第39話 Aランク冒険者 ザック

 ワーグ商会の応接室に案内された俺達。


「皆様、ようこそお越し下さいました。今日は買い物か何かでしょうか?」

「実は今日、王都に着いたばかりなんです。それで宿屋を探そうと思ったんですけど、ワーグ商会が王都にもあるなって思って、どこか良い宿屋知らないか教えてもらおうと思いまして…」


 気軽に来てしまったけど、ちょっと大事になってしまって後悔…


「そうでしたか。でしたらオススメの宿がありますので、後で従業員にご案内させます」

「ありがとうございます」


「ちなみに、王都には観光ですか?」

「そうですね。世界を見て回ろうと思ってまして、まずは王都を見てみようと」

「そうですかそうですか」


 それからグランデの街の話など色んな話をした。ポールさん聞き上手で、なんだかんだ色々と話をして、なぜか、お土産で炭酸水を渡す展開に…


「これは面白い。お酒に混ぜると美味しいんですね?やってみます!!」

「はい。それと、俺たち、それなりにランクの高い冒険者なので、ランクに見合った装備も必要かなと思いまして、何かいい装備ありますか?」

「またまた。それなりにじゃなくてSランクなのは存じております。そうですね。うちの商会ではさすがにSランク冒険者のお目にかかる装備は無いですが、腕の良い鍛治職人は知ってるのでご紹介します」

「鍛冶職人ですか。ありがとうございます」


 ポールさんと話していると色んな物にお金を使いそうだ…さすが商売人。

 ポールさんも忙しいみたいで話の時間は終わり、従業員さんに宿屋まで案内してもらうことに。


 紹介してくれたのは王都でも高級な宿屋、1泊1人金貨2枚の宿屋。

 まぁ、お金使うとこないし、Sランクらしく?良い宿屋に泊まらないとな〜と自分を納得させる。


「わざわざご案内ありがとうございました」

「では私はこれで失礼します」


 従業員さんが見えなくなるまで見送り、宿の部屋を見る。貴族の部屋と同じような高級なソファーとベッド。それぞれの部屋にトイレと風呂がある。


「へぇ〜高級な宿屋だけあるな」

「私は魔法で作った家の方が落ち着く」

「まぁそうだな…居心地悪かったら転移で簡易ホテルに行こうか…」

「どうしても無理だったお願いね」


 時間は夕方。宿屋に食堂が併設されてたので、そこで食事をすることに。


「なんだこれ。めっちゃ美味いぞ」

「たしかに。ロイルさんの料理と同じくらい美味しいね」

「たしかに。優しい味付けだ」


 食事を楽しんだ後はそれぞれの部屋へ。今日はさすがに疲れたし俺も寝よう。家具は見た目がうるさかったが、ベッドはフカフカであっという間に寝てしまった。



        翌日


 同じ食堂に集まり、みんなで朝ごはんを食べ、まずは冒険者ギルドへ行こうとなった。


 リンダールさんに教えてもらった方向へ向かうと、これまた大きな冒険者ギルドを発見。


 中に入ると朝から飲んだくれてるおっさんや、クエストボードを見て真剣に悩んでる角の生えた女性。エルフのイケメンにキャーキャー言ってる女性などでごった返していた。


「グランデの街ならこの時間すでに人は居ないのにな。さすがは王都。受付は…」

「私、人が多すぎて酔ったかも…」

「おぉ。あのごっつい鎧かっこいいな!!」


 バッツはいつでも元気だな。


「カリー大丈夫か?」

「なんとか…慣れれば大丈夫だと思う」


 受付への列を見つけたので三人で並ぶ。


「けっ。んだよガキがこんなとこに来んなよな!!」

「きゃっ」


 後ろから誰かがカリーを押した。


「カリー!!」


 すぐに反応してカリーを支えるバッツ。


「邪魔なんだよ。どけっ」

「んだと!!」

「バッツ、辞めろ!!」

「んでだよ!!止めるな!!」


 俺はバッツを抑える。


「ロドニー、なんでだよ!!」

「まぁ抑えろ」

「なんだぁ?お前は話が分かりそうなガキじゃねぇか。ガキがこんなとこに来るんじゃねぇっ。分かったなら消えろ」


 後ろから邪魔してきたやつを見ると、少し背が高く、古い防具と剣だが、メンテナンスはしっかりしてる装備で、目付きの悪い青い髪の男。


「あなたの前から消える前にお名前をお伺いしても?」

「あ?お前俺のこと知らねーの?ったくだからガキはぁよ。俺はこの王都で唯一!!ソロのAランク冒険者、ザック様だ。覚えとけ!!」

「ザック様ですか。はい。覚えておきます。では失礼します」


 二人を連れて列から離れる。


「なんでだよロドニー!!あんなやつに」

「まぁ落ち着けバッツ。今はそれより大丈夫かカリー」

「だ、大丈夫。お兄ちゃんごめんね。人が多くて酔ってなかったら反応できたのに…」


 ギルドの隅っこで少しやすんでいると、


「大丈夫?」


 クエストボードで悩んでいた角の生えた女性だ。


「えぇ。人に酔ったみたいで。ありがとうございます」

「そう。ケガじゃなくて良かった。私はナターシャ。よろしくね」

「ロドニーです。よろしくお願いします」


 バッツとカリーも挨拶を交わす。


「あのザックってやつには近付かない方がいいわ。助けてあげたかったんだけど、私じゃ実力不足で。怖かったでしょ?助けてあげられなくてごめんなさいね」

「いえ、気持ちだけでもありがたいです」


「そう?なら良かった。それより、みんな私の角が気になるようね」

「えっ、いや、すいません」

「謝ることじゃないわ。私は魔族の先祖帰りってやつね」

「先祖帰り…ご先祖様に魔族がいて、その力がナターシャさんに受け継がれたってことでしょうか?」

「分かってるじゃない。そんなとこよ。まぁ何代前かなんて分からないんだけどね」


 今は魔族は居ないが、ずっと昔に魔王と魔族がいた時代、人間を襲って子供を作る魔族もいたらしく、その名残なんだとか。


 だいぶ昔のことなのと、先祖帰りは今となっては珍しいものじゃないらしく、普通に受け入れられてるみたい。


「今日は冒険者登録に来たの?」

「いや、冒険者登録は終わってるのですが、ちょっと用事がありまして」

「そうなのね。急ぎの用事じゃなかったらもう少し待つと人も収まるわよ」

「分かりました」

「じゃぁ私はクエスト選びに戻るわね」


 先祖帰りか、それにしても筋肉質で出てるとこは出てて良い身体してるな…うん。


「ロドニー、目が怖いよ?」

「カリー?えっ?いや、ごめん」

「あ〜なんか怒ってるのがアホらしくなってきたぜ。でも次同じことがあったらぶっ潰すから止めるなよ!!」

「バッツ、やられたらやり返すのには賛成なんだけど、時と場所を選んでやり返さないと、ただの弱い者いじめになるからな?」

「ん〜難しいこと言うなよ」


 ナターシャさんの言う通り、しばらくしたら人が落ち着いたので、改めて受付へ。


「こんにちは。今日はどのようなご用件でしょうか?」

「ギルドマスターのリンダールさんに会いに来ました。ロドニーです」


 そう言って冒険者カードを見せる


「えっ⁉︎」


 俺がSランクと言うのに驚いているが、声には出さないように必死に耐えたみたい。


「し、少々お待ち下さい」


 受付嬢はすぐに戻ってきてくれた。


「皆様、こちらへどうぞ」


 そのままギルドマスターの部屋へ案内してもらう。


「やぁロドニー君、バッツ君にカリーさん、よく来てくれましたね」

「リンダールさん、おはようございます。昨日は忙しいのにお出迎えありがとうございました」

「あはは。恥ずかしい所を見られてたんでしたね。まぁ座って下さい。お茶でも出しましょう」

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