第143話 勝利

十河一存の軍が前線で魔王軍を食い止めたことで、連合軍は新たな活路を見出すことができた。アルヴィス皇太子の力強い怒号が戦場に響き渡る。「押せるぞ!」その叫びが、連合軍の兵士たちの中に残っていたわずかな恐怖心を吹き飛ばし、士気が一気に高まった。


一方、一馬たちは既に魔王軍の空軍を全て撃破していたが、彼らの戦いはまだ終わっていなかった。地上の戦いで勝利するだけでは不十分であり、上空で繰り広げられる女神と魔王の決戦に援護が必要だった。だが、アウラリア女神はすでに限界に近く、一刻の猶予もない状況だった。


一馬はラグナールに向かって叫ぶと、エアライダーを急低空飛行させて彼の腕をつかんだ。ラグナールは何が起きたのか理解しようと上空を見上げ、即座に事態を悟った。エアライダーは通常は静かに飛行するはずだが、この時は異音を発しながら猛スピードで天へと上昇し、女神と魔王の戦場へと迫っていく。


ラグナールと一馬の目的は明白だった。彼らは魔王の背後に高速で回り込み、ラグナールを天高く投げ上げるという大胆な戦術をとった。一馬はエアライダーに乗り、魔王を狙撃するための狙撃位置を確保した。その位置は魔王の少し下方であり、彼の魔道レーザーロングライフルはすでに120%の出力にまでチャージされていた。祈りを込めて、一馬は引き金を引き、巨大なレーザー弾が魔王の体を腰から胸部にかけて貫通した。


「ぐっ!?」魔王は呻き声をあげたが、これが本命の攻撃ではなかった。本命はすでに天から降り注いでいたのだ。ラグナールが高速で降下し、魔王の背中に狙いを定めて刀を抜き放つ。彼は声にならない叫びと共に魔王の背中を叩き切り、その衝撃と激痛に魔王は苦しむ。


「今だアウラリア!」ラグナールの攻撃で生じた一瞬の隙を見逃さず、女神アウラリアが槍を振りかざし、その先端を魔王の胸に突き刺した。女神はとどめを刺すために、槍をひねり、横に引き裂くようにして魔王の胸を貫いた。魔王のどす黒い血が空から降り注ぎ、大地を染める。そして、その巨大な体が天から落下していく。


一馬は必死で落ちてくるラグナールを受け止め、エアライダーを操って落下してくる魔王から距離を取った。しかし戦場では魔王軍との戦いはまだ続いている。

戦っている連合軍も魔王軍も上空の決着に気づいていなかった。

両者どちらかが消えるまで。


そして魔王軍はたったの5万人になった。

彼らは一度上空を見上げる。

魔王はとっくに地に落ちていた。

彼らにおびえる様子もない。

彼らは何も答えなかった。

戦いの手を止めて。

まるで舌さえ持っていないかのように。

ただ地に落ちた魔王の亡骸をじっと見つめていた。

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