第45話 回復魔法
ある日の朝、一馬は農場の作業を一通り終え、ナビィに水やりや簡単な手入れを任せて町へ出かけることにしました。最近、農作業中に小さな怪我をすることが増えており、自分で回復魔法を使えたら便利だと考えたのです。
**町の図書館へ**
一馬は町の中心部にある立派な図書館に向かいました。石造りの大きな建物で、高い天井と美しいステンドグラスが特徴的です。図書館の中に入ると、静寂な空気が漂い、知識の宝庫であることを感じさせます。
受付に向かうと、そこには長い黒髪を持つ美しい女性が座っていました。彼女は優雅な微笑みを浮かべながら、一馬に声をかけます。
「いらっしゃいませ。今日はどのような本をお探しですか?」
一馬は一瞬その美貌に見とれましたが、すぐに気を取り直して答えました。
「回復魔法についての本を探しています。初心者向けのものがあれば貸していただきたいのですが。」
受付の女性は頷き、背後の棚から一冊の古びた本を取り出しました。表紙には金色の文字で「初級回復魔法入門」と書かれています。
「こちらの本はいかがでしょうか?初心者向けで、基礎からしっかり学べますよ。貸出には銀貨2枚が必要ですが、よろしいですか?」
一馬は財布から銀貨2枚を取り出し、受付の女性に手渡しました。
「ありがとうございます。ぜひお借りします。」
女性はにこやかに受け取り、貸出票に必要事項を書き込みました。
「返却期限は一週間後です。何かご不明な点があれば、いつでもお尋ねください。」
一馬は礼を言い、本を抱えて静かな読書スペースに向かいました。
**回復魔法の学習**
読書スペースで席に着いた一馬は、早速本を開きました。ページをめくると、回復魔法の基本的な理論や、魔力の使い方、そして簡単な呪文の詠唱方法が詳しく書かれています。
読み進めていく中で、一馬はある一節に目を留めました。
「回復魔法は特別な道具や補助なしでも使用可能である。しかし、教会にて聖印を刻んでもらうことで、魔法の効力が大幅に向上し、より効果的な治癒が可能となる。」
この情報に興味を持った一馬は、さらに詳しく読み進めました。
「聖印は教会の司祭や僧侶によって刻まれ、主に手の甲や胸元に施される。その際、若干の痛みを伴うが、施術後は魔力の流れがスムーズになり、回復魔法の効果が飛躍的に上昇する。」
一馬はこの記述を読み終えると、本を閉じて考えました。
「なるほど、聖印を刻んでもらえば、より効果的な回復魔法が使えるのか。それなら早速教会に行ってみよう。」
**教会での聖印の施術**
一馬は図書館を後にし、町の中心に位置する大きな教会へ向かいました。教会は白い石で建てられており、高い鐘楼と美しいステンドグラスが印象的です。中に入ると、荘厳な雰囲気と共に、心が洗われるような静けさが広がっています。
祭壇の前には、年配の司祭が穏やかな表情で祈りを捧げていました。一馬はゆっくりと近づき、声をかけます。
「すみません、回復魔法のための聖印を刻んでいただきたいのですが、可能でしょうか?」
司祭は目を開け、一馬に微笑みかけました。
「もちろんです、若者よ。我々の神の祝福を受けて、あなたの魔法がより強力になることでしょう。ただし、施術には銀貨3枚の寄付をお願いしていますが、よろしいですか?」
一馬は頷き、銀貨3枚を司祭に手渡しました。
「ありがとうございます。では、こちらへお越しください。」
司祭は一馬を教会の一角にある小さな部屋へ案内しました。部屋には簡素な椅子とテーブルがあり、その上には清潔な布と彫刻用の道具が並べられています。
「聖印を刻む場所はどこがよろしいですか?」
「左手の手の甲にお願いします。」
司祭は頷き、一馬に椅子に座るよう促しました。彼は一馬の左手を優しく取り、手の甲を上に向けます。
「少し痛みますが、我慢してくださいね。」
一馬は深呼吸をし、心を落ち着かせました。司祭は彫刻用の細い針のような道具を取り出し、祈りの言葉を唱えながらゆっくりと一馬の手の甲に聖印を刻み始めました。
最初はチクチクとした痛みでしたが、次第に鋭い痛みに変わっていきます。しかし、一馬は歯を食いしばり、その痛みに耐えました。施術は数分で終わり、手の甲には小さな十字架の形をした聖印が鮮やかに刻まれています。
司祭は清潔な布で手の甲を優しく拭き取り、最後にもう一度祈りの言葉を捧げました。
「これで完了です。神の加護があなたと共にありますように。」
一馬は感謝の意を伝え、教会を後にしました。手の甲にはまだ少し痛みが残っていますが、不思議と心が穏やかになり、体の中に温かい力が湧き上がってくるのを感じました。
**新たな力の実感**
農場に戻ると、ナビィと猫が一馬を出迎えました。ナビィは一馬の手の甲に刻まれた聖印に気づき、興味深そうに尋ねます。
「一馬、その手の印はどうしたの?」
一馬は嬉しそうに手の甲を見せながら答えました。
「町の図書館で回復魔法の本を借りてね。その中に聖印を刻むと魔法の効果が上がるって書いてあったから、教会に行って刻んでもらったんだ。」
ナビィは感心した様子で頷きました。
「なるほど、それは素晴らしいね!せっかくだから、試してみたら?」
一馬は少し考えてから、農具小屋に向かい、わざと指先を少しだけ切ってみました。小さな傷口から血が滲み出てきます。
「じゃあ、やってみるよ。」
一馬は本で学んだ通りに深呼吸をし、手のひらを傷口にかざして呪文を唱えました。
「ヒール。」
手のひらから柔らかな光が放たれ、傷口を包み込みます。数秒後、痛みは消え、傷跡もすっかり消えていました。
「おお、本当に治った!」
一馬は驚きと喜びで声を上げました。ナビィも目を輝かせています。
「すごい!これで怪我をしても安心だね。一馬、本当に頑張ったんだね。」
猫も一馬の足元にすり寄り、彼の新たな力を祝福するかのように喉を鳴らしています。
「これからは農作業中に怪我をしても、自分で治せるから助かるよ。ナビィ、猫、これからも一緒に頑張ろう!」
こうして一馬は新たな力を手に入れ、農場での生活をさらに充実させていくのでした。これからも彼のスローライフは続き、多くの出会いや経験が待ち受けていることでしょう。
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