第129話 雨を作る

一馬は、一般的な水の供給方法である大きな川から水を引いてくるなどというまどろっこしい手段は、彼の考えるスケールにはそぐわないと判断しました。彼の目指すのは、革新的かつ効率的な方法で、広大な砂漠地帯を一気に緑化することでした。


そこで彼が提携したのは、クレストンの有名な魔法系ベンチャー企業「アクアエンハンサー社」でした。この企業は、海水の温度を急激に上昇させて巨大な雨雲を生成する技術を持っていました。その雨雲をクレストンのエアライダー技術と連携させ、砂漠地帯に運び、人工的に雨を降らせるという壮大なプロジェクトを進めることになったのです。


計画が順調に進行する中、ある日、一馬は砂漠をラクダで通る商人から警告を受けました。「最近、この辺りでラクダが急速に減少しているんだ。どうやら魔物の仕業かもしれない。気をつけるんだな」というその言葉に、一馬は警戒を強めました。すぐに、クレストンのエアライダー部隊を派遣し、砂漠を上空から監視させることにしました。(ちなみにこのエアライダーは特殊なもので砂漠地帯のようなエーテルが発生しない場所でも浮上するように改良を施されています)しかし、上空からの観察では、魔物の姿は確認できませんでした。少なくとも現時点では、特に危険な兆候は見られないと判断され、一馬は計画を進めることにしました。


やがて、計画通りに砂漠地帯に雨を降らせることに成功しました。その上、彼はさらに植物の繁殖を促すため、雑草系の植物の種を広範囲にばら撒き、その後に促進剤を散布しました。この方法により、わずか半月ほどで荒れ果てた砂漠は見事な牧草地帯へと姿を変えました。


しかし、一馬の胸には少しだけ罪悪感が残っていました。彼は農業には経験がありましたが、酪農にはほとんど経験がありませんでした。それでも、一馬にとってこのプロジェクトは、自身のわがままから生まれた初めての挑戦でもありました。自らの夢を追い、かつてない大規模な試みに挑むという彼の決意は、罪悪感を超えて新たな希望と情熱へと変わっていったのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る