第16話 『置き土産(宿題)』
その男…インコグニートの言っている事は一応の的を射ていた、それに瑠偉ちゃんや三橋さんが口を差し挟まないのも一定の理解を示しているからだろう。
しかし油断はしてはならなかった、なぜならばこの後最大の“問い掛け”が行われたからである。
「随分と無駄な話しをしちまったが、そろそろお時間だ―――お
「ほう…このまま逃げると言うか―――勝ち逃げはさせんぞ」
「『逃げる』って随分な言い草じゃねえの、それに手前ぇら相手に圧倒的なオレがなぜ逃げなきゃならねぇ、勘違いをしてるんじゃねえよ、オレがこの場から離れにゃならんのは“おこばあちゃま”からの言い付けもあるからな」
「あの人の言い付け…って何なの」
「その質問に
「ちょっと待て―――『2年前』?『2年前の大型アップデート』だと…」
「確かにあのアブデで今までとはかなり違っちゃったからね」
「それより何なの…あの人が想定してた最悪の事態って」
今の三橋さんは完全に我を忘れている…と言うよりあれが本当の
「繰り返す様だが、この世界は『仮想世界』―――言ったら人間の手で創り出した世界だ、けれどそうでなくなったとしたら?」
「どう言う―――事だ、『そうでなくなったとしたら』とは」
「
「……そんな、馬鹿な―――」
「どうやら気付いちまったようだなあ?!まあ、あれだけヒントをくれてやったんだ、判らなけりゃこのままご愁傷様だったって奴だよな、まあつまりそう言う事だ、『トリプルブリッヂ・コーポレーション』のお嬢さぁん?あんたが雇い入れた例のプログラマーな、人間じゃねえんだ―――
「
「『神』はさすがに言い過ぎだなあ―――まあそこまでじゃないが少なくとも神の恩恵、庇護の下にあると言ってやった方が判り易いか」
そう、あの『2年前の大型アップデート』の時すでに『プログレッシブ・オンライン』は
けれどその事を察したインコグニートの『雇い主』である“おこばあちゃま”なる存在が、インコグニートを使って事の真相を明らかにしようとしていた…少なくとも僕にはそう映っていた。
けれどもインコグニートの『雇い主』である“おこばあちゃま”なる存在の事を、傾きかけた実家の建て直しの為に手を差し伸べた救世主として
それにしても、『よく出来た
けれど…そんな『神』に近しく、等しい存在がどうしてこんな事を?
「貴様に一つ訪ねよう、その“おこばあちゃま”とやらは、なぜに仮想世界を現実世界と同等にしようとしていた」
「ああ゛?おかしな事を言うもんじゃねえ…“おこばあちゃま”は画期的なゲームシステムプログラムをそこのお
「それってどう言う事?その事を
「ああーその為にオレはここに来た、けどなそいつを探そうとしてる最中に感じなくなったんだわ―――そいつの気配」
「ん~?妙な事を言うわね…急に感じなくなるってそんな事―――」
「もしかしてがるどっち?!」
その三橋さんの一言でここにいないもう1人の僕達の仲間の事を思い出していた、確かにヒルダさんは『ちょっと調べる事がある』ってここ数日僕達とは別に行動をしてたもんな…
と言うより待って?インコグニートが探りながらも途中で気配を追えなくなった他の神連中の誰か…を、ヒルダさんがそうと判ってて捕まえたとしたら―――
「おおっと、そうこうしてる内にヤベえヤツが近付いている様だなあ…このまま『ハイ、サイナラ』するのは名残惜しいと言った処だが、手前ぇらには不思議な縁も感じる…『また会う機会』とは言っても、またいつ
「『宿題』だと?どう言うつもりだ」
「『どう言ったつもり』もねえよ、まあそんなに根を詰めずに暇な時に考えりゃいい、手前ぇらよりも先輩が出すんだ有り難く拝聴しな」
すると、そんなヒルダさんの気配を感じ取ったのかインコグニートは僕達の前から去ろうとしていた、しかも“宿題”と言う置き土産までして。
それにインコグニートから出された“宿題”と言うのが、また今後の僕達のゲームライフを送る上でも重要な
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私が以前から感じてた違和を頼りに、ここ最近この
で
事後の報告を“あるじ”に上げ、踏ん捕まえたヤツを色々取り調べちゃったりする機関に受け渡し、そして意気揚々と皆の前に来たわけなのですがーーー…
「はて?どったのみっちょん、えらく元気なさげだね」
「ああ、その事なのだがなリーゼロッテよ」
「つて、うわ!なにこのイケメンでイケボなあんた―――誰?」
「ああ…“僕”だよ“僕”」
「『僕』―――ってもしかしなくってもケントぉ?はーーー変わりゃ変わるもんだなあ、それよりもだよ、なしてみっちょんしょんぼりん?」
「実はわたし達もヒルダさんの手伝いがしたくってね、わたし達3人でその事を調べてたら…」
「で、屈強な感じのする“ガチムチ髭面中年男”が嫁ちゃんか…違和しか感じないけどーーーそしたらどしたの?」
「『インコグニート』って言う人が何もない空間から突然現れて、僕達の知らないような事実を突き付けてきたんだ、そしたら…」
「『インコグニート』ぉ?『誰でもない者』ってふざけてやがんのかそいつは―――って、それよりケント達も知らないような事実って?」
「なんでもその人、自分の『雇い主』である“おこばあちゃま”って言う人から、三橋さんに提供したこのゲームのシステムプログラムが人間よりも上位存在に乗っ取られようとしてたんだって―――その為に雇われて調べていたって…」
僕と瑠偉ちゃんとでヒルダさんが駆けつけてくるまでの概要を話してみた、すると瑠偉ちゃんが話した事にヒルダさんは眉を
そいつ―――ふざけた名前を名乗る以外にふざけた事をしてくれたもんだな…。
まだケントや嫁ちゃん、みっちょん達の文明レベルは低いと言っていい、それにこの時代は神や妖怪と言った様な存在が信じられなくなっている。
ん゛があ゛~~~全く―――余計な仕事を増やしやがって!しかも問題はこの子達がそいつの言ってた事をどれだけ理解してるか…まあ『全部
「あ゛~~~いいかね?君達…『アナタハ カミヲ シンジマスカア~?』」
「うーーーん…僕もこれまでは信じていなかったよ、だってほら、日本て外国から視たら割と不思議な国でさ、『クリスマス』を行う一方で年末年始には『初詣』に出掛けるし…」
「そう言えばそうよね、それに初詣と一口に言っても大晦日に『お寺で除夜の鐘つき』する一方で元日には『神社にお参り』をするし…」
「それってどの辺が不思議なワケ?」
「『クリスマス』ってさ、キリスト教と言う外国の宗教の聖人の誕生を祝う日なんだよ、それに『除夜の鐘つき』って仏教で言う処の
「そもそも日本は『仏教』の国って捉えがちなんだけど、その『仏教』もそもそもはインドから発生して中国、そして韓国から入ってきたっていうし、元々あったのは『神道』で…」
「え…待て待て待て、ちょ待てよ!
「ないね(キッパリ)、それにお年寄りはどうかは知らないけれど僕達みたいな若年層はすでに宗教観てものは無いし…」
「まあだから色々な宗教が混在してるって処ね」
「だけど、そうは行かなくなった―――三橋さんの話しやインコグニートと言う人の話しを聞いてて“いる”ものと思わざるを得なくなっちゃったんだ」
はーーーい、確定しました、しちゃいました。
んなろぉー怨むぞインコグニートぉ!お
あ゛ーーーけどこの子達は賢いから他には拡散しないだろ、そこは最低限信じてあげようか…
だと、したらだ―――もしかするとこれは機会なんじゃなかろうかと私は思い始めた、え…なんの?と仰られますが、そんなの―――
「よし、判った それじゃこの際だ、このヒルデガルドさんの“真実”と言うのを話してあげよう」
「ヒルデさんの―――“真実”?それって『エルフの王国のお后様』だよねぇ?」
「あーーーケントにはそこまでは話してあげたからね、けれどそれまでの事は話してあげていない」
「ヒルダさんてそれまでの“真実”があったんですか?!」
「あるよ、当然じゃない―――それに『エルフの王国のお后様』なんて状況に流されるがままになっちゃってたもんだし」
そこで僕と瑠偉ちゃん(と、あと三橋さん)はヒルダさんの“真実”に
「そもそもの話しからしてあげると、私に名前と言うものはついていない、けれども呼ぶのに不便だからと言う事で“あるじ”から付けられたのが【閉塞した世界に躍動する“光”】だ」
「えっ?ちょっと待って?だとしたら『ヒルデガルド』って言うのは―――」
「私達の“あるじ”が推めている事業のひとつに“特別区画”というものがあってさ、その区画を監視・調査する為に現地へと赴いた―――そこで本来なら【閉塞した世界に躍動する“光”】と名乗ってもいいけど、なんだか舌噛みそうでしょ?まあ事実私も何回か舌噛んでるし…だから便宜上『ヒルデガルド』と名乗る事にしたってわけ」
「まあーーー確かに名前じゃない名前だし、何だか長そうだし…」
「けれどヒルダさん本人が舌を噛んじゃうって―――らしいわぁ」
「それより…がるどっち、“あるじ”って言ってたけど、その“あるじ”って」
そう、ヒルダさんが名乗っている『ヒルデガルド』と言うのは、ヒルダさんと言う一個人の事を便宜上呼びやすくさせたもので、本来の呼び名と言うのは名前ですらない名前のようなものだったのだ。
それに度々ヒルダさんは自身の『“あるじ”』なる存在の事を口にしていたのだけど、いよいよその『“あるじ”』―――ヒルダさんが所属している偉い人の事が話されたのだ。
「ここからが大事な処、“あるじ”とは私達をお
「『天空』―――って事は…」
「天空神ウラノス?!」
「って…そ、そんな神様がヒルダさんの“
「ふっふっふ、驚いたかね?ぅ若いお嬢さん方―――そう言う事ぢゃ、私達は“
「だけどヒルダさん、“
「よい―――実に良い質問ぢゃケントよ…お前に教える事は最早ない」
「いや、あの―――ちゃんと質問には
「あ゛ーーー本来ならね、ここまでの事を話してあげるのも問題なのよ、だってさケント達は今回の事が起こるまで人間よりも霊格が上の存在の事って知らなかったし、信じようとはしなかったでしょ」
「確かに―――そう言った存在はTV番組の特集で組まれる事はあっても、内容を面白おかしくする一方で
「と、言う事は『宇宙人』も『UFO』も『UMA』もいる?」
「んーーーまあーーー私もそこまで詳しい事は知らないけどさ、この世界に来てからこの方、この世界の事を観させてもらったけど…『UFO』とかは今の技術で出来ないことはないし、『UMA』なんて撮影技術が発達した
「そうか―――ヒルダさんは想像上の産物、古代ヨーロッパの古い伝承の存在だけだと思われていたのに、今こうして僕達の目の前にいる…」
そう、『エルフ』と言うのは古代ヨーロッパの古い伝承で語り継がれている『魔力を持った小人』の事だ、けれどここ最近の二次創作作品やゲーム、アニメの影響も伴って『男女共に見目麗しの容姿を持った耳の長い人型の種属』として認知されてきているのだ(そこへ行くとまさにヒルダさんはその通りだったから疑う余地すらなかったのだけど)。 それにヒルダさんから言われた様に僕達人間より霊格の高い存在の事を僕達は信じてこなかった、現代ではない中世…いわゆる『平安』とか『室町』だとか『江戸』までには“神様”や“妖怪”はその畏怖と共に信仰の対象にされてきた、とある地方では『
「実際の出来事…だった?」
「全部が全部そうじゃないとまでは言い切れないけれどね―――さてそれよりも、私は私の事情を話してやったよ、そろそろみっちょんが
“神様”や“妖怪”の件は理解するよりもまず呑み込む事にした、けれどもヒルダさんが気になった事…例のインコグニートからの告発のお蔭ですっかりと大人しくなってしまった三橋さんの事だ。
あの時は僕も瑠偉ちゃんも一緒にいたけれども、
しかし、ヒルダさんはそこも一定の理解は示してくれた…けれども、インコグニートの去り際に残していった『置き土産』に……
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「さあーて、それじゃあお待ちかね、
また随分な問い掛けをしてくれたもんだな…こんな難問、まだ人生経験が浅いケント達が答えられるとでも思っているのか?だがまあ…
それにしてもどうする?この
そのインコグニートの『
“真っ白”で“真っ
そんな早まった事をさせるわけには行かない、他の子達ならいざ知らず少なくともケント達はこの私が関わってしまっているのだ、だからあいつ《インコグニート》が次に再会する機会に、この私が……
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