おーぶ祭 練習

 昼過ぎに起きて、いそいそとパソコンを立ち上げると、RiYRの通話部屋になにやらメッセージが来ていた。


「あ、そっか反省会…!」


昨晩(正しくは今朝)やっさんが言っていたのを思い出す。俺は配信を閉じた後すぐにベッドに入ってしまい、あの後通話に戻るのを忘れていた。


「やっべ…」


慌てて通話部屋を開くと、RiYR全体のチャット欄に配信終わって直後あたりの時間帯でりゅいりんさんがメッセージを送っていた。


【次回はソロでやりませんか】


メッセ内容を確認し、おもわず眉をひそめた。

 昨晩のりゅいりんさんのミスだけに目を向けると、彼女のそれはおそらくチーム対戦の経験が足りていないことからきていると思う。声かけであったり、また緊張であったり、そもそもの経験不足からくる初心者かつソロプレイヤーならではのミスが多かった。

 つまり、おーぶ祭に向けて今のりゅいりんさんに必要なのはチーム戦の数をこなしていくことだと俺は判断していた。


【りゅいりんさんがそう思った理由を教えてほしいです】


俺と同じように思ったのかはわからないが、りゅいりんさんからのメッセージのすぐ後にやっさんが理由を問うている。

 ややあって、りゅいりんさんからメッセージが返ってくる。


【私、プレイスキルがあまりに足りてなくて、まずはソロでそういう技術を高めたいな、と思いまして】


そして付け足すように、直後またりゅいりんさんからメッセージが送られている。


【リスナーさんも、そっちのほうが楽しめると思うんです】


 それを見て、ふと心にひっかかりが生まれる。

 もしかすると、視聴者に何か言われたのだろうか。

 正直昨晩は俺の配信もそこそこ荒れていたし、中には初心者であるりゅいりんさんを叩くコメントもあった。(正直経験者なのにこんだけプレミかましている俺ややっさんのほうが問題なのだが。)

 りゅいりんさんの視聴者が彼女に心無いことを言ったのかもしれないし、俺ややっさんの視聴者が鳩コメとして飛んでいったのかもしれない。


 りゅいりんさん自身が視聴者のことを思って出た言葉なのかもしれないが、もし誰かが彼女を傷つけているのなら、何よりりゅいりんさんのことを一番に考えるべきだ。


【そっか。とりあえずリーダーはリオくんだから、リオくんに判断は任せよう。僕らも今日は寝よう】


困ったやっさん俺に丸投げ。


【わかりました。ご迷惑おかけしてごめんなさい。おやすみなさい】


最後まで謝罪の言葉を口にして、りゅいりんさんはチャット欄を後にしている。


 これまでのやり取りを見ながらしばらく考えて、俺もチャットを書き込む。


【おはようございます。昨日は反省会せずに寝てしまってごめんなさい。りゅいりんさんからご提案頂いたソロ配信のことですが、まだ時間もありますし、やってもいいと思います。ただ、単にソロでやると荒れちゃうかもしれないので、通話はつなげてやりましょう。何時からにしますか?】


メッセージを送って、一息ついた。


「…荒れないといいけどなー」


***


【わこつ】

【配信きちゃー】

【ソロプってまじ?なんで?】

【通話もせんの?】

【わこリオ】

【2日目楽しみ】


夕方、配信をつけるとすぐにコメント欄が流れていく。


「お、聞こえますかー。練習枠2日目、頑張っていくぞー」


【聞こえるぞー】

【がんばれ】

【あれ?リオだけ?やっさんとりゅいりんは?】

【りゅーい配信つけた】

【ソロでやるの?おーぶ祭の練習だよね?】


「そう、今日はね、昨日マジで俺ら下手だったじゃん?なのでもう完全に練習枠!ソロ試合でPS高めるぜタイムです。通話はつなげるよー」


【いいね】

【たしかに昨日はやばかったww】

【そんなに?昨日配信これなかったんだよね】

【え、それおーぶ祭間に合うん?これ祭の練習枠なのに】

【ソロって、せっかくコラボなのに…】


想像通り賛否様々なコメント欄に胃をキリキリさせながら、RiYR通話に入った。


―――以下、練習枠2日目音声のみダイジェスト。


「おっけおっけおっk―――ぁああああああああああ!!」


『はい余裕ー!1位でーす!』


〖…………ぁっ…〗


「よっしゃぁああああ!神!!」


『ぅぐぅぅ…苦しいよー!あっ、来ないで来ないでぇええ』


〖……………ぁっ…〗


「はいぃぃ!おーぶ勢リオ!完・全・復・活!!」


『へぶぁっ!誰?ダレ!?地雷置いたやつ誰ぇ!!?』


〖………………ぁっ…〗


「あぁあああ、や"め"て"!フルボッコフルボッコ!」


『来い!来い来い来い!来いってぇっ!!』


〖…………………ぁっ…〗


「リスナー参加にするか。部屋立てます」


『おっ、いいねぇ。俺もリスナー参加にするわ。お前らかかってこいやぁ!』


〖あ、じゃあ私も部屋立てします…リスナーさん誰でも来てください〗


「おまえら散れ!散れ!一回散れってぇええええ!!」


『あっ、君!そこの君!キャリー頼んだ!』


〖り、リスナーさん…優しすぎて逆に辛いです…〗


「あああぁぁぁぁああああぁああぁあ!!!」


『わぁあああああぁぁあああああ!!!』


〖リスナーさぁん…優しさが痛いですぅぅ〗


……………


―――数時間後。


「俺一旦休憩します。晩飯食います」


『…おー、俺も晩飯食うか』


〖私もうちょっと練習します。お疲れ様です〗


「はーい、そんなに頑張りすぎないでくださいね」


『ボク通話抜けまーす』


やっさんに続いて俺も通話から抜ける。一旦配信画面を雑談用の壁紙にして、コメント欄を大きく表示した。


【おつかれー】

【叫びすぎなww】

【酔ったわ】

【何食べるのー?】


「実はね、しれっとデリバリー頼んでたんで、そろそろ来るかな?鮭弁当です」


タイミングよく家のチャイムが鳴る。置き配を頼んでるので、扉を開けるとぽてんとビニール袋が置いてあった。

 持ち上げるとほのかに温かく、年甲斐なく腹が鳴った。


 遅めの晩飯を食べて通話に戻ると、どうやらりゅいりんさんが視聴者と雑談しているようだった。


〖お夕飯ですか?私配信前に早めに食べたので大丈夫です。皆さんは遠慮なくお夕飯でもお風呂でも、どうぞ。眠いですか?おやすみなさい。いい夢見てください〗


視聴者に対しても相変わらず物腰柔らかだが、俺らといる時より比較的リラックスした声だった。


「ただいま帰りましたー。りゅいりんさんどんな感じですか?」


〖あ、お帰りなさい…です。まだソロでひたすらやってる感じですかね〗


「リスナーさんとですか?」


〖いえ、今は普通にフリーでやってます〗


『どーもー。遅れたかな?やつはし、今戻りました』


「おかえりなさい。俺も今戻ったところです」


【やっさんお帰り~】

【りゅーい真面目だなぁ】

【そろそろチーム練習せん?】

【ソロ飽きた】

【すまん、眠いから落ちる】


飯休憩を取った影響か、視聴者の集中力も限界を迎え始めているようだった。


「どーします?そろそろチーム練します?」


『あー、どうしようね?りゅいちゃんはどうしたい?』


〖えっ…あー、んー…どうしましょ…お、おふたりはチーム練習したい感じですか?〗


『ボクはどっちでもいいなぁ。リオくんは?』


「…そっすね、俺はそろそろチーム練してもいいかなって思ってます。時間的に終わり近いし、今日の成果?とか共有出来たらなって」


『そだね、じゃあチー練すっか。りゅいちゃんも大丈夫そ?』


〖はいっ…が、頑張ります…〗


【おおおおおお】

【やっとチー練きたぁ】

【みんな上手くなったかな?w】

【はよはよ】


『じゃ、ボクチーム部屋開くから。二人も来てー』


「〖はい〗」


――――それからまた数時間、本番と同じ形式でゲームして過ごした。


 結果、6試合中3位を2回、残りは雑魚死。とりあえず初手全滅は避けれるようになった。


 ただ、危惧していた自体が起きてしまった。


【まじでさぁ…】

【やっぱやつリオうまいね】

【二人が頑張ってる分なんか見てて辛い】

【りゅーい…ファンだけどこれは…】

【リオ、調子戻って来た】

【正直りゅいりんうざいわ】

【りゅいりん戦犯】

【誰とは言わないけど一人だけ昨日から成長してないじゃん】

【りゅーい叩きしてるやつなんなの?空気悪くしてるのわかんないの?】

【まじやめろって。コメ欄地獄すぎ】

【リオー!コメ閉じてー!】


滝のように流れていくコメント欄。見るに堪えない暴言もあり、それを諫めるコメントも場を一層乱していた。


 こみ上げるため息を飲み込んで、一旦通話をミュートにする。


「…ごめん、一旦コメ閉じるわ。もうそろ配信終わるから……アーカイブも残んないかも。少なくともコメントは解放しない」


【わかった】

【荒れすぎだよね】

【リオがんば】

【りゅいりんのせいじゃん。姫気質うっざ】

【だからやめろって。リオ困ってるだろ】


 できる限りコメントに目を向けないようにして、コメント欄を閉じる。


 配信に乗らないように深呼吸して、通話に戻った。


「…今日はそろそろお開きにしますか」


『うん、そうだね。二人ともお疲れ様!』


〖…ほんとに、ごめんなさい……私…〗


「りゅいりんさん大丈夫です。一旦落ち着きましょ?」


『…じゃ、ボク自分の配信閉じるから、通話抜けるね』


「はい、お疲れ様です」


〖私も抜けます…ごめんなさい〗


「うん、お疲れ様」


最後に俺が通話を抜け、そのまま配信を終えた。


 結局アーカイブは残すことにしたが、当時のチャット欄もアーカイブのコメント欄も開けないように設定した。

 その後SNSを開き、視聴者に軽く注意喚起しておく。


【配信来てくれてありがとう。一応俺の配信とか動画見るルールとして、俺以外の人を叩くのだけほんとにやめてください。ほかの人を傷つけているのが分かったらすぐにBANします。】


 投稿したのを確認し、すぐに画面を閉じた。DMもリプライも目に入れたくなかった。


―――チーム練習を始めてわりとすぐ、配信は荒れ始めた。危惧していた通り、りゅいりんさんの経験不足が浮き彫りになってしまったのだ。

 ソロプレイを聞いているだけでもわかる通り、彼女は実況者にしてはあまりしゃべらない。おかげで報告がままならず、俺ら自身がうまくまとまらなかった。またミスを重ねる度に彼女は縮こまり、結果的にいわゆる姫プレイのようになってしまった。

 りゅいりんさんのPS自体は練習の成果が出て大きく上がっていたのだが、視聴者の目にはそれよりミスが映ってしまったらしい。彼女はそもそもソロ向きというか、自由な行動で活きるタイプなので、いっそうちぐはぐになってしまったのだと思う。


 完全に俺の判断ミスだ。りゅいりんさんのやりやすさを注視するあまり、むしろ彼女の首を絞める結果になってしまった。


 謝罪の言葉を送ろうとRiYRの通話部屋を開くと、すでに全体チャットでりゅいりんさんが謝っていた。


【私のせいで皆さんの配信が荒れてしまって、本当に申し訳ございません】


大丈夫ですよ、と返そうとして、手を止めた。あまりに無責任のような気がした。

 しばらく悩んで、なんとか返事を絞り出した。


【俺の判断ミスです。お二人を巻き込んですみません】


一旦それで送って、もう一文。


【一回配信付けずに俺たちだけでチーム練習やりませんか?】


するとすぐにやっさんから反応が返ってきた。


【いいね!!!やりましょう!!!】


そしてりゅいりんさんからも返事が来る。


【迷惑をおかけしてごめんなさい。私もそれでやりたいです】


謝らないでください、と打ちかけた文を消して、できる限り事務的に返した。


【わかりました。じゃあ明日の配信夜にして、その前にやりましょう】


パソコンを閉じて、目をつむる。なんだかひどく体が重かった。


***


 練習枠3日目。朝早く起きて…といっても昼間に、おーぶを起動する。


『それじゃあ、やりますか』


「配信外なんで、ばんばん言っていきましょ?もうタブーワードもぶっぱなしていくんで」


〖はい…!おねがいします〗


『りゅいりんさん気を付けて。こいつマジで裏だと怖いから』


「ねぇもうほんとにやめて。そんなに怖くないから!」


『ふへへへw覚悟したほうがいいよ』


〖ふふふ、はい〗


…裏だと怖いとか、そういうネガキャンはほんとにやめてほしいが、今回に限ってはあながち間違いではない。

 とりあえず、りゅいりんさんには報告を忘れがちな癖を直してもらわなくてはいけない。全員の配信のためにも。


 では以後ダイジェスト。


「やっさん行っていいよ」


〖……あっ…〗


『え、待ってりゅいちゃん死んだ?』


〖ごめんなさい…〗


「りゅいりんさん、報告忘れないで」


〖は、はい!ごめんなさい…〗


「やっさんカバーお願い」


『らじゃ』


「右奥、敵3」


〖………〗


「りゅいりんさん?キルした?」


〖あっ…はい〗


「キルしたら言って?キルログ見るより楽だから」


〖は、はい〗


『リオくん、そこ前いるよー』


「さんきゅっ、おっけやった」


『ないすー』


「あ、まって自爆―――」


『なにしとんねぇぇぇぇん!』


「マジでごめんなさい。俺死にました。二人頑張って!!」


『りゅいちゃん!?いるよ!?』


〖あっあっ、ごめんなさい!〗


「やっさん後ろ!」


『え、あ、ぴやぁぁああああああああ』


〖……っあ、い、行きます!前に〗


「りょーかい!」


『地雷かけます』


〖了解です〗


「あ、アビ発動します」


『おっけー』


〖………あ、し、死にました!〗


「はい、報告アザマス!」


『ごめーん!後ろいた!』


「死んだ!?」


『死んだ』


「マジか!後ろ?」


〖…っ、いました!シールド開きます〗


「ナァイスぅ!!!」


『リオ、左だ!あの建物!』


「わかった撃つわ。りゅいりんさん隠れて」


〖はい!〗


「おっけ、キル!」


『ナイス!!』


〖…………〗


「まってりゅいりんさん、そっちだめだ!」


〖あ、ごめんなさい…〗


『報告報告ー、忘れず行こー』


「あー、落石イベント来たわ!建物から離れて!」


〖っあ!ごめんなさい死にました〗


「大丈夫!やっさん早く!」


『んふふ、ごめんボクも死んだわ』


「おいマジか」


〖後ろキルしました!!左にまだ3います〗


「了解、ナイス!」


『2やった2やった』


「ナイスナイスナイスぅ!」


『あ、でもごめんボク死ぬ』


〖カバー行きます!〗


「そろそろボンブ投げてもいいかも」


『わかった』


〖あ、私行きます〗


「あ、敵きた!」


『まってまって、ボクまだチャージ中!』


〖私もカバー難しいです。ごめんなさい!」


「死ぬぁああぁぁぁぁあぁああぁ」


『わぁあ、こっち来んなあぁぁぁぁああぁぁあ』


〖あれ地雷―――きゃあああああ!〗


………………そして終わらない戦いが続く。


***


「……えー…聞こえますかー……」


【元気なっ!】

【わこリオ】

【どうした】

【声枯れてるやん】


「ふふふ…じゃ、やってくぞーい」


『おー…リオくん来たー…』


〖それじゃあ…早速ゲーム始めますか?〗


「んー…行くかぁ」


【やつりゅいも元気ない】

【え、なに?昨日荒れたの気にしてる感じ?】

【みんな萎れてるー】

【おい!気をしっかり持て!ここで寝たら死んでしまうぞ!!】

【雪山で遭難先輩沸いてるんだけど】


ついさっきまでやっていたゲームを白々しくもう一度開く。正直隠す必要もないと思うが(なんならバレてそう)、何が火種になるかわからない今下手な言動はよしたほうがいいだろう。


『よし、じゃ、行きますか!』


「おー」


〖頑張りますっ〗


――――もうダイジェストは必要ないと思うので、結果だけ。


 10試合中1位1回・2位1回・3位3回・残りはランキング外。

 昨日に比べて、如実に好成績だった。


【おおお!!!】

【いい感じじゃない!?】

【リオ、練習した?めっちゃキャリーできてた】

【いやなによりりゅーいでしょ!】

【チームワークが上がって来たぁ!!】


コメント欄も平和に盛り上がっている。……ただ、プレイヤーはもうすっかり精根尽き果ててしまいまして。


「…じゃ、今日はこれくらいにしますか…」


『そうだねー…あー、疲れたぁ…』


〖お…お疲れさまでした〗


 正直一刻も早く寝たかった俺は、通話を繋げたまま配信を締めにかかった。


「はい、じゃあみんなお疲れ様でした。配信に来てくれてありがとう。おやすみ」


【爆速!】

【これは疲れてんなぁ】

【おつリオ~】


 すぐに配信を閉じた俺につられたのか、二人もそのまま配信を閉じて、必然通話を繋げたまま反省会に突入した。


 しばらく3人で今日含め今までの反省会をして、そこから軽く雑談が始まった。


「そういえば、皆さん昨日のアーカイブどうしました?消そうか迷ったんですけど…」


唐突ともいえるタイミングで、触れづらい昨日の配信について話題を振った。二人の意見によっては消すべきともいえる内容だったので、話を聞きたいと朝から思っていたのだ。


『あー、あれね』


やっさんが気まずそうに笑う。


『ボクは、消しちゃった。というのもコメントをそのまま配信画面にのっけててさ~。見せられる状況じゃないなーと思って消したわ。リオくんはアーカイブ残ってるんだよね?』


「…はい、一応。コメントとチャットは非表示ですけど」


〖…私は、やつはしさんと同じ理由で消しました。…それと、残っていると後から知ったリスナーさんがお二人の配信に行っちゃいそうで……〗


『あー、それ!ボクも怖かったんだよね~』


「わかります。俺もそれで消すか迷ったんですよね…どうしましょう、今からでも消したほうがいいですかね?」


『いや?チャットもコメントも閉じてるんでしょ?別にいいんじゃない。それに練習枠2日目の配信がどこにも残ってないとやっぱり違和感でしょ』


〖私のせいでイライラしちゃうリスナーさんはいると思うんですけど、正直怖いのってリスナーさん同士の喧嘩で…コメント欄が閉じられていればこっちの配信が消えてる限りマシじゃないかなって…思うんですけど…〗


「…そうですね。俺のアーカイブは残しときます。そのせいで鳩コメとかがいっちゃったらごめんなさい」


『大丈夫大丈夫。そんなん気にしてたら配信者なんかやってられんわ』


〖私が原因で荒れちゃったやつなんで…リオさんが謝る必要は本当にないです〗


『にしても、昨日に比べて今日は平和だったねぇ~やっぱ練習の成果が出たかなぁ。ボクリスナーにめちゃくちゃうまいって言われたよ!』


りゅいりんさんの声が小さくしぼんだのを気にかけてか、やっさんが調子を明るくして話を変える。


〖本当に練習助かりました!私もミスばっかりだったのが大分減って…お二人のおかげです!〗


「りゅいりんさんの助けになれたならよかった。それにしてもあれ、全員のPSあがりますし、やって損はないですよね」


『絆もどんどん強くなるしね!』


〖こ、これからもやりたいですっ!〗


「俺もです」


『けどまぁ、もうちょっと短めにしよーね?マジで僕ら配信前に疲れすぎ』


〖あははっ〗


初めて、りゅいりんさんの心の底から出たような明るい笑い声を聞いた。引っ込み思案ではあるが、根は明るく優しい女の子なのだろう。


「じゃ、明日からも頑張るために今日はしっかり寝ましょう!」


『ん、おやすみぃ』


〖おやすみなさい、です!〗


やっとアイスブレイク、練習枠3日目終了!


***


 時が流れまして、練習枠最終日。


「いよいよ明日本番っすねー!」


〖あぅぅ…緊張してきました…〗


『大丈夫、今日まで培ったもん出し切ろうぜ』


俺らも視聴者もすでに最高にたかぶっている。毎年参加させていただいているとはいえ、この緊張がほどけることはないだろう。


 今日まで、配信前の一時間練習と長時間配信を毎日欠かさず行った。昨日はやっさんがどうしても抜けられない用事でいなかったが、今日プレイした感じ、なまりは一切なかった。


 俺のプレミ対策も、やっさんのマウス問題も、りゅいりんさんの報告レスも、すべてできる限りは解決した…つもりだ。


 明日、全力で立ち向かうしかない。


「…よし、じゃあ明日に備えて今日はちょっと早めですけどここらへんにしますか」


『うぃーす。明日頑張ろうな』


〖はい!…それじゃ、おやすみなさい〗


通話を抜ける。明日は事前裏練習は時間的に取れないので、今度通話に入るときはもう本番だろう。


「…じゃ、皆も今日まで付き合ってくれてありがとう」


【いいってことよ】

【一緒に成長見れて楽しかった!】

【チームメイトになれた気分だったよ】

【明日絶対勝ってね】


「うん。ありがとう。明日も応援ください」


【まかせろ】

【どこよりも盛り上げる!!】

【知ってたか?祭は前日からもう始まってるんだぜ…?】


「それじゃあ、おまえらもたっぷり休んでくれ。おつ」


【おっつぅ】

【おつです】

【明日楽しみ!】

【おやすみー】


 配信を閉じる。改めてSNSにおーぶ祭の宣伝をして、ベッドに入った。


 さぁ、祭がはじまる。


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