第4話 個人情報とストーカー

 前述の、

「遊び」

 という言葉の、

「言葉の魔力」

 というものであるが、実はこの時、あかねも別の発想をしていた。

 というのは、あかねが、

「遊び」

 という言葉を聞くと、他に何かが思い浮かんだとしても、自分にとって、切っても切り離せない因縁めいたものがあるのだった。

 というのは、あかねにとって、

「二人の介錯とも違っている」

 といってもいいが、逆に、それぞれの共通点を有したという意味で、

「その真ん中に位置している」

 といってもいいだろう。

 というのは、彼女が思った、

「遊び」

 というのは、

「風俗」

 のことであった。

「女と男が、金銭契約において、その一定の時間、架空の恋愛をする」

 という認識でいいのか。それとも、

「男性の性的欲求を、お金を払って、女性が解消してあげる」

 と言えばいいのか。

「潔癖症の人」

 であれば、そんな風俗営業を毛嫌いする人も多いだろうが、ここの三人は、別に、それを、

「悪いことだ」

 とは思っていない。

 むしと、

「お金で、ストレスを解消できるのであれば、女性側も、お金が手に入るのだから、ウィンウィンの関係だ」

 ということで、

「何が悪いということなのか?」

 と考えれば、別に問題ではないだろう。

 実は。あかねは、ここでアルバイトをしながら、こちらに入っていない時、風俗に行っていたのだ。

 もちろん、そのことを知っているのは、ママさんだけだった。学校でも友達に話したこともないし、店の客に言えるわけもない。

 何といっても、

「男性客が多いからだ」

 ということになる。

 下手に話して、噂にでもなれば、

「身バレというのが怖い」

 からである。

 そう、風俗で働く理由は、さまざまであろうが、彼女たちが一番怖がっているのが、

「普段の自分を特定される」

 ということであった。

 もちろん、ストーカーなどになられるのも怖いことであるが、それよりも、

「客の中に、知り合いがいると、厄介だ」

 ということであった。

「大学の男性の友達であったり、教授であったり」

 それくらいなら、まだマシであるが、ひどい場合は、

「親や親せき」

 ということもあったりすると話に聞く。

 実際に、昔には、

「家族が来た」

 ということがあり、家族は、自分が客で来たという立場をすっかり忘れてか、働いている本人であったり、店に対して、文句を並び立てる。

 それこそ、

「遊びのない」

 くらいのマシンガンでまくし立ててくるのだから、店側も、女の子も、たじたじになった。

 もちろん、店側も彼女も、合法的に働いているのだから、別に文句を言われる筋合いということもあるわけはない。

 それなのに、

「先手必勝」

 で、相手に押し切られると、いくら合法でも、

「保護者」

 としての立場からであれば、どうしようもない。

 特に、以前のように、成人が二十歳からということであれば、未成年の女の子であったとすれば、お店での契約には、

「法定代理人」

 としての、

「親権者」

 が、代理で契約をしなければいけないわけなので、

「知らなかった」

 というのは許されない。

 しかも、店側も、

「未成年と知りながら」

 ということであれば、訴えられても文句が言えない状態だ。

 そうなると、女の子の家族だけの問題ではなく、店側としても、経営が先ゆかなくなってしまう。

 それだけは避けなければならないということで、店側も、神経質になっているのであった。

 ただ、これは、

「店舗型」

 であれば、何とかなるということでもあった。

 というのが、

「デリヘル」

 などという、いわゆる、

「派遣型」

 であれば、そうもいかない。

 店舗型であれば、客を待合室に通して、そこで、昔であれば、

「マジックミラー」

 であったり、今だったら、

「防犯カメラ」

 などを、女の子に確認させて、それで、未然に防ぐこともできる。

 そもそも、客がお部屋に入る時は、他の客とバッティングしないようにている。

 それは、帰宅する客でも同じことで、これは、

「身バレ」

 の問題ではなく、

「客の心理」

 というものを考えた、最低限のマナーといってもいいだろう。

 ただ、これが、

「派遣型」

 となると、そうもいかない。

「ホテルの部屋」

 というのでも危ないのに、中には、

「客の自宅」

 というのもある。

 女の子によっては、

「自宅への派遣は、NGとしている女の子も多く、相手の部屋なのだから、少々のことがあっても、踏み込むことはできない」

 といえるのだ。

 特に、今のように、

「個人情報保護法」

 などというのが厳しくなって、

「プライバシーの保護」

 と言われるようになった。

 しかし、逆に、もう一つ、

「ストーカー規制法」

 というものもできてきて、

「人を追いかけて、待ち伏せしたり、嫌がらせなどをする」

 という、いわゆる、

「ストーカー」

 というものである。

 異性に対してというのが、そのほとんどであるが、

「付き合いたいと思って、相手に告白をしたが、相手から、けんもほろろで断られた」

 という場合や、

「勝手な思い込みで、自分が好かれていると思っているのに、相手が、まったく好きな素振りを途中から見せなくなった」

 という場合などがそうであろう、

 特に後者などは、本人の思い込みであり、最初こそ、相手も、

「社交辞令」

 で、にこやかに応対していたが、そのうちに、相手の本性が分かってくると、

「あの人、気持ち悪いわ」

 ということで、露骨に嫌がる素振りを見せる。

 しかし、相手は

「俺のことが好きなんじゃないのか?」

 と勝手に思い込んでいるので、

「自分のことを嫌がるはずはない」

 という思い込みから、

「少々のことなら許される」

 と思うのだろう。

 しかし、相手はすでに、

「気持ち悪い」

 と思っていて、しかも、本人が思い込んでいるだけなので、その溝が埋まるはずがない。だから、本人は、

「これくらいのこと」

 と思っているようなことを、相手は、

「こんなに気持ち悪いことはない」

 といって周りに操舵したり、警察の、生活安全課に相談したりするのだろう。

 しかし、警察は、基本的に、

「何かなければ、動かない」

 ということなので、その人のケイタイから連絡があれば、

「緊急連絡」

 ということで、警察が、

「110番扱い」

 ということで、

「警察が、真っ先にパトランプとサイレンを鳴らして、飛んできてくれる」

 というくらいの手続きはしてくれるようだ。

 実際に、10数年前に、登録してもらった人がいて、その人の話では、

「警察で、3か月は登録してくれているようで、それでも危ない状態であれば、申告して、延長してもらえる」

 ということになるようだ。

 いくら警察が、

「何もしない」

 といっても、

「もし、相手のストーカーが誰なのか特定されているのであれば、警察から連絡が入る」

 ということもあるだろう。

 中にはそれで、騒ぎが収まるという人もいるだろう、

 何といっても、警察が介入してくるのだから、相手もびっくりである。

 そして、

「自分が誰なのか分かったうえで、相手にストーカー行為を繰り返している人の中には、自分が悪いことをしているという意識がない」

 という人が多いということであろう。

 つまりは、

「警察の、ツルの一声で、ストーカーの方も、自分が罪を犯しているということに初めて気づき、もうやめる」

 というわけである。

 しかし、たちが悪いやつは、それでもやめない。

 下手をすると、

「この女、警察にいいつけやがって」

 とばかりに、余計にエスカレートする場合がある。

 その時のストーカーの感情としては、

「かわいさ余って憎さ百倍」

 ということになるのだろう。

 つまりは、警察というものが、

「何かなければ、動かない」

 ということは分かっているので、

「少々くらいは大丈夫だ」

 と思うのか、それとも、

「ストーカーになってでも、相手が憎いということを示したい」

 ということなのかということである。

 ドアノブのところに、スーパーのレジ袋を掛けておいて、その中に、

「ネズミの死骸」

 などと入れておく。

 などというものや、

「無言電話を、毎日夜中中、かけ続ける」

 などということも、

「よくある手口」

 だったのだ。

 だから、ちょうど、世紀末くらいの頃から、

「個人情報保護」

 という問題と、

「ストーカー規制法」

 という問題とが、ほぼ、同時くらいに起こってきたというのも、当然といえば、当然だったであろう。

 そして、個人情報保護ということであれば、当時、普及してきた、インターネットなどによるものが大きい影響を与えていた。

 というのは、

「コンピュータウイルス」

 という、

「サイバーテロ」

 あるいは、

「サイバー詐欺」

 の魁と呼ばれるものがあった。

 これは、

「ネット回線から侵入し、人の個人情報を盗んだりするもので、さらには、いったこともないサイトで、課金したかのような動作をするという、まるで、人間の身体に侵入し、健康を蝕むという、そんな状態を引き起こす」

 というようなものであった。

 これは、一種の、

「いたちごっこ」

 というものであり、

「ハッカーと呼ばれる連中が、コンピュータウイルスを開発して、それをネット上に蔓延させるところから始まり、その正体を知った、警察や、民間のソフト会社であったりが、その駆除ソフトを開発し、市販させる」

 ということであり、

「その間に、ハッカーがまた新しいウイルスを開発する」

 ということで、

「永遠に終わることのない、堂々巡りを繰り返している」

 といってもいいだろう。

 ただ、その時、少しうがった考え方をするのであれば。

「駆除ソフトを開発している人が、実は、裏で、コンピュータウイルスを開発しているのではないか?」

 ともいえるのではないか?

「そもそも、ウイルスを開発したのだから、その理屈は分かっているので、その仕掛けを解明する手間がいらない分、他の会社よりも早く開発でき、その分、収益が得られる」

 ということになるだろう。

 それが、いわゆる、

「いたちごっこ」

 というものに拍車をかけているようで、

「ただの噂」

 ということであればいい

 ということになるのだ。

 もし、そんな話を、根拠のない状態で、特定の企業を名指しすれば、それこそ、

「誹謗中傷」

 であったり、

「侮辱罪」

 ということになりかねない。

 特に、今の時代は、SNSというものを使えば、いくらでも、人や会社を誹謗中傷したり、侮辱できることで、最近では、

「自殺者が増えた」

 ということで、

「深刻な社会問題」

 となっているのだ。

 だが、この問題は、

「SNS」

 というものが、出てきた時から、

「こうなることは、最初から分かっていた」

 という人もいるだろう。

 確かに、

「SNSは便利だけど、その分、リスクも大きい」

 と言われてもいるようで、それを考えると、確かに、大きな問題となっていた。

 それは、あかねの勤める、

「風俗」

 というものにも言えることで、

「客が、塩対応された」

 ということから、ある種の掲示板などを使って、女の子が、源氏名なのをいいことに、源氏名を名指しで、誹謗中傷や悪口を書いている。

 これは、源氏名なので、

「個人情報の漏洩」

 というわけではない。

「こういう掲示板で相手を誹謗中傷するという意味では、却ってやりやすい」

 ということになる。

 ただ、最近では、規制も緩和されてきたようで、

「そんな誹謗中傷をした相手を特定する」

 という意味で、

「開示請求」

 を行ったり、

「侮辱罪」

「名誉棄損」

 という罪も、今までに比べれば、厳しくなったりしていることだろう。

 しかし、実際に、開示請求を行い、相手を特定したことで、相手を訴えるとしても、弁護士費用などの、

「支出」

 に比べて、相手からもらえるであろう、

「賠償金」

 などは、大したことはないということになる。

 つまりは、

「費用対効果という意味で、裁判沙汰にすると、却って損をする」

 ということになりかねないのだ。

 それなら、そんな相手なのだから、

「余罪もあるだろう」

 ということで、他の被害者を探して、その人たちと、

「集団訴訟」

 ということにすればどうだろう?

 費用対効果が実際に上がらないとしても、

「相手が、もう復帰できない」

 というくらいのところまでは行けるに違いない。

 それを考えると、

「仕返し」

 ということで考えれば、

「できるだけの溜飲を下げることはできるだろう」

 といえるだろう。

 それだけでも、今までからすれば、大いに進歩である。

 ちょっと前までだったら、開示請求すらできなかっただろう。

 開示請求というのは、

「相手を特定する」

 ということなので、それこそ、

「個人情報保護」

 という観点から、まともにできるわけはないということになるのだろう。

 特に、相手が、

「プロバイダー」

 だったりするので、

「顧客の信頼が大切」

 ということであろう。

 実際に開示請求にこたえて、調べてみると、

「間違いだった」

 などということになると、それこそ、

「取り返しがつかない」

 ということになる。

 もちろん、請求者は、一連の証拠を提示してからのことであろうが、今のように、法律で、

「開示請求が緩和された」

 ということであれば、プロバイダーとしても、

「それならそれで、問題ない」

 といってもいいであろう。

 掲示板の誹謗中傷の中には、

「塩対応に対しての、客の恨み」

 というのもあるだろうが、それよりも多いと言われているのが、

「同業者、特に同じ店に勤めている女の子の、嫌がらせ」

 というのが多いという。

「自分よりも人気がある」

 ということであったりの、やっかみや、

「今まで自分を指名してくれていた客が、その人に乗り換えた」

 などということである。

 確かに、

「客を取られた」

 という思いもあるのだろうが、しかし、その選択権は、あくまでも、客にあるわけである。

「毎回同じ子だと飽きるので、たまには、違う子に入ろう」

 と思うのは、当たり前のことだ。

 食事に行って、いくら好きだからといって、ほぼ毎日にように、

「回転ずし」

 を食べていたとして、さすがに飽きたということで、

「牛丼屋に行ってみたら、おいしかった」

 といって、そっちの店に入り浸るようになるというのは、人間なら普通にあることである。

 だから、それを、

「取られた」

 という感覚になり、相手の女の子を恨むというのは、筋違いもいいところである。

 もし、

「そうだった」

 としても、

「それは、彼女の営業努力が足りなかったのか?」

 あるいは、

「相手の女の子が、その男性に性格的にか、身体の相性があったのか?」

 ということなので、少なくとも、

「彼女を恨む」

 というのは、お門違いもいいところであろう。

 それを考えると、

「誹謗中傷」

 というのは、ほとんどにおいて、

「している人の思い込みであったり、被害妄想の表れでしかない」

 といえるのではないだろうか?

 そんなことを考えてみると、

「開示請求ができるようになったり」

 あるいは、

「訴えた場合の費用対効果というものが、それほどの差でなくなれば、

「行動に移す」

 という人が増えてくることであろう。

 それを思うと、

「相手に対して、恨みを晴らす」

 ということはもちろんのことながら、やる方としても、

「そんなに簡単いできることではない」

 ということで、

「抑止力」

 としての効果は、

「しっかりとあるのではないか?」

 といえることであろう。

 これは、同じ抑止力という意味での、

「核の抑止力」

 とは違うものであろうと思える。

 ただ、

「核の抑止力」

 というのも、最初は、

「これで戦争はなくなる」

 と誰もが信じていたことだったが、実際には、そんなことはなかった。

「神話」

 といわれるようなことでも、どれほど、

「ただのでまかせにすぎなかった」

 というのがあったことか。

 そもそも、

「バブル崩壊」

 の時の、

「銀行破綻はありえない」

 と言われていた神話が、まず最初に、銀行が破綻したということから始まった、

「バブルの崩壊」

 ではなかったか。

「銀行は絶対に潰れない」

 と言われていたのだ。

 何といっても、

「銀行が潰れそうになれば、国が助ける」 

 ということだったからだ。

 しかし、

「バブル崩壊」

 においては、そんなことはなかった。

 何といっても、

「バブルが崩壊することで、破綻する銀行は、一つや二つではない」

 ということだからだ。

 ほとんどの銀行が虫の息のようになっているのだから、政府が助けるところではない。生き残るためにとられた策というのは、

「吸収合併」

 という道しかなかったということであろう。

 それにより、何とか、銀行破綻がまぬがれ、一般企業も同じように、吸収合併が繰り返され、崩壊前とは、まったく違った世界が見えてきたというのが、崩壊後の経済であった。

 神話として、次にあったのが、

「インフラ神話」

 といってもいいだろう。

「少々の巨大地震でも、大丈夫な耐震構造になっている」

 ということだったはずだが、確かに、想定以上の震度だったのかも知れないが。

「阪神大震災」

 では、高速道路が横倒しという状態だった。

 そして、さらに、10年くらい前に起こった。

「東日本大震災」

 というものでは、

「原発が事故を起こし、放射能流出」

 となり、人が住めない状態になった。

 これは、

「人災:

 ということであったが、これも、

「人災であろうが、何であろうが、神話の崩壊ということには変わりはない」

 ということである。

 それだけ、世の中には、

「不敗神話」

 というものが流れていたが、何かあるごとに、そのほとんどが崩壊していくのだから、

「どれほどひどいことなのか?」

 ということなのであろう。

 それを思うと、

「ここ30年という間に、世の中は、ほとんどまったく変わってしまった」

 といってもいいだろう。

 それを思うと、

「個人情報保護」

 であったり、

「ストーカー問題」

 というのは、

「一つの時代の転換点に出てきた、

「転換のための一つの神話崩壊」

 に近いといってもいいだろう。


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