おーぶ祭 予選

 深く息を吸って、目の前の画面を見る。この瞬間だけは一生慣れない。


 他のものとデザインは変わらないはずなのに、"第8回OWB大感謝祭"と名前のついた通話部屋からは謎の威圧を感じる。おーぶ祭の参加者は1チーム3人×50の150人。配信開始予定時間の一時間前だが、現状既に100人近い人が部屋にいた。

 どきどきと心臓を鳴らしながら、通話に入った。

 通話内はまるで朝の教室のようで、ほんのり学生時代を思い出す。ほとんどの人はミュートにしているが、常連さんや主催の方々の会話がそこかしこで行われていた。


「よろしくお願いします。RiYRのリオです」


挨拶すると、皆さんミュートを外して挨拶を返してくれる。心臓がぎゅっとなるほど緊張する時間だが、同時にとてもあたたかな気分になれる瞬間でもある。


 挨拶が済めば主催の方から説明があるまでは待機だ。もちろん俺はミュートにして縮こまっている。

 通話メンバーを確認すると、やっさんもりゅいりんさんもすでに来ており、RiYRの中では俺が最後だったようだ。りゅいりんさんは俺と同じくミュートだが、やっさんはしゃべってはいないもののミュートは外していた。


 それからしばらくして、主催者さんから参加者向けの説明や注意喚起がなされ、配信予定時間となった。


《では、皆さん、配信を始めていただいて大丈夫です》


主催者さんのその言葉と共に、一気に各々配信をつけていく。

 俺も待機させていた自身の配信画面を見ると、すでにコメント欄がカウントダウンをしながら今か今かと盛り上がっている様子だった。


 待機画面を外し、配信をつける。


「はい、聞こえますか。おーぶ祭始まります」


【うおおおおおお!】

【わこつ】

【楽しみにしてたぞ】

【絶対優勝してくれよな】


「えーとね、今日は大会の主催さん側とかから来てくださってる視聴者さんもいるかもしれないんで、自己紹介します。えー、今回、おーぶ祭にRiYRというチームのリーダーとして参加させていただきますリオと言います。よろしくお願いします」


【リオかたい】

【初見です。頑張ってください】

【いつまでこの丁寧リオが持つか見ものだぜ】


「今からね、運営さんから色々説明がありますんで、しばらく待機です。……あぁぁ~緊張するぅぅ…」


【そんなに?】

【もう結構出てるじゃん】

【リーダーがんば】

【たのしみ】


 そのまましばらく視聴者と雑談していると、全員ミュートの中主催者さんが話し出した。


《えー、皆さん配信は開けているでしょうか。できてたらチャットでOKって送ってください》


 通話部屋の全体チャットに次々とメッセージが飛んでくる。俺も乗り遅れないように【OKです】と送った。


《お、皆さん開けてるっぽいですね。それでは今からルール説明等していきますので、参加者の皆さんは事前配布している画像を映していただくか、公式配信をミラーしていただけると助かります》


俺は既に開いていたし、公式配信をそのままミラーした。ミラーするとラグで通話と声がダブるので、一旦通話のほうの音を切る。


 それから主催者さんからルール説明、注意喚起、参加者の紹介が終わったのち、ミラーをやめて通話をつけた。


《それでは、第8回OWB大感謝祭、開始いたします!》


参加者もミュートを外し、一斉に拍手した。


【はじまったぁああああああ!!】

【おーぶ祭きたぞぉおおお】

【きたぁああああああ】

【ガチで今10窓してる。聖徳太子状態】

【RiYR応援してるぞ!】


コメント欄も大盛り上がりである。


《参加者の皆さんはそれぞれの通話に分かれて予選を開始してください》


主催者の指示通り全体の通話からRiYRの通話に移動して、ほぅっと息をつく。ほぼミュートでしゃべっていないと言えど、150人(運営さん含めるともっと)いる空間はどうしても緊張する。……毎日1000人の前でくっちゃべってるんだけどね。


『おつー、もうしょっばなから緊張したね』


やっさんが明るい声で入ってくる。彼は一気に場が和む柔らかで親しみやすい声をしている。


「んー、こっから本番なんがやばすぎっすよ。もう心が…」


『結構やってるボクらでもこうなんだから、りゅいりんちゃんやばそー…』


そうこう話しているうちにまたポロンと誰かが通話に入ってくる音がする。


〖……あっ、お疲れ様です…〗


『もう終わったときのテンションやん。緊張した?』


〖は、吐くかと思った……〗


「こっから、もっと緊張する試合ですよー。負けたら後がないですからね」


〖ぇあぅぅ…は、吐くぅぅ…〗


『吐かないでー!』


 おーぶ祭ではまず50チームを10チームずつの5ブロックに分けて試合をする。各ブロックでの優勝チームおよび準優勝チームが決勝戦への出場切符を手に入れる。つまり予選で二位以上に入らなければ、優勝の権利を得ることさえできない。

 俺らは今までの練習の傾向的に、ハマるときはめちゃくちゃバチッといくのだが、そうでないときはブレブレになってしまうので、ある意味ではとてもスリリングなタイプの試合をする。それがかなりの不安要素で、吐き気を催すほどの緊張を呼ぶわけだ。


「とにかく頑張るしかないです!さ、予選行きましょ。俺らCブロックですよね?」


『そうだね。行こうか』


〖はぅぅ…〗


【もうなんかこっちも緊張して吐きそうだよ】

【りゅーいがずっとかわいい】

【やっさん大人だなー】

【リオも結構声震えてるし緊張してそう。リーダーだからかな?】


緊張して吐きそうだ。けれど最高に興奮している。


「―――よしっ、行くぞ!!」


***


 最初のスポーン位置はゲーム開始からの30秒間の内にリーダーがそれぞれマップから選ぶ。また遮蔽になる上露骨に有利なので、建物や明らかな高所に初期スポーンすることはできない。


「どこ下ります?安牌にしますか?」


〖あ、ここどうでしょう。マップ右上の、ちょっと丘になっているところ。色の配置のせいであまり目立ちませんが、南に小さいですけど建物もありますし〗


『ええやん。そこにしよ』


「了解です。今ピンさしたとこですよね?そこ下ります」


〖OKです〗


スポーン位置選択の30秒後、大きな【START】という文字が画面いっぱいに表示され、ついにゲームが始まる。


【始まった】

【きたきたきた】

【緊張するー!!!】

【いっけぇぇえ】


 ほとんどラグなしに降り立ったフィールドの上、すぐさまリロードしつつ近くにあった小屋に走った。

 樽のような形をした木箱を叩き割ってアイテムを回収する。


「あ、スパーコールあったわ。りゅいりんさんいる?」


〖もらいます!〗


「ここらへん置いとくから拾って。やっさん、今奥に人影ある。タンク頼める?」


『了解』


 スパーコールと言うのはライフルの名称で、長距離でのスコープ越しの戦いに適しており、りゅいりんさんがその担当である。

 俺たちはそれぞれ使っているキャラ・能力・装備・カスタマイズによって大体の特性が決まる。このチーム内で言うなら俺は攻撃特化型。装備は薄いがその分攻撃力の高さに全振りした形になる。一応遠近どちらもいけるが、とくに近距離戦で有利になりやすい。

 やっさんはタンクとして装備をガチガチに固め、ライフも多く体格のいいキャラを使用している。また爆弾やマシンガン、ひいてはロケットランチャーなど重量のある武器を得意とする。

 りゅいりんさんは索敵、ヒーラー、全体防御を一身に背負うマルチプレイヤー。前線に出ることは少ないため、攻撃系も装備もあまり強くはないが、その分ほかの特殊能力に振っているという感じ。判断力が高く、視野の広い彼女だからこそできるやり方でもある。


 やっさんタンクの裏に隠れて人影に近づく。


〖索敵します!…えっと、向かっている先には1人、他は右奥に3、左の建物内に2人います〗


「おっけ」


能力としての"索敵"はあまりに強い。よってクールタイムが長く、同チームで一人しか使えない縛りが設けられている。


「やっさん、いいよ」


 掛け声とともにやっさんは身を引き、俺は飛び出す。右に大きくずれてやっと相手の体の全容を捉えた。

 視界に入るとともに引き金を引く。ショットログが出たのち、遮蔽を使って身を隠した。

 足音で相手が近づいていることを把握すると、そのまま飛び出して狙いを定めてすぐに撃つ。相手はそのままばたりと倒れた。キルログが流れる。


「おっけひとりやった」


『ナイス!』


【ファーストブラッドナイス】

【リオ今日AIMいいね】

【裏で練習してきたか?】


「どうする次どっちいく?少ないほういく?」


『いやでも建物内だからなぁ…普通にハチの巣にされそう』


〖じゃあ一旦このままいきませんか?右奥に行ってこんな序盤にいきなりチーム戦をするのはかなりリスキーですし、先に行ってアイテムをとるほうがいいと思います〗


「そうだね。じゃあ先進もう」


 りゅいりんさんの提案通り、なんとか遮蔽に入りつつ先に進み、アイテムボックスを開けていく。中には武器だったり弾だったりアーマーだったり薬だったりが入っている。ごくまれに能力の塊みたいなものが入っていて、一度だけそれを使えたりする。


 しばらく誰と会うこともなくアイテム漁りをしていると、唐突に左腕を銃弾がかすめた。


「はっ!?」


跳び退いたが少しライフが削れてしまった。しかしそれを気にする余裕もないほど次から次へと銃弾の雨が降ってくる。その軌跡を見る限りおそらく左手の建物から撃っているようだった。


「左だ!高所からきてる」


〖捉えました、撃ちます。…やりました〗


「ナイス!」


『前からも来てるなぁ…一旦退くか』


「さっきのやつがいた建物いこう。遮蔽がないとキツい。あ、あとりゅいりんさん、」


〖ヒールします〗


「ナイス、ありがと」


【りゅーい冷静!】

【報告完璧じゃん】

【りゅいりんちゃんって判断早くていいよね】

【なにげにリオも相手の場所察するのはやくね?】


 タンクやっさんがカバーしてくれている中、急いで建物に向かう。しかしすぐに足を止めて銃を構える。


「まって誰かいるわ。リロード音した」


そういった直後に目の前に2人組が現れた。あまりに至近距離すぎて、AIMがブレる。

 とっさにさっき手に入れた爆弾ボンブを投げ、能力を使って高く飛んだ。


【びっくりした】

【リオ判断はやすぎだろ】

【りゅーい大丈夫?食らってない?】

【普通に叫んだわ】


「ごめんっりゅいりんさん大丈夫!?」


〖―――大丈夫です。シールド開きました〗


『ナイス』


〖ただ動けないのでカバー欲しいです〗


「わかった」


 使用武器を変え、地面に足が着いた瞬間に撃つ。射程距離が短く威力が低い代わりにリロード時間が短く連射も可能なため、爆弾でダメージを負った相手はすぐに倒れた。しかし同じく爆弾を食らったはずのもう一人が見つからない。りゅいりんさんのようにシールドを開いていたならすぐ近くにいた仲間があれだけの被弾で倒れることはなかったので、おそらく致命傷のはずだ。


「多分ローのやつが近くにいる。気を付けて」


〖索敵そろそろ溜まります。使いますか?〗


「…いや、ちょっと待って。俺が周り見てくっから、やっさんりゅいりんさんを守って」


『おう』


 建物内の階段をかけあがりながらリロードし、よく耳を澄ませた。致命傷を食らっているとき、操作しているキャラの息遣いが荒くなるので、それを頼りに探そうとしていた。

 銃を構えつつ部屋に入ったとき、すぐに撃たれた。幸いヘッドショットではなかったおかげで即死はしなかったが、ライフが半分以上吹っ飛んだ。


「ぅっわぁああ!」


配信者の本能で叫び、後ろに下がる。同時に撃ってきた方向へ弾を放った。


『おい、大丈夫か!?』


返事をする間もなく、リロードしてもう一度撃った。

 その弾が切れた瞬間にやっと俺は敵の姿を捉えた。相手が治癒能力を持ってさえいなければ、まだ体力はミリのはずだ。

 しかし間に合わない。次の瞬間に間違いなく俺のライフはゼロになる。


「くそっ――――」


 リロードする、この瞬間俺は無防備になる。もう避けるための能力も残っていない。


『―――まだいけるぜ!!!』


瞬きをする間に目の前をやっさんが通り抜け、敵のもとへ突っ込んでいく。


「え、な、ナイフ!?」


確かにやっさんの手に何か光るものが見えた。返事を返すより早く、銃声が目の前で響いた。

 しかし、キルログに流れたのは相手の名前だった。


【やっさぁあああああん!!】

【かっけぇ】

【かっこよすぎんだろ】

【ナイフ単身凸マ!?】

【リオギリじゃん、あぶな】


『…リオの弾、大分当たってたみたいだな。もう激ローだったよ』


仲間の俺たちには、そう言うやっさんの体力がもう雀の涙ほどしかないとわかっていた。

 やっさんは俺を銃弾から守るため、肉壁のような形となって敵に突っ込んでいったのだ。銃よりはるかに攻撃速度が速いナイフを持って。

 ほとんど自殺行為だ。偶然生き延びたが、一秒でもタイミングがずれていたらやっさんのほうが倒れていた。


「―――やっさん、ありがとう!!ごめん!」


『…いいってことよ』


 やっさんがいなければ、間違いなく俺は死んでいた。こんな序盤で一人欠けたら大分厳しかっただろう。


〖…っクールタイム終わりました!ヒールします〗


りゅいりんさんが三人まとめて回復してくれる。ぶわっと地面から緑色の閃光が伸び、削られた体力が戻ってくる。


『今のは危ない局面だったねー』


やっさんがからっと笑う。その明るい調子にこちらの気持ちも助けられた。


【やっさん、、、、かっけぇよ、、、、】

【漢の中の漢だ】

【ここでその笑い方はかっけぇわ】


『さ、切り替えて行くぞ』


〖索敵します。…すぐ近くにひとりいます!!〗


すぐさま銃を階段へ向ける。やっさんのほうはもうひとつの扉を警戒する。…ただ、相手が考えなしにこの部屋へ突っ込んでくるとは思えなかった。


「…いや、一旦ここは逃げよう」


やっさんのほうの扉から飛び出す。すると直後、予想通りロケランがぶちこまれた。


〖きゃぁ!〗


体を翻し、ショットガンに持ち替えて銃口を部屋に向ける。しかし人影はない。


「っ、下がりましょう!りゅいりんさん大丈夫ですか?」


ベランダのような場所から建物から飛び出す。正直地的有利をとれる建物を手放すのは惜しかったが、体勢を立て直す必要があった。


〖だ、大丈夫です!〗


「よかった!さっきの索敵的に敵が少なそうなのはどこですか?」


〖え、えっと、たしか南東あたりに敵はいませんでした〗


「じゃあそっちへ行こう」


銃をリロードして、その後走りながら回復瓶をチャージする。それでやっと全快した。


【リオナイス判断!】

【あそこあのまま凸待ってたら全滅ルートだったな】

【一旦全員全快していこー!】

【りゅーいの索敵強いな】


木箱を壊してアイテムを集めつつ、自分たちのキルを振り返る。すでに4キル、他のチームにもよるが、おそらく試合は佳境に入っている。


「たぶんかなり今、チーム減ってるよね?」


『そうだな。全滅ログが結構流れてた』


〖っ前!います!!〗


りゅいりんさんの言葉で見回すと、少し先の遮蔽の向こうにかすかにキャラのスキンが見えた。


「了解」


撃つ。しかし避けられて逆に撃ち返された。それを俺が避けた後にやっさんが突っ込み、相手が引いたその先に狙いをつける。


「―――っよっしゃ!ヘッショ!」


〖『ナイス!』〗


「…もうひとりいるわ!アビ使う!」


『了解』


雷のような延焼型の弾を放つ。直撃はしなかったが、確かにダメージが入った。


〖カバーします!〗


速射に持ち替えた彼女が回り込んで相手を撃った。キルログが流れる。同時にそのチームの全滅ログも流れた。


「ナーイス!」


【リオりゅい神!】

【カバー完璧だったな!】

【リオAIM良っ】

【ナイスアビ】


 残りチーム数を確認すると、赤色で"3"と記されている。


「残り3チームってことは、多分さっきの建物にいる人倒せば勝ち確だ」


『おお!よっしゃ、じゃあさっきのとこ戻るか!』


もういちど全快チャージしながら走る。さっき、りゅいりんさんが索敵したときにいた人を倒し、それでその人のチームが全滅すれば二位は確定し、決勝戦への出場切符を手に入れることができる。あわよくば、誰かが先に倒していて漁夫の利で一位になれれば言うこともない。


 建物に到達する。まだ索敵はクールタイムだろうから、鉢合わせる可能性が高い。いつでもキルできるよう戦闘態勢に入った。


『―――っいた!2時の方向、今部屋に隠れた』


「了解!」


装備が固く体力の多いやっさんがその部屋に突っ込む。続いてその後ろを俺が入った。

 一気に近距離の銃撃戦が始まる。俺の得意分野だ。…しかし、違和感があった。あきらかに相手方の弾数が多い。


〖あっ!ふたり、ふたりいます!〗


「あ、まじか」


索敵時に一人しか見えなかったためにもう残り一人だとタカをくくっていたが、まだもう一人残っていたようだ。だとしたら突っ込んだのは悪手だ。


「しゃぁない!無理矢理でも倒すしかねぇ!」


 ここで退いたら追いかけられて殺される。ならば今ライフを削ってでも倒すべきだ。

 AIMがブレないよう集中しながら弾を放つ。相手の弾も俺の体をかすめていく。

 心臓が高鳴る。神経がひりつく。―――この瞬間が、最高に楽しい。


 確実に相手の脳天にぶち込む。確かにキルログが流れた。


「1やった!」


『ナイス!』


 あともう一人倒せば相手は脱落だ。こっちはまだ3残っている。かすかに勝利の文字が脳裏をかすめる。


 ―――しかし、その油断を嘲笑うように、まっすぐな弾が俺を貫いた。瞬時にライフが真っ赤になり、俺の体がばたりと倒れた。


「!?っまじか」


〖リオさん!!〗


【リオ!?!?】

【りおぉおおお!まじかぁああああ】

【え、これ大丈夫?やばくない?】

【どこから撃たれた?今】


俺をキルしたのは撃ちあっていた相手ではない。相手の使っている銃は連射型であり威力が弱い。一発で俺を抜くなんてできない。


「―――後ろいる!」


『は!?三人目か!?』


死んだ俺はりゅいりんさん視点になる。彼女が俺の声に従って後ろを見た。


「…くそ、挟まれた!」


視界に映ったのは全く別のチームで、3人全員残っていた。正直最悪の展開である。


【挟まれたのか】

【やばいよぉおお】

【やつりゅい頑張ってくれ!!】


「新しくきたのは無視して、一人のほうやろう!」


『わかった』


ここで3人組と戦えばまず全滅させられる。なおかつ退こうとしても、挟まれている分どちらかのチームに倒されるだろう。


 りゅいりんさん、やっさんどちらの銃口も一人へ向き、その瞬間相手は窓を叩き割って建物を飛び出した。


「あ、まずい!」


〖追いかけます!〗


りゅいりんさんがすぐさま後を追って建物を飛び出す。しかし一歩遅れたやっさんがもうひとつのチームから一気に撃ち抜かれた。

 初めに突っ込んだせいでライフが削れていたやっさんがそのまま倒れる。


『っあぁああ!ごっめん!!』


「あー!やっさん!」


りゅいりんさんの視点がブレる。一気に窮地に陥って混乱しているようだった。


「…りゅいりんさん!左だ!見えた!」


ぎゅっと方向を変え、一発撃つ。彼女が使っているのはショットガンで、一発一発が重いものの攻撃速度が遅い。

 相手にも撃ち返され、とっさに避けるがライフがどっと削れる。それを見るに相手もショットガンタイプのようだ。

 おそらくそれに気づいたりゅいりんさんは相手のリロード中にすぐさま引き金を引いた。

 彼女の放った弾がまっすぐに相手を貫く。しかし倒れない。


「りゅいりんさん…!」


祈るような思いで名を呼ぶ。相手に撃ち返されたものがもろにぶち当たる。その衝撃と共に後ろに跳び退いた彼女の手に―――銃は握られていなかった。


 彼女が投げたのは一つの爆弾ボンブ。コンマ数秒後、小さな爆発が目の前で起こる。


 キルログ、そして全滅ログが流れた。


「『なぁぁぁいすっ!!』」


直後、建物内から放たれた集中砲火でりゅいりんさんの体が真っ赤になって倒れる。


 俺たちの全滅ログは流れなかった。かわりに、ゲームが終了した。


【わぁあああああああ!】

【二位か!?!?!?!?】

【あっちいよぉ!】

【りゅーい!!!神!!!】

【うおおおおおお】

【決勝戦だぁあああ!】

【ないすぅううううう】


最高に盛り上がるコメント欄と、大量にあふれる投げ銭で配信が赤く発熱する。


 "第8回OWB大感謝祭"の通話部屋全体チャットに、運営さんからメッセージが送られる。


【Cブロック終了 決勝戦出場 42神シニガミ RiYR】


胸の内から、激情がせりあがる。


「っよっしゃぁあああああ!決勝戦行けるぞ!!」


『りゅいちゃんホントにナイス!』


〖さ、最後死んじゃったけど…よかったです!〗


「いやもう決勝戦行けたらいいんですよ!あくまで予選なんで!本当にもう、りゅいりん様って呼ばせてください」


〖いやです…〗


『最後ボンブはナイス判断だったね!ボクだったらそのまま撃って死んでた』


「流石の判断力!同じチームでよかった!」


〖ほ、褒めすぎですよぅ〗


【照れりゅーいかわいい】

【りゅいりん普通に判断力高いよね】

【あそこでボンブは予想外だった!】

【なにげに一番冷静だった?】

【りゅーいすごい!】


「コメ欄もべた褒めですよ」


〖へぁぅぅ…〗


あまり褒められていないのか、先ほどの超クールな試合とは対照的にぷしゅぅっと縮こまっている。


『よし、じゃあこの調子で優勝すっぞ』


「おう!」


〖はい…!〗


おーぶ祭予選、RiYR無事通過!!


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