第45話 ザックに教育と言う名のお仕置き

「はっ?ここはどこだ?」


 いきなり景色が変わりキョロキョロするザック。


「ここはダンジョンの最下層よ」

「最下層⁉︎嘘だろ⁉︎」

「信じなくてもいいわ。それより、ほら、行くわよ」

「あぁ⁉︎行くってどこにだよ?」

「ボス討伐に決まってるじゃない。あなた強いんでしょ?その実力を見せてよね?」


 ボスへの扉を開き、ザックに蹴りを入れて無理矢理中へ入れる。

 みんな大好き、ブラッドオーガの登場。


「ちょ、え?ここってマジでボス部屋じゃねぇか!!」

「さぁ見せてみなさいよ、あなたの強さ」

「くそっ」


 ザックは槍を取り出し構える。

ブラッドオーガと戦ったことがあるのか、冷静に攻撃を避けては槍のリーチを活かして確実にダメージを与えていく。


「ザックのくせに、なかなかやるじゃない」

「くそっ、お前ら、覚えてやがれ!!こいつを倒したら次はお前らだからな!!」


 危ない場面もあったが、一人でブラッドオーガを倒したザック。


「っしゃぁ!!」


 ザックは雄叫びをあげ、そのままカリーに向かって攻撃を繰り出す…が、すでにカリーの結界に閉じ込められた後。遅すぎる…


 ブラッドオーガとの戦いで体力がほぼ無いザック、自身の攻撃が跳ね返ってくると知らず、渾身の一撃を放つ。が、自分に跳ね返り、致命的なダメージを受ける。


「あらあら、さっそく死にそうじゃない。まだダメよ」

「はぁ、はぁ。くそっ、体力さえあれば、こんな結界…はぁ、はぁ」

「そうなの?なら回復してあげる」


 あぁ〜なんか見たことあるやつ来た…


「え?あ?ギャハハ!!よほど自分の結界に自信あるみてぇだな!!だがよ、俺を回復させたことをすぐに後悔させてやるぜ!!」


 その後もザックは色んな方法で結界を破ることを試みたが、全て自分へ跳ね返ってくることに心が壊れていく。


 死にそうになっても回復させられ、結界を破ることを諦めたら、外から死なない程度の攻撃が飛んでくる。


「へっ、くそっ。死なねぇなら何度でもやってやるよ!!」

「ほら、はやく壊しなさいよ、ほら」


 なんだろう。ちょっと前まで嫌いだったやつなのに、今では同情してしまう…可哀想なザック…


 ふと隣の見ると、バッツが槍使いのザックのことを真剣に見て動きをコピーしようとしている…





 もぉ、なんの空間だよここ。







そのまま半日近く過ぎた…ここに転移してきた時って夕方だったから、もぉ結構遅い時間だよね?お腹空いたし、なんならグレイさんにまた繁華街来るって約束したのに…


「もぉ…やめてくれょ…」

「え?聞こえない?何?」


「……こ、殺してくれーーー!!!!」


 自分の槍を折り、短くなった槍で自分の首を刺すザック…しかし、ピタッと動きが止まる。


「無理よ、その結界では自殺できないようになってるわ。一度同じバカなことをしたやつが居たから考えたの。私ってすごいでしょ?」


 あの時のブラッドオーガさんね…

 地獄だな。自殺もできない。

 休んだら攻撃が飛んでくる。

 結界を攻撃しても結局カウンターで自分に返ってくる。

 怖くなって強く攻撃できない。

 結界が割れない。

 まじ負のループすぎる…



「だのむ…ごろじでぐれ……」『コツン』


「ごろじでぐれ…」『コツン』


「もぉ…ごろじでぐれ…」『コツン』


 ずっと殺してくれと言いながら、力のない攻撃をひたすら繰り返すただのロボットになってしまったザック。


「あら?もぉ壊れたの?仕方ないわね」


 結界を解除すると、その場に倒れ込むザック。


「ロドニー?この子の精神って元に戻せる?」

「え?あぁ、多分いけると思うけど、まさか戻してまた結界に閉じ込めるの?」

「もぉ飽きたわ。お兄ちゃんが槍使いのこいつと戦ってみたいんじゃないかと思ってね」

「そう言うことか」


 精神破壊の音魔法を考えた時に、まず逆の精神回復魔法を考えておいて良かった。

 まさかこんな形で役に立つとは思ってなかったけど…


 ザックに精神回復魔法をかけ、ついでに体力も回復させる。


「……?!俺は?」

「あら気がついたの?」

「ひぃぃっ」

「なんで怖がるのよ?」

「いや、だって…」

「もぉ飽きたわよ。あなたを閉じ込めても面白くないしね」

「……」


 精神は回復したけど、恐怖心は残るのね。新しい発見。


「そんなことより、あなた、今から私のお兄ちゃんと戦いなさい」

「え?俺が、あいつと?」

「えぇ、次はお兄ちゃんのおもちゃになりなさいね」

「……」


「よし、ザック、槍ってまだ持ってるか?」

「あ、あぁ、あるぞ」

「ならさっそく、手合わせだ!!」


 精神は戻ったが、覇気がもどらないザック。

しかし、戦っていくうちに、カリーみたいな酷いことにならない。純粋な手合わせということが分かってきたのか、覇気が戻る。


「おぉ。そう言う動き方なんだな!!」

「くっなんだお前、俺の動きをそんな簡単に真似しやがって、やりにくい」

「じゃぁこの攻撃だとどうだ?」

「この時はこう返すんだよ!!」


 なんだかんだ楽しそうだな。

 一通りザックのコピーが終わる。


「よし、じゃぁこれから俺が良いと思う槍使いの戦い方に変更するぜ」

「あぁ?コピーは所詮オリジナルには勝てないって知らないのか?」


 バッツが思う最適の身体に身体強化率を変更していく。


「こんなもんだな。いくぞ!!」

「はっ?えっ?嘘だろ」

「まだまだ!!ここだ、神殺しの一撃!!」


 バッツが繰り出したのはザックの必殺技。

名前がすごく不敬だが、身体のしなりを利用した目にも止まらぬ速さの一撃。


「バッツ!!お前、ちょっと待て!!」


 あの力でやったらザックが破裂して死ぬ。

そう。穴が開くとかじゃなく、パーンって破裂する。そう思った俺は咄嗟にザックの前に結界を張る。


 パリン。「ぐふっ…」

「嘘だろ、急に出したとは言え、完全に止めるつもりで作った結界が割れた…」


 なんとか破裂を免れたザックだが、腹にデカい穴が開くことに。

 すぐに回復したので死にはしなかったが…


「あぁ、ごめんごめん。マギーさんと戦ってる時と同じようにしたんだけど、危なかったな。サンキューロドニー」

「お兄ちゃん、おもちゃは壊れないように使わないとダメだよ!!」

「悪かったって」


 ザックはバッツに対して、カリーとはまた違う恐怖を植え付けらたのだった。


「ザック、大丈夫か?」

「あ、あぁ。助かったよ。でも、もぉあいつと手合わせはごめんだね」

「あはは…」


 バッツが駆け寄ってくる。


「危なかったな。それにしてもお前の必殺技すげーな。ちゃんと身体の使い方さえ分かればあんなに威力が出るんだな」

「お前達、何者なんだよ…」

「え?あぁ。俺たちは竜の息吹ってパーティーで、リーダーがそこにいるロドニー。ちなみにSランク冒険者」

「Sランク…だと?」

「あぁ、んで俺はバッツ、妹のカリー、二人ともお前と同じAランク冒険者」

「……」


 なんとも言えない顔をするザック。


「俺は自惚れてたんだな…同じAランクだと言うのに、全く歯が立たなかった…」

「いや、ザック、この二人が規格外なだけで、お前の実力はちゃんとAランクだからな!!」


 なんで俺がザックを慰めてるんだよ…


「ふっ。その規格外を束ねるお前に言われてもな…」

「いや、まぁそうかもだけど…」


 その日、朝まで拗ねたザックを慰めて続けるのだった…

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