第54話 独立

ホールの仕事を終えた一馬は、店を後にしながらふと、心に新たな夢が芽生えました。それは、農場にキャンプコテージを作り、訪れる人々に上質な安らぎ空間を提供することでした。かつての一馬であれば、独立して何かを始めることなど考えられませんでしたが、今の彼には、自分の手で新しい事業を立ち上げる力があると信じていました。


農場の静かな環境に囲まれながら、一馬はその夢を実現させるための計画を練り始めました。まずは土地の選定です。彼は農場の中でも特に景観が美しく、朝日や夕日がよく見える場所を選びました。そこにコテージを建てることで、訪れた人々が自然の美しさを存分に楽しみながら、リラックスできる空間を提供できると考えたのです。


一馬は木材や建築資材を揃え、少しずつコテージの建設を始めました。毎日、大工道具を手にして、コツコツと作業を進めていきます。初めは小さな基礎工事から始まりましたが、彼の手際は日に日に上達していきました。壁が立ち上がり、屋根が取り付けられ、内部の細かい部分にも手をかけていくうちに、コテージの形が徐々に見えてきます。


作業の合間には、畑の手入れも怠りませんでした。ナビィの魔法で豊かになった畑の野菜たちを収穫し、市場に出荷することで、必要な資金を得ていました。その収益の一部を使って、コテージの建設に必要な材料を購入していたのです。


1か月が過ぎた頃、ついに2つのコテージが完成しました。木の温もりが感じられる落ち着いたデザインで、内部にはシンプルながらも居心地の良い家具が配置されています。ベッドはふかふかの布団で整えられ、窓からは農場の風景が一望できるように設計されています。また、一馬が特にこだわったのは、夜になると満天の星空が楽しめるデッキの設置です。ここで焚き火を囲みながら、静かな夜の時間を楽しむことができるのです。


「これで、少しずつお客さんを呼べる準備ができたな…」一馬は、完成したコテージを見つめながら、満足感に浸りました。以前の彼では到底考えられなかった独立の夢が、今ここに形となって現れたのです。


彼は、このコテージが訪れる人々にとって、日常の喧騒を忘れさせる癒しの場となることを願い、これからの運営に心を躍らせながら、次なるステップを考え始めました。

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