然と呟く間もなく、一馬の体はクレストンの町から完全に姿を消してしまった。




一馬が次に目を覚ました時、彼は見知らぬ場所に立っていた。そこは暗く湿った地下室のような場所であり、彼の足元には奇妙な模様が描かれた魔法陣が輝いていた。「やった!異世界から勇者様を召喚できたぞ!」という歓喜の声が、暗がりの中から響いてくる。


一馬は一瞬で状況を察した。「酷い話だ…俺はただ、平和に暮らしていただけなのにな…」と、怒りを抑えながら呟く。一馬の拳は、震え出すほどに怒りで満ちていた。彼は、この事態を招いた者を殴り飛ばしたいという衝動に駆られたが、その時、後ろから懐かしい気配を感じた。


「一馬よ、案ずるな。私がいる」その声に振り返ると、そこには一匹の鶏がいた。その姿に、一馬はすぐに気づいた。この鶏は、かつて彼と共に戦った地獄の鶏部隊の一匹だったのだ。再び目の前に現れた戦友に、一馬の心は少しだけ落ち着きを取り戻した。しかし、彼の心には新たな疑問が芽生えていた。


第一章、クレストンの小道から 完

第二章、ヴォルムザックの秘宝 開始

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